変質者と私と幼馴染?!
蓮がいなくなってから、10年が過ぎてしまった。
あっと言う間のような、長かったような10年。
今でも私の胸元にはバラが揺れている。
私、礼羽 香蓮も24歳、微妙に結婚適齢期。彼氏はいるけど、まだ結婚の話は出ていない。もうそろそろいいかな?二年も付き合ってるし、彼とだったら一生共にするのも有りかもしれない。なぁ~んて思ったりもするけれど、実際はこう、決めてがないというか。まだ先でもいいいかと思ったりもする。
そういえば、最近仕事が忙しくて連絡とってない気もしなくもなくもない。
しまった動揺が。今の今まで彼氏の存在かなり薄くなってた。だめじゃん私。って、現実逃避は止めよう。
ファイトだ自分。頑張れ自分。
目の前には小汚いみるからにお風呂入ってませんって男が私の部屋のドアにもたれかかっている。
結構離れているのに匂いますよ。えぇ、匂いますとも。
ピクリとも動かない所を見れば死んでないよね?と心配になる。
やめてよね。自宅の前で行き倒れとか。
しかもここ3階だから。わざわざ上がってくるとこじゃないから!!
どう考えても私の家だと分かっていてドアに凭れているように思える。
どうしよう。こんな知り合い絶対にいないって言い切れちゃうんだけど私。
警察に電話しようかな。
その方が安全だよね。
あっ、先に管理人さんのとこにいって相談しよう。そうしよう。
くるりと踵を返して、階段を降りようとしたとき、かすかに名前を呼ばれた気がして振り返った。
「かれん?」
呼ばれた。間違いなく呼ばれた。
小汚い男が、私の名前を知ってる?ってどゆこと?ストーカー????
ぞぞぞぞぞっっと悪寒が背筋を駆け上り、私は悲鳴を上げる前に全速力で階段を駆け下りようとしたはずだった。
はずだったのに、なぜか金縛りにあったように体が動かない。そして、自分の意思に反してグギギギギギギギと見たくないのに、小汚い男のほうに首が回っていく。
ホラーだっ!!ホラーだよ!こっちも全力で抵抗してるのに顔が勝手に動くんだよ?!なにこれっ!!お母さんお父さん助けてっ!!
見たくもないのに、男がのっそりと立ちがるところが見えた。大きい。一気に廊下が狭く薄暗くなったように感じる。背も190cmは越していそうだけれど、なんというか威圧感がある。もう、明らかに只者じゃありません。危険人物です的ななにかを全身から溢れさせている。
まさか、この体が動かないのもこの男の仕業とかいわないよね?てか言わないで下さい!そんな事できるのホラーな幽霊さんしか思い浮かびませんっ!嫌いだからっ!死ぬほど無理だから!!
涙目で近づくなと訴えているのに、男は静かにこちらに近づいてくる。
そこで奇妙な事に気づいた。
おまわりさーーーーーーん。滅茶苦茶不審人物てか危険人物がここいます。ぜったい変質者、もしくは頭がお花畑に飛んでいってるに違いありません。今すぐ、保護お願いします。
動けないけど。
動けないから携帯使えないけどっ!!
この男、どっかのRPGオタクなのか使い込まれたマントに、革っぽい胸当て?そしてブーツ。腰にチラチラ見えるのは…………ねぇ?まさかだよね?長剣とかいわないよね??ガシャンとか音がしてるの気のせいだよね??使い込み過ぎて汚いの一言につきるんだけど。
ボサボサの頭とヒゲで人相は分からない。はっきりしてるのは、銃刀法違反の変態だと言う事だけだ。
そんでもってホラーな幽霊とかじゃないいいなぁ。相手できないからね私?なんでこんな男が私の部屋の前に。あんまりにあり得ないどこか夢のような出来事に気を失えたらどんなに楽だろうかと思う。
「香蓮。久しぶり」
あら、声はいい声してるかも。低い腰に響くような甘い声。
「香蓮?俺だよ俺」
いかにも知り合いですなんて言葉に騙されてはいけない。
私にこんな知り合いは誓っていない。
いまなら声が出せるかもしれない。大声を出して、誰かに気づいてもらうんだ。そして警察に連絡してもらう。
うん、それがいい。
大きく息を吸い込んで、さぁ、大声をだそうとう言うとき、目の前の男は突然私に抱きついてきた。
うぎゃぁぁぁぁぁぁっぁ!!臭いっ!!はーなーれーろーーーーー!!
あまりの悪臭にとっさに息を止める。
恐怖よりも怒りがまさった。
けれど、耳元で涙混じりの声で男は言った。
「やっと会えた!ただいま香蓮!オレだよ!蓮だよ!」
グシグシと嫌な音まで聞こえてきた。これは、ひょっとしなくても鼻水啜ってる?!
いや、蓮なら有りだ。
そう、蓮ならこんな泣き方をする。
だけど、この大男が蓮だなんてあり得ない。
だって蓮がいなくなった時、蓮の身長は160cmと私と変わらなかった。こんな浅黒い肌の色じゃないし、てかRPGのRの文字すら興味のない男だったはず。大事な愛しい可愛い蓮は、美少女といっても過言ではない美少年なんだから。こんなムサイ汚い、臭い大人にはまかり間違ってもならない。
いや、認めない。
頭の中で蓮?ふざけんな私の天使の名を語るとはこの変質者どうして始末してくれよう会議が急遽開催される中、蓮を名乗る男がぎゅうぅぅうぅと私を羽交い絞めにする。落とす気かっ?!意識を奪って私をどうする気だこの変質者っ!!
「嬉しいっ!僕の香蓮!!ずっとしててくれたんだね。これ僕のあげたネックレスだよね」
嬉々として私を抱き込む変質者。
…………アレ??
このネックレスを蓮がくれたものだと知っているのは、私と聖司と蓮だけだ。
まさか、まさか、まさかなのか??えっ??ホラー説が最有力候補?!
てか、こんなに存在感があって臭い幽霊なんているの?!
「蓮?」
絞り出すようにかすれた声でつぶやけば、コクコクと感極まった風の変質者が更に滂沱の涙を流している気がする。ここからは見えないけれど、もう、肩がびちょびちょだ。涙と鼻水に違いない。後で絶対にスーツのクリーニング代請求してやる。
あぁ、この泣き方は蓮かもしれない。認めたくないんだけど。
けれど、けれどなんだ。
皆さん、ちょいと考えても欲しい。
小汚い悪臭がする男に涙と鼻水でグチョグチョにされ、ギュウギュウに抱きしめられて、なおかつ悪臭を吸い込まない為に息が出来ない私の状況を。しかも大事な空気を名前を呼んで消費してしまった。もう無理苦し過ぎるっ!
はい、もうお分かりかと思います。
すいません。ブラックアウトします。
ギリギリまで息を我慢した上げくに羽交い絞めにされ、私の意識はあっという間に闇に飲まれたのだった。
私、大ピーーーーーーーンチ!変質者の前で意識失っちゃってどうする私!
読んで頂きありがとうございます。