能力
能力を使いこなせるかはその使い手の技量による。
しかし、能力をそれ以上に使いこなせるかは、
その使い手の考えに作用する。
月(これは一体!?)
月夜見尊は、この老人の陰を見ようとして、愕然とした。
月「陰が・・・・・無い?」
陽夜の陰は見えなかった。
その反対である光、つまり陽の部分しか見えない。
陰が無い。
いや、そんなことは無いはず。
人は誰しも心に暗い部分を持っている。
第一、たった今犯罪を犯した老人が、陰を持っていない筈が無いのだ。
月「・・・陰を隠している?」
陽「そう。その通り。
わしの陰は、もうお主には見えん。」
その言葉と共に、突然陽夜は立ち上がった。
シュッ!
瞬間、後ろに居た筈の神が首筋に刀を突きつけている・・・・・
?「罪人。立つな。」
陽「・・・・・遅い。」
・・・・・刀の先には誰も居なかった。
月「っ!!」
?「なっ!?」
陽夜は既に部屋の左に移動していた。
しかし、移動するその姿は誰にも見る事が出来ず、
そして・・・・・
?「注連縄が・・・切られている・・・・・」
?「馬鹿な!あれは天照大神様でも切れない縄だぞ!?」
陽夜の下には、真っ二つにされたあの縄があった。
永「全員!あの老人を包囲するわよ!」
真っ先に行動したのは永琳だった。
警戒をしていた永琳は、この状況に驚きながらも、的確に指示を出す。
永「注連縄が切られた以上、他に拘束する手段は無い。
相手の実力も未知数。初めから殺す気で行動して!
月夜見尊様は―――――」
月「私も加わります。」
月夜見尊はいつの間にか陽夜を包囲する陣の後ろで、
勾玉のようなものを浮かばせていた。
月「姉をも封じ込める注連縄を切った相手です。
恐らく一筋縄ではいきません。」
永「―――分かりました。」
そう言って永琳も弓を構えた。
もう、そこは神殿と言う神聖な場所ではなく、
殺伐とした空気と殺気が溢れかえる戦場と化していた。
あらゆる神がその手に得物を持ち、神力を練り、殺気を陽夜に放っていた。
・・・しかし、その殺気の真ん中にいる、
この空気を作り出した元凶、陽夜は・・・・・
陽「・・・・・・・・・」
手に得物を構えず、力も出さず、殺気すら出さず、ただ静かに佇んでいた。
陽「・・・・・・・・・」
陽夜は何も喋らず、目を閉じていた。
しかし、その顔には僅かに笑みを浮かべている。
異様。その一言で言い表せた。
陽「・・・・・なるほど。確かに強いな。」
月「・・・・・」
永「・・・・・」
陽「しかし・・・・・」
陽夜は眼を開け、言い放った。
「もう遅いぞ?」
月「・・・・・?」
陽「・・・・・わしの能力は二つ。
その内の一つは、『陰陽を司る程度の能力』と言う。」
永「程度?」
陽「能力はどれだけ強くてもその『程度』。
だからこそ様々な使い方がある。。そう言う意味で付けた名じゃ。」
月「・・・あなたの能力も様々な使い方があると?」
陽「用は認識の違いじゃ。」
永「・・・・・」
意味が分からなかった。
陽「まあ、これは理解せんでも良い。
しかし、月夜見がわしの陰を見れない理由は分かったろう。」
?「貴様!月夜見尊様を呼び捨てにするなど!」
月「いいんです・・・なるほど。あなたが陰を操ったから見ることが出来なかったと?」
陽「そう言うことじゃ。」
永「・・・じゃあ何故・・・・・私達は動けないの?」
月「それはどう言う・・・・・ッ!?」
?「な、何故だ!?」
?「体が、動かない!?」
?「どうなっている!?」
そう。神々は身動きが取れないでいた。
まるで誰かに固定されているかのように。
陽夜が『もう遅い』と言っていたのはこれだろう。
陽「・・・静と動は陰陽に当てはめると、静は陰、動は陽となる。」
月「・・・・・まさか。」
陽「そう。わしは静を陰に当てはめ、それを操ったのじゃよ。
お主らはずっと静から抜け出せない。」
永「でもそれなら月夜見尊様が見ている筈よ。」
陽「だからばれぬように陽の気で隠したんじゃよ。
お主らがわしを囲むために動いてくれたから、隠しやすかった。
・・・・・・・もうお主らは行動出来ん。既に状況はわしの手の中じゃ。」
そう。もうこの場の主導権は陽夜の手の中だった。
月「・・・なら、注連縄が切られたのは・・・」
陽「あれはもう一つの能力『間を操る程度の能力』を使った。」
永「間?」
陽「ありとあらゆる物事同士にある間、差、境。
それを支配下に置く能力じゃ。
・・・・・この注連縄は須臾の長さの紐で編みこまれておる。」
須臾とは、生き物が認識できない程の時間であり、長さである。
映像が一つ一つのコマの積み重ねで作られるように、
普通に流れる時間も、一つ一つの須臾と言う時間の連続なのだ。
あの注連縄は、須臾の長さの紐で編みこまれた。
だからその紐と紐の間は無く、決して切れず、破けない。
陽「しかし、間が無いなら作ればよい。」
月「紐同士に間を作ったと?」
陽「そう。間のある注連縄は、ただ細い紐で編まれているだけの普通の縄となる。
・・・・・まあ、他にも抜け出す方法はあるが。」
永「なるほどね。この都市に一瞬で現れたのは・・・・・」
陽「ああ。それはこれを使った。」
陽夜はあの灰色の入り口を作り出した。
陽「わしの間の能力で作った空間。通称『ハザマ』じゃ。」
簡単に説明すると、すぐにハザマを閉じてしまった。
陽「さて・・・・・質問はこんな所かのう?
一応言えば、時間稼ぎは時間を消費しているだけだと思うが、どうかね?」
永「ッ・・・・・」
月「××・・・・・」
永「・・・・・確かに、まず動くことが出来ないのです。
なにも出来ることがありません。」
月「・・・・・そうですか。」
永「・・・・・申し訳ありません。」
月「いいえ。私も考えて見ましたが、やはり打開策は出てきませんでした。」
?「そんな・・・・・」
?「××や月夜見尊様が何も考え付かないなんて・・・・・」
まさに絶体絶命である。
神々は追い込んだつもりが、逆に自分達が追い込まれていた。
程度の能力は、
使い手の考え次第でその力の及ぶ範囲が決まる。
そう考えてみました。
例えば、時を操る程度の能力は、
時空間理論で空間にも作用する。
これがいい例ですね。
まあ、陽夜の考えはそれより大きいですが。