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衝突

 それは突然だった。

 男が鍬を持ち畑の手入れをしているときだ。上から何かが降ってくる。白い結晶の塊だった。

 寒い季節になると雨の代わりに雪が降る。男は上から降ってきたものを雪だと思い上を向いた。だがそれは見当違いだった。

 タンポポのような綿毛の種がひらひらと降りてきていたのだ。

 男はそれを掴もうと手にする。

 すると種は突然のように成長をした。

 種から生えた根は男の腕を貫き、根をはり、血液を吸い取る。反比例のようにだんだんと大きく形を形成する。

 一匹の竜。

 みしみしと幹が割れるとそれは口になり、大きな咆哮を生み出した。びりびりと石が震える。すると大地は隆起し、現れたのは巨大な根だった。

 それは竜を中心にして円状に伸びる。

 まさに化け物だった。

 根は国の民を襲い始める。根はそれぞれ竜の頭を持ち人間を食い殺す。そのたびに竜の形をした木は大きく膨れ上がってゆく。

 そのとき竜は炎に包まれる。

 囲むように燃え上がる炎によって竜の頭を持つ根は焼き払われた。

「貴様、これ以上の成長を許さん。今ここで燃え散れ」

 竜は頭を上げるとそこにはアリアがいた。アリアは両手を前に構え、その両手の間には炎の塊がある。アリアはそれを竜に向けて投げた。すると炎は網のように広がり、そして竜を覆う。

 炎に囲まれた竜は暴れる。じわじわと燃え上がる体を守ろうと炎の壁を切り裂いた。

 すると瞬間的に空気が送り込まれる。その空気に反応した炎は爆発的な燃焼を起こした。

 その威力はすさまじく草木は一瞬にして灰になり、台地は焼き野原へと成り果てた。

「ふん。契約などなくても我一人で事足りるではないか」

 そういってアリアは自分を介抱してくれたジグを思い出す。

「あいつなんかいなくても我は…」

 そのとき焼け野原から根がアリアを襲う。

 アリアはそれに驚き、とっさに避けようとしたが一本に巻きつかれ、地面へと叩き落された。

「っ!」

 地面にこりつけられるように引き摺られると今度は上に放り投げられる。逃げれると思ったが今度はうえから根が振り落とされる。それにもちろん対応でいないアリアは鞭で叩かれたかのように地面へともう一度叩き落された。

「……」

 アリアは龍としてのプライドを叩き潰されていた。自分がいかに無力なのか思い知られる。体を動かす気力もまったくなくなっていた。

 ふと思い出す少年の姿。ぜんぜん体も未熟で普通の青年。

「ジグ……」

 体は根で拘束されて龍の目の前まで運ばれる。うつろな目でアリアは竜を見た。明らかにアリアを見下している目だった。

「ジグ……」

 あふれる涙。彼の名を呼ぶアリアは龍としてではなく、一人の少女として名を呼んだ。竜は口を開きアリアを食らおうとする。

「うおおおおおお!」

 うなり声と同時にアリアを拘束していた根が切り落とされた。アリアの体はゆっくりと落ちる。

「アリアー!」

 彼女の名を呼ぶ声はアリアは知っていた。アリアは首を回し彼を見る。

 手には安物の剣が握られている。服も防具も何もない。

「馬鹿、死んじゃうよ」

「契約だ」

 え、とアリアは言った。竜は根を動かし、ジグに襲い掛かる。ジグはそれを剣で切り落とす。だがほかの根は避けるしかできない。

「大いなる敵を滅するのを手伝う。その代わりアリアは俺の傍にいろ」

「…我は、龍だぞ」

「っつ!」

 剣を奪われ、手ぶらになったジグを根は襲い掛かる。アリアはジグの手を掴むと空へと逃げた。

「それでも、俺はアリアに惚れた。俺はアリアが好きだ」

「後悔するな」

 アリアは顔をジグへと近づける。ジグは改めてアリアの顔をみて綺麗だと思った。時間がゆっくりと流れ始める。アリアの口から漏れ出す力の光。

 ジグはそれを受け入れるために自ら近づいた。

 接吻。ジグの体にアリアの力が注ぎ込まれる。竜はそれを阻止しようと攻撃を行う。

 それは一瞬の出来事だった。

 ジグとアリアの元へと走る根は一瞬にして切り刻まれる。

 大地に降り立つジグ。左手にはアリアを抱きかかえるように支えている。その姿は以前と変わらないが、明らかに何かが変わった。

真理の鞘(コンウェル)

 右手に現れたのは鞘だった。

 竜は咆哮しこれまでの数のたくさんの根をジグへと向けた。

「ジグ!」

「大丈夫だ」

 鞘に手をかけると大地から一本の剣が現れる。

 それを手にするとまず先に来た根を切り落とす。そして次の根を切り落とすと次々と襲い掛かる。

 すると今度は傍から剣が湧き出た。

 ジグはそれを掴むと三本の根を右手の剣で切り払い、左手にあった剣を回転させながら投げる。その剣は勢いがとまらず奥に控える根を切った。左手から来る根を旋回し切ると今度は左手の近くに剣が湧き出てくる。

 そのすべての行動は一つにつながっていた。

「真理の鞘…任意の場所から剣を作り出す鞘…」

 アリアはジグの力を判断していた。

 すべての剣は形が統一されていてそれらはすべて鞘に収まる形である。

「でもそれだけじゃ大いなる敵に近づくことができない…」

 アリアは傷ついた体をふるいたたせ、飛んだ。

「ジグはあの巨大な体の急所を狙っているはず…」

 竜の近くまで行き炎を当てる。

 竜はそれに気づき、何本か根をアリアの方へと行かせる。アリアは旋回しながら根の攻撃を避け、炎で焼き払った。

 ジグは根とまだ戦っていた。もう何本目の剣の精製だろうか。だがアリアの力をもらったジグの体は疲れを感じなかった。

「でもこれじゃきりがない…」

 ジグは攻撃をやめて根が一斉に来るのを待った。そしてジグは剣を根の方へと投げる。

「レプリカント」

 剣の軌道上に何本もの剣が現れる。ジグは近くで作り出した剣を構えた後、剣を殴りつける。

 それらの剣はすべて根の方へと飛んで行き、すべてを切り落とした。


 道が開かれた。


 ジグは剣を捨て、開かれた道を走り抜ける。まだ根は何本か生き残っていたが、この根の嵐をどうにかしなければ埒が明かないのだ。

 その根はまた近くで製造した剣で切り落とす。

 黒い血で切れなくなった剣を捨てる。

 根の嵐を抜けると目の前には本体がいた。


「製造。ブレード」

 すると鞘は巨大になる。身の丈以上になりその鞘はジグの何倍もの大きさになる。

「貫け」

 竜のしたから鞘と同じ大きさの剣が現れた。

 竜は咆哮をあげる。それは威嚇でもなく、苦痛だった。

「急所のようだな。その腹は」

 ジグは右手を前へ突き出すと今度は何本もの剣が竜を貫いた。

「アリア!」

「燃え散れ!」

 アリアは炎の塊を打つ。その炎は剣に熱を帯びさせ、竜を内部から焼いた。

 竜は断末魔の声を上げる。しばらくの間根は暴れいたが炎に包まれ灰になってゆく。

 そして竜は息絶えた。

「アリア」

 うえからアリアが降りてくる。アリアはすこし疲れている顔をしていた。

「大丈夫?」

「流石だな英雄」

「ジグでいいよ」

「ジグはもう言わない。我は、お前の女だ」

 そういってアリアはジグへと抱きついた。

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