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炎の洞窟

 リシアと魔法幼女の契約を結んで1ヶ月が過ぎた。

1ヶ月で分かったことは2つ。

1つはリシアが意外とモチ肌だということ。一緒に住むことになったリシアは基本的に薫と行動を共にしている。

外出するときは薫の頭に乗っかって移動するのだが、そのモチモチ感に薫はかなり癒されていた。

 もう1つは闇の精霊の眷属の出現するペースだ。

今のところ1週間に1度のペースで現れている。色々な種類の眷属がいるらしいが、今のところ岩巨人しかでてきていない。

最初も含めて4回戦っているが、いつも1匹ずつ出てきて戦闘能力は変わらない。

今ではどうやって倒したら格好良く見えるかとか考える余裕も出てきているくらいだ。


「あ、闇の眷属が出たみたいだ。今日は少し遠くの山の中に出現してるね。」


 ベッドでゴロゴロしながらアニメを見ていた薫はリシアの言葉を聞いて面倒くさそうに立ち上がった。

遠いのは嫌だが山の中っていうのは好都合だ。


 この前は街の裏路地に闇の眷属が出現したため、大勢のアニメオタクっぽい大きいお兄さん達に追い掛け回された。

薫も成人男性で女性には人並みの興味はあるが、大量のキモオタに追いかけられて以来、女性に対する対応は紳士を心がけようと誓ったものだ。

因みに魔法幼女ファンクラブが設立されたようだ。しかも会員メンバーは200人以上いるらしい。この街の何処にそんな数の幼女好きがいたのだろう。


 しかし山奥なら人の目もあまり気にしなくていいだろう。

ここら辺にはハイキングコースがある山もないからそっち系の人達の事も考えなくていい。

変身シーンを誰かに見られないように気をつける必要すらないのかもしれない。


 嫌なところを挙げるとすれば遠い所と今の季節が夏なので蚊や虫が多そうな所だろうか?

薫は虫除けスプレーを全身に振りかけてリシアが言う山に自転車を走らせた。


・・・


 目的の山は意外と近くにあった。

なんと薫の母校である観頭小学校の裏山だったのだ。

裏山は子供が入って遊ばないように厳重に封鎖されている。小学校の裏にある山なのに意外と広く、気を抜くと簡単に迷子になってしまうからだ。


 山は7m程の高さの網目状の柵で囲われている。子供が入らないようにという対策なんだろうが、網目に簡単に足を掛けることができるのであまり意味がないというか、子供の冒険心をくすぐって逆効果な気がするのは薫だけだろうか?

 薫は柵をよじ登って山に入り、人目がつかない場所で変身した。

もう何回も変身しているが、薫はこの魔法幼女の変身に慣れていない。体が小さくなる感じとか、変身するとき一時的に裸になるところとか…


まぁ、今はその事を置いておこう。関係ないことだ。

薫は山の奥に歩き出した。因みにリシアは薫の頭の上でグッタリしている。リシアは暑さに弱い。水辺が近くにあるときはそうでもないが、山の中などの場合、特に川とかが無さそうな場所だと見るからにグッタリする。

そんなグッタリしたリシアを無視して山を奥へ奥へと進んでいく。


コーン…


 しばらく進んでいくと少し離れた場所から狐の鳴き声のようなものが聞こえてきた。

薫は動物が大好きだ。猫や犬は勿論、狐も大好きなのだ。

ピンとした耳も鋭い目もモフフサの尻尾も大好きだ。多少の獣臭さ等なんのそのだ。


いつもは遠くからのチラ見で我慢してきたが、今の身体能力があれば捕まえて思う存分モフれるかもしれない!と薫は興奮していた。

薫はもう闇の精霊の眷属のことが頭から離れて狐一色になってしまった。

さっき聞こえた鳴き声の方に一直線に向かう。


 しばらくして木があまり生えていない広場のような場所に出た。

更に奥の方に洞窟も見える。


コーン……


狐の鳴き声は洞窟の置くから聞こえてくる。どうやら狐はあの洞窟の奥にいるらしい。

洞窟に巣があるんだろうか?行ってみる価値はありそうだ。


 洞窟には言った瞬間、異様な熱気が薫を襲った。

洞窟の中はまるでサウナのような蒸し暑さだ。夏だとは言ってもこの暑さは以上だといえる。しかも洞窟の奥に行けば行くほど暑さは増していっているみたいだ。

 これは異常だといえるだろう。狐抜きにしても調べる必要があるらしい。

薫はしばらく歩いて洞窟の最奥までたどり着き、目当ての狐と洞窟の暑さの正体を発見した。


 そこにいたのは体に炎を纏った巨大な狐だった。

見た目こそ狐だがその大きさは虎やライオンとさほど変わりがない。

体の所々に炎を纏っていて、尻尾がなんと3本もある。

毛並みには艶があり耳は雄々しくツンと立っていて、その眼光は覇者のように鋭い。

その姿はまさに狐の王といって間違いはないだろう。


「ガァァアアッツ!!」


炎狐は薫とリシアを見た瞬間、叫び声を上げる。どうやら威嚇しているようだ。

モフモフは無理らしい。


「どうやら今回の闇の眷属はこの狐みたいだね。…強敵だよ。薫、がんばって。」


 リシアが暑さで完全にダウンしながらも険しい目で炎狐を睨んでいる。

炎狐は今まで戦ってきた岩巨人なんかとは桁違いの迫力がある。多分、数倍の強さがあるだろう。


「やっぱりコイツが今回の敵かぁ。狐、好きなのになぁ。」

「言っている場合じゃないよ、薫。」


炎狐は敵意むき出しだ。

薫は山中から水を集めているが、やはり川辺とは違って集まりが悪い。


洞窟に入ってから水を集めているのにようやくショートソードができたところだ。

しかも炎狐のいるこの洞窟の最奥は暑すぎて水の集まりがさらに悪い。

どうやらこのショートソードで戦うしかないみたいだ。


 岩巨人よりも強い相手と圧倒的不利な場所での戦い…

薫は久々に恐怖を感じていた。今までは水辺の近くでの戦いでしかも格下を相手にしていたため麻痺していた感覚だ。


ヒュン


瞬間、炎狐の姿がブレる。直後、薫の体を炎狐の尻尾が直撃した。


「……がっ!?」


突然の攻撃、薫は目で追うのがやっとだった。

リシアが暑さのせいでダウンしていて水の加護が弱いとは言っても強化された薫がついていけないスピードだ。

しかも防御力が特化している水の魔法使いである薫でも顔が歪む程の攻撃力をこの炎狐は持っている。


「こ、の野郎!」


薫が水でできたショートソードで炎狐を攻撃しようとするが炎狐はそれを簡単に避ける。

そしてそのまま薫に向かって体当たりをしてきた。

薫は体当たりを避けようとするが間に合わず吹き飛ばされ、洞窟の壁に体を強打した。


炎狐の攻撃はまだ終わらない。

炎狐は三本の尻尾の先端に炎が集まりサッカーボール程の火の玉を形成する。

それを薫に向けて飛ばしてきたのだ。


「がぁっ!?」


さっきから蓄積されたダメージで上手く動けない薫は火の玉を避けることができなかった。

右腕、脇腹、左足に火の玉が直撃し、どの部分も焼け爛れて見る影もない。


「これはマズイなぁ……」


炎狐は余裕なのか薫の苦しそうな姿を見てニタニタと笑っている。

攻撃も今はしないようだ。じっくりと楽しんで殺すつもりなんだろう。


「リシア、何とかなんないかな?」

「…もう少し時間を稼いでくれたら逃げる準備くらいはできるかもしれない。」


リシアに相談してみると、あと5分だけ炎狐の攻撃を逃げ切れば濃い霧を発生させるだけの水を集めることができるらしい。それでなんとか退却できるだろう、との事だ。


「薫、それまで頑張ってくれないかな。じゃないとここで全滅だ。」

「…了解。」


 炎狐に薫達の会話が聞こえていたかは分からないが、また炎狐の尻尾に炎が集まりだした。

薫は痛む左足を庇いながら走る。走るたびに体中が悲鳴を上げ、痛みのあまり何も考えることができない。

足がガクガクと震え、洞窟の中は暑いはずなのに体は冷え切っているように寒い。


炎狐は遊んでいるらしく致命傷になりそうな部分は狙ってこないが、それでも攻撃をしてこない訳じゃない。

必死に避けているものの体中に新しい傷がどんどん増えていく。

もはや火傷がない部分なんて無いんじゃないだろうか。


「薫よく逃げ切った。いけるぞ!」


薫の限界が近づいて安西○生の「諦めたらそこで試合終了ですよ。」という幻聴が聞こえ始めた時、リシアの逃げる準備が完了したらしい。


 炎狐が怪訝そうな顔をするがそんなのに構ってはいられない。

薫は洞窟の出口に向かって走り出した。

当然逃さないようにと炎狐も追いかけてくるが、リシアが霧を発生させ視界を遮断し、炎狐を混乱させる。

薫も霧のせいで何も見えなくなっているが、リシアの案内に従って無事に洞窟の外に出ることができた。

 炎狐は洞窟からは出ないみたいだった。

憎々しげな鳴き声が洞窟から聞こえてくる。

リシアの推測ではあの炎狐は何かを守護するために作られた存在のようだ。

だから今までの眷属より段違いに強かったんだろう。


薫は家に帰る為にボロボロの体を引きずりながら歩き出した。



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