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大いなる敵

「我らと人間はそもそも二つで一つの存在だった。龍族は天空から見下ろす守護者として君臨し、人間は地を這う狼として大いなる敵を駆逐していた。それは昔からの伝承で我らはお互いに信じあっていたのだ」

 アリアはこの国にもある昔の話をしている。静かに語るように言うその口は艶やかだった。

「だがある日の事その比翼の鳥だった我らは決別してしまった。それは何かは定かではない」

「だけどその日に何かがあった…んだよな?」

 うぬ。とアリアは言い、コップを口につける。

「あっつ!」

 といってコップを手放した。

「あ、熱かった? 結構温いと思ったんだけど」

「りゅ、龍族は熱い飲み物を飲まん! そんな熱のこもった飲み物などi胃が焼けてしまう!」

 涙目で言うアリアはどこか幼かった。ジグはため息を吐いてこぼれた飲み物を拭いた。

「龍は猫舌なんだな」

「うるさい! 食うぞ!」

 顔を赤くして言われてもあんまり迫力がないのは誰でもわかる。

「はいはい」

 ジグは冷たい飲み物をコップに入れて渡す。アリアはその飲み物をじーと見た後一含みだけ飲み、安全と分かったときにぐいっと飲んだ。ジグはあ、と思ったがまあ大丈夫だろうと思った。

 しかしアリアは飲んだ後から少しも動いていない。まるでそこだけ時間が止まったように…すると髪がぞわわと動き始めた。

「…あのーアリアさん?」

「あ、あー? なんれすか?」

 コップを机に叩きつけるようにおくとそこには酔ったアリアがいた。青い瞳がずんと座っている。

「というかこの飲み物おいしいからおかわりー!」

「やっぱりか…アリアはいくつ?」

「二百と十五歳なのらー!」

 上機嫌なアリアは完全に酒に飲まれたらしい。二百と言うのは余分だ。おおよそこの子は十五歳のほかにない。ジグの手にしていたのはぶどう酒でかなり酒度は低いはずだった。しかしこんな軽く告いだだけのものに酔うとは…。

「それよりそれ頂戴!」

「……」

 ガルルとうなり始める始末。本当に龍じゃないな…と思った。いいところ捨て犬か、捨て猫のところだ。

 ジグは彼女にあきれながらもう一度酒を飲ませたのだった。




 ジグの朝は早い。彼は机に突っ伏した状態からゆっくりと起きる。背中を伸ばすと関節がなる。ベットは龍族のアリアが規則的な寝息で寝ていた。

「あのあとずっとアリアは飲んでいたのか…」

 周りには吐瀉物とビンの山。この部屋が酒の匂いと、酢の匂いが充満している。

 まずは扉を開けて換気することからはじめた。外はまだ太陽の光が出ていない。陣割と地平線の先が赤くなっているがまだ先のことだ。だが、十分明るい。

 体が自然に背伸びをする。そして紙袋と箒で吐瀉物をどうにかすることを先決にした。

「おはよう」

「ん、あ……」

 アリアがゆっくりと起きるとばたんと倒れる。ジグはやっぱりかと思った。

「頭が重くてかなわん…貴様何をした」

「君が酒をたくさん飲んだんだよ。それは二日酔いってやつだよ」

 ジグは手に持っていた黄色い果実を渡す。

「これは?」

「檸檬って胃って酔い覚めにはいい果実だよ。どうかな?」

「ふむ…すぐに治るのか?」

 個人によると言っておいた。アリアは果実をしげしげと見てくんくんと匂いをかぐ。そして大きな口でがぶりとかじりついた。

 その直後大きな声が響いたのは書くまでもない。



「んで、龍と人間が共存したとしても、大いなる敵に立ち向かうには何かいるんだろう?」

 ジグの頬には殴られた跡があった。綺麗な拳の跡が残っている。その殴られた部分をさすりながらジグは言った。

「あ、ああ」

 突然アリアは尻すぼみする。ジグはそれに気づかないで話を続ける。

「んでそれはなに? 契約とか?」

「契約?」

 ああ、とジグは言った。

「水の(ひじり)と契約をして汚水を清くしてくれたりとか、いい陶器ができるように鍛冶の聖と契約をしたりとかそういうのであろう? 龍と契約するはいいのだが、何を代償にすればいいんだ?」

 この国は契約を主に行っている。大地には大地の聖に豊作を願い。災害からも耐えれる野菜を作ってくれるように願ったりするのだ。

「そんなものはない」

 きっぱりというからジグは顔を顰めた。アリアはコップに入っている冷たい飲み物を飲んだ。

「…は?」

「言ったであろう。我らは元は共存していたと、お互いが契約をして強くなるなんぞそれはただの繋がりでしかない。ゆえに契約には何も意味を持たんよ」

「なら俺らは何をもって大いなる敵と戦うんだ?」

 その質問の答えはしばらくの沈黙を有した。アリアは顔を赤くし、芽を閉じる。

「絆だ。信頼し、恋をし、接吻をする。その行為を契約とするのだ」

「…要するに」

 そうだ。とアリアは言葉をふさぐ。

「結婚だ」

「…本当か?」

「ああ、我は、そのためにここに来たのだ。仕方なく適当に回っていたらちょうど祭り事をやっていたから眺めていたら途中で終わってしまうものだから仕方ないと思いそこらへんで拾った丸太を運び、燃やしていたのだが、誰も来ないから一人で真似事をしていただけだ。べ、別に寂しかったとは思っておらんぞ!」

「あ、ああ」

「そこに貴様が現れた」

「なるほどね」

 だからびっくりして僕に攻撃しようとしたのか。

「お、我はだから、その英雄(おっと)をだな。作らねばならんのだ。そして貴様は我を解放し、食べ物をくれた。感謝する」

「うん」

 そこでとアリアは言葉をつなげる。真剣な瞳がジグを襲う。今までのようなふざけているような瞳はどこかに行った。

「ジグ、貴様でもいいなら我の英雄とならぬか?」

 英雄になり、大いなる敵を滅ぼし、英雄となる約束を得られる。こんな歴史に自分を残せる機会はない。

「断る」

「なぜだ!」

 身を乗り出してジグに迫る。

「オレは英雄になるためにアリアを拾ったんじゃない。綺麗だから拾ったんだ」

「それは、どういう…」

 瞬間遠いところで地面が爆ぜる音が響く。ジグは驚きその音がしたほうを見る。窓から見えるその光景は空に触れるまで広がった砂埃だ。

「大いなる敵が来たか……」

 アリアは憎憎しげに吐き捨てる。

「アリア!」

 ジグが叫んだときにはもうアリアは窓に足をかけて跳躍した。

 龍鱗が足を覆い始める。二本だった足は一つになり、一つの尾になる。そして魚のようなひれが付いていた。腰には三対の小ぶりな翼が生えており風を掴み宙へ浮く。

「ジグ」

 アリアはジグノ名を呼び、見た。

「短い間だったが、我を世話してくれて感謝する」

 そしてアリアは風を手で押し大いなる敵の元へと向かった。

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