座禅タイム
炎狐との戦いから1週間が過ぎた。
炎狐に付けられた傷もリシアの治療によりだいぶ良くなってきていた。
もう痛みもないし、戦闘でできた傷なんかもほとんど目立たなくなっている。
しかし、心の傷はそうもいかない。
あれだけ酷いやられ方をしたらトラウマにもなる。
炎狐と戦った後に1回だけ岩巨人が出現したが、薫は戦いなれているはずの岩巨人を前にして体の震えが止まらなかった。
死の恐怖を炎狐に与えられてしまった為に、格下の岩巨人相手にも手こずるほど薫は臆病になってしまったのだ。
これではマズイと薫は考えて今は寺の座禅体験3日間コースで精神を落ち着かせている。
今日で座禅体験も最後の日だ。長いようで短い座禅体験だったが、何だか心が鍛えられた気がする。少なくとも薫はそう思っていた。
しかもこの寺は巫女さんがいる。なんでも住職の娘さんらしい。
黒髪で肩くらいまである長髪を三つ編みにしている。少しツリ目で近寄り難い感じはするが、かなりの美人だ。いや、彼女は高校生らしいので美少女だ。
名前は日ノ宮 火月というらしい。
薫は彼女と友達になりたかったので何度か話しかけたりしたが、男嫌いらしく虫でも見るような目で睨まれ無視されてきた。
だが薫は「そういうのも良い!」とか考えている。
薫はMだった。
・・・
座禅体験は問題なく終了したので後は家に帰るだけだが、せっかくなので帰る前に寺を散歩することにした。
薫は寺とか神社とかが好きだ。建物がどうこうではなく雰囲気が。
静かでのんびりとした感じが良い。心を落ち着かせてくれる。
もう座禅体験コース参加者は薫を除いて帰ってしまったらしく、境内には掃き掃除をしている火月と薫、あとは薫の頭の上にいるリシアしかいない。
薫は火月の巫女服に夢中だ。そう見えないように空を見たり建物を眺めたりして誤魔化しているが多分バレバレだろう。何故なら火月の顔がどんどん不機嫌な感じになっていくからだ。
これ以上いたら訴えられそうなので帰ろうと薫が立ち上がった瞬間、ドスン、という大きな音と共に岩巨人が火月の後ろに出現した。
「え?何の音……」
(火月さんは岩巨人の出現した時の音が聞こえている!?)
マズイ、薫は瞬間そう思った。
普通の人には聞こえない音が火月には聞こえた。もしかしたら岩巨人を認識できるかもしれない。
そうなったら敵として認識されてしまう可能性がある。
「伏せろっ!!」
薫が叫ぶ。案の定、敵として認識されてしまったみたいだ。
薫の慌てたような叫び声に反応して火月が地面にしゃがみ込む。瞬間、さっきまで火月の頭があった場所を岩巨人の手が通り過ぎた。
「そのまま走って!振り返らずに、早く!」
「な、なんなのよ!?」
火月は立ち上がる瞬間、岩巨人の方を見てしまう。
火月の顔が見る見る内に青くなっていく。
「早く走れっ!逃げるんだ!」
「は、はい!」
薫は火月の手を引っ張って無理やり走らせる。
火月がいたら魔法幼女になれないので、先に逃げてもらわないといけない。
「火月さん、俺があいつを引き付けるから、その内に逃げるんだ。警察とか呼んできてくれ。」
「え、でも…」
「いいから。火月さんのが足速いと思うし、俺も適当に逃げるからさ。」
火月は最初、迷っていたみたいだったが、最後には分かったといって走り出した。
火月が見えなくなったのを確認して薫は魔法幼女に変身する。今日はいつもみたいに震えが起きなかった。
・・・
警察や火月にどう説明していいか分からなかったので薫はさっさと岩巨人を倒して逃げるように寺を後にした。
今はリシアを頭に乗せて家に向かっている。
「なぁ、俺があの炎狐を倒さないとみんなが大変なんだよな。」
薫が独り言のようにつぶやく。
「そうだね。今は大丈夫でも炎狐だって何時かは外に出るだろうし、それ以上の敵も出てくるだろうし。」
リシアが薫の問に答える。
「じゃあ頑張らないとな。」
「そうだね。」
薫が見上げた空には満天の星空が広がっていた。
これで1章が終了です。
2章は1章の修正が終わったら書き始めるので、しばらく後になると思います。
多分1ヶ月後あたりにひょっこり戻ってくるのでその時に読んでいただけるとこれ幸い。
ではでは!