因果の狭間
結果が過程を正当化する。
陽夜のとった行動も、
まだ見ぬ結果への過程の一つなのだろうか?
永「・・・・・・・・・」
永琳は激しく混乱していた。
実は、永琳の普段の様子や行動からすれば、これは非常に珍しい事である。
永琳の目の前には、大半の場所が崩壊し、、半壊状態の建物、
それに群がる野次馬、
そして・・・・・
兵「抵抗するな!!」
陽「してはおらんよ・・・・・」
数人の兵士に囲まれ、手首に縄を縛られている陽夜の姿があった。
数分前。
永「何でこの都市に入ってこようと思ったの?」
永琳は、とある人物に弓を構え、歩いていた。
その人物とは、魄霊混 陽夜。
勝手にこの都市へ入り、かと思ったらおとなしく捕まった奇妙な老人だ。
何でも、牢屋に興味があるとか。
陽「何か面白そうな雰囲気がしたのでな。」
永「そんな理由で不法侵入をしたのかしら?」
陽「わしは面白いことと自由の為なら結構何でもするぞ?
そして面白さを得る為に何処へでも行く。」
永「これから行く所は自由なんて何処にも無い所だけど。」
陽「どちらか一つでも良い。
二つが同時に得られる事などはなから期待してはおらんよ。」
永琳はこの老人を大して危険視していなかった。
言う事は素直に聞き、全く抵抗せず、
それどころか自分から牢に入ろうとしている。
何か裏でもあるのかと探りを入れてみたが、
どうやら本当に面白そうと言う理由で捕まったらしい。
永「でも、どうしてそこまで楽しさと自由を求めるの?」
陽「・・・長年生きておるとな。
退屈が一番の天敵となるんじゃよ。」
永「・・・・・・・」
これは永琳も知っている。
永琳も、こう見えて実は長生きなのだ。
少なくとも、数千万、下手をしたら億の単位が出てくるくらいには。
その為、精神を殺す『退屈』が、長生きをする者にとっての天敵となるのだ。
永「けれど、それなら『自由』はかえって退屈の元になるんじゃないかしら?」
自由とは縛られない事。
何でも出来るのだから、かえって退屈を作ってしまう。
陽「何事も、行動するにはまず自由でなければならない。
何かに縛られていると行動に制限が掛かってしまう。」
永「でも、だからと言って自分から牢屋に入るかしら?」
陽「言った筈じゃ。面白い事があれば何処へでも行くと。
それに、わしは大抵のことは面白い事と思って行動する。
結果だけではなく、過程も吟味する。
だからこんな話をする事も楽しみの一つとなるんじゃよ。」
永「でも、最終的には結果が良ければ全て良しとなるわ。
確かに過程があるからこそ結果が現れる。
でも結局は良い結果を出すために過程を作る。
そして結果が出たら過程は薄れ、消えていく。
あなたが行った過程の結果は、
もしかしたらずっと自由も面白さも無い生活かも知れないわよ?」
陽「確かに。結果が良ければ過程は省かれる。
だからこそ、誰も過程を見ようとしない。
因果だけでは分からないこともあり、内容も薄くなる。
しかし・・・わしはそんな結果を出すつもりは毛頭無いのでな。」
永「・・・・・牢に入る事も過程の一つに過ぎない?」
陽「ああ。最終的に脱走する予定じゃよ。」
堂々とカミングアウト。
永「そう。まあ、やってみなさい。出来るものならね。」
そうこうしている内に目的地―――刑務所らしき所に着いたようだ。
永「まあ、本当に牢屋に入るかどうかは分からないけどね。」
陽「む?どう言うことじゃ?」
永「あなたは害がなさそうだもの。
不法侵入ももしかしたら軽い罪で済むかもしれないわよ?」
陽「・・・・・そうか・・・・・」
陽夜は上げていた腕を下ろし―――
陽「・・・なら、これで良いな。」
次には刑務所が崩れていた。
永「・・・・・え?」
冒頭へ戻る
永琳は少しの間思考が停止した。
《陽夜が上げた手を下ろしたら刑務所が崩壊した。》
これだけの事を理解するのに時間が掛かった理由。
まず一つは、何もしないだろうと高を括っていた陽夜が、
簡単に犯罪を犯したこと。
そして―――――
永(・・・何?あの、霊力・・・・・)
陽夜の出した力のせいだろう。
陽夜には神力も妖力も、霊力さえ無い筈だった。
しかし、今刑務所が崩れた時、ほんの一瞬だけ、霊力が、それもとてつも無く膨大な
霊力が感じられたのだ。
と言っても、今はそんな霊力は少しも無く、
崩れた刑務所から這い出てきた兵士によって拘束されているが。
兵「!永琳様。」
永「え?あ、ああ。何?」
兵「怪しき者の連行、ありがとうございます。
最後に暴れたようですが、
既に拘束し、封印枷で力を抑えてありますので、ご安心を。」
永「分かったわ・・・・・とり合えず、連行して。」
兵「は!」
陽夜は兵士によって連行されて行く。
兵「ほら!急げ!」
陽「ほっほっほ。老人をあまり急かすでない。」
・・・・・しかし。
陽夜は連行される寸前、永琳に顔を向け・・・・・
『ありがとう』
永「!!」
声には出さなかったが、間違いなくその唇はそう動いた。
陽夜はその後、おとなしく連行されていき、
後には永琳のみが残された。
永(・・・・・あの人は只者じゃない。
関わった以上、私も動く必要があるわね。)
永琳は胸騒ぎがしたのだ。
と言っても、それ良いのか悪いのかは分からないが、
確かに、何か騒動が起こると。
そして、それは確かに的中したのである。