蓮の反則アイテム 2
怒れる聖司をなだめ、私の方が今まであった事を話す。蓮を探して帰る前に、檻に閉じ込められた精霊を助けたいことも話した。
「私、蓮のこと殴っても許されるよね?勇者様だし今更私が殴ったところでへでもないだろうけど」
「まぁな、アイツのせいばかりとは言えないけど、そのお姫さんは蓮を追いかけてきてるからなぁ」
「しかも、勇者のくせに私を探せないとか、ありえないでしょ」
「あぁ、まぁな。それに関しては、うん」
なにかを言いよどみ、ジークに目をやる。口元を片手で隠し、中指で二度、自分の頬を叩いた。
これは内緒話があるときの合図だ。
今の場合、ジークを外に出して欲しいってことだろう。ぱっと思いつく用事では、そんなに時間が稼げるわけじゃないだろうけど、仕方ない。
「ジーク、なんかお腹すいちゃった。良く考えたらロームロームの串焼きを食べたっきりだし。聖司と食べるから翡翠にここに持ってきてくれないか聞いてきてよ」
そう頼むと、リーが聖司を信用できないと言っていることが引っ掛かるのか、部屋を出ようとしない。
「大丈夫だから。ほんとに。聖司のことは、良く知ってるでしょう?蓮も私も話しているんだから」
ジークと聖司は一卵性の双子のように似ている。ジークにはつい聖司の話をしてしまうのだ。少し迷った素振りを見せたけれど、ジークは何かあったら教えるようにと言い残して、部屋を出ていく。
それを確認してから、聖司はすばやくスマホを取り出した。しばらく黙ってスマホを操ると、私の目の前に突き出した。
そこには、見慣れた日本語で、『精霊王が精霊を使って、蓮が香蓮を探すことを邪魔している』と書いてあった。そして、『お前、スマホ持ってるか?』と続き、私が頷くととってこいと顎をしゃくるようにして、無言で命令する。
ジークが帰ってくる前に、用件を済ませたほうがいいのだろうと思って、スマホを入れてある引出しにピンポイントで空間をつなげてもらって、スマホを取り出した。
ここに来るときに、丁度スマホを手に持っていたから、あるにはあるのだ。
ただ、電気がないから充電切れで使い物になっていない。だから、お城の部屋に置きっぱなしだった。
スマホを手に聖司を仰ぎ見ると、携帯型の充電器を渡された。
「これ、常に充電されているように、蓮が作ってくれてあるから充電切れたら使うようにして。ちょっと嵩張るけど、さしっぱなしでも平気らしい。だけどこれ瞬間充電機能つきで充電一瞬で終わるけどな。俺帰っても手放せないわ、これ」
聖司の言うとおり、USBコードを差し込むと、赤いランプが瞬時に緑になり、充電完了を知らせてくれる。魔法がすごいのか、蓮が天才なのか…………。
久しぶりにスマホを立ち上げれば、懐かしい人口の明かりが目に痛い。
「うわぁ、感激。で?どうすんのこれ」
「赤外線通信だして、なんでもいいから、俺に受信させて。あぁ、写真とかでいいだろ」
言われるままに送ると、聖司は満足気に微笑んだ。さっとスマホを操作すれば、私のスマホが通知音を鳴らす。チャット式のアプリがメッセージがあることを知らせていた。
「なんで?!」
驚いて、慌てて開くと、聖司のアカウントからメッセージが入っていた。
『これで、俺と蓮のスマホにはつながるから。これは精霊魔法を使ってないから、精霊王に邪魔されることはない。まぁ、スマホの事は精霊王に黙っておいたほうがいいと思う』
そんなこと言われても、リーに隠し事など至難の業なんだけど。
『まぁ、日本語読めないだろ?精霊の魔法を使うとたぶん筒抜けで間違いない。蓮がお前のこと探せなかったのも精霊が邪魔しているからだと、俺は思う』
あぁ、それはあるかもしれない。
蓮を探すことに協力はしないと言っていた。ついでに邪魔しないとは聞いていない。
……………………リー、邪魔しているとしたら、ちょっと酷いと思うんだけど。
『ファーランは元日本人だから、日本語ばっちりだよ』
『じゃぁ、ちゃんと機能するってのは、やっぱり隠しておけ。いまから送る番号を登録しておけよ。蓮の番号だから、蓮に通じるはずだ』
「ちょっと、じゃぁ、そのネックレスいらないじゃん」
思わず口に出た。
『ネックレスの方が簡単なんだってよ。だいたい、スマホはこの世界で使うには目立ちすぎるだろ馬鹿』
便利アイテム使ってる聖司に言われたくないわ。
聖司は馴れてるから、高速で文字を表示させてくる。
『とにかく、蓮とお前が会うことを、精霊王が邪魔しているのは確かだと思う。今は蓮と合流することを優先しよう。ファーランってやつだって、電波がなければスマホは使えないと思っているんだろ?充電だけ出来るようになったっていって、しれっと使っとけばいいいだろ。だから、大事な話はスマホでするんだ。わかったな?』
頷いて、さっき作った指輪を自分の分としてさっと作る。そこにスマホと充電器をしまった。
聖司も、さっとたぶん蓮にメールを送ってからスマホをしまう。そうして、大きなため息をついた。
「まぁ、とりあえず無事で良かったし、会えて良かった」
「うん。聖司、探しに来てくれてありがとうね」
蓮と会えれば、きっと帰れる。
だから、それまでに私は決めなくちゃいけない。
自分の意思で、これからどうするかを。
「で?お前、蓮ぐらい魔法つかえるのか?」
興味深々で身を乗り出して聖司が訪ねてくる。
「まぁ、蓮のほうが上手だと思うけど。だって勇者でしょ?」
この世界最強は間違いなく蓮だと思う。
魔王を倒すために召喚されたのだから。精霊王が堕ちると魔王になるってことは、蓮は精霊王よりも強くなくてはいけないってことだ。まぁ、拮抗した力関係かもしれないけどさ。
「だよな。あーあ、俺もすこしぐらい使えればいいのに。なんだよ、お前ら二人して魔法つかえるとか、羨ましいぞ」
「まぁ、正しくは私が使えるわけじゃないけどね。精霊が力を貸してくれるってだけだから」
そう答えると同時にジークが戻ってきた。その手には、湯気のたった料理が乗せられている。
「まずは、スープだ。すぐにほかの料理も来る」
オニオンの香りが鼻をくすぐり、それが刺激になってお腹が大きな音を立てる。本当にお腹すいていたんだよ。
「ジークも一緒に食べようよ」
席をすすめれば、聖司の前にスープをおいてから、ひとつ頷いて私の隣に腰かけた。
次々と、風の精霊達が料理を運んでくれて、あっという間に机の上に隙間なく並べられた。なにが嬉しいって、気をきかせてくれたのか、ロームロームのステーキがある。
食べ損ねた串焼きを残念に思っていたから、とっても嬉しい。さすが翡翠だよ。私の事をよくわかってる。
「これはっ!」
目を見開いて聖司が、パンをじっと見つめる。
「これはっ!柔らかいパンだろっ!やったっ!!これが食べたかった!こっちのパン固すぎるんだよ!歯が折れるかと思ったぐらいだ」
喜ぶ聖司に嬉しくなる。そうだろう、そうだろう。翡翠の料理はなんでも美味しいんだからね。泣いて喜べ。
実際、聖司は泣きながらご飯を食べていた。
どうも、この世界の料理は口に合わなかったらしく、翡翠の料理が死ぬほどおいしく感じたとか。
基本固くて、塩の味付けっていう料理が多いから、いろいろな調味料を贅沢につかった複雑な味に慣れてしまっている私達には、物足りなく感じるものも多いから仕方ないんだけどね。
ご飯、大事だよ。翡翠のお料理食べれるようになって、私もめちゃくちゃ幸せ感じるもの。
顔が似ている…………いや、同じことも影響しているのか、ジークと聖司はとても気があうようで、ご飯を食べ終わる頃には、すっかり打ち解けていた。
リーとこれからの事を相談するのは、明日にして今日はもう眠ることにする。
聖司を客室に案内してもらい、一人で部屋に戻ると、まだリーは部屋にいなかった。
そっとスマホを取り出す。
すると、メッセージが送られてきていた。
慌ててアプリを開く。
蓮からのメッセージだった。




