夢と大人
私はいつの間にか、大人になっていた。
たったそれだけのことを受け入れるのに、私はどれだけの時間を必要としたのだろうか。
※
妹に子供が産まれたのは、もう7年のまえのことだ。
その子は女の子で、妹に似てよく笑う赤ん坊だった。
「おじちゃんって、どんな大人なの?」
そして、あのときの赤ん坊は妹に似て容赦なく、思ったことを口にする娘に育ちつつあるらしい。
さすがは、我が妹の娘―――とも、言っていられない。
「どうして急に、そんなことを?」
苦笑まじりに問いかける私に、姪は元気よく答える。
「お母さんが、おじちゃんみたいな大人になったらダメって言ってたの。
でも、おじちゃんみたいな大人ってよく分かんなくて……」
何の悪びれもなく、姪は私の膝の上でそう、笑う。
その姿は憎らしくも、愛らしい。
「……おじちゃんみたいな大人ってのは、夢ばっかり追いかける大人のことだよ。
現実を観ないで夢ばっかり追いかける、そんな大人にお母さんは―――なっちゃいけないって、言ってるんだろうね」
母と妹は、私を「夢見る夢子ちゃん」と呼んでは、よくからかう。
母と妹からすれば何ら価値のないものを、他の全てをかなぐり捨てて私は追いかけているのだから、それも仕方ないことなのだろうが。
「……夢って、追いかけちゃダメなの?
夢を追いかけるのは、いけないことなの?」
不安そうに問いかける姪は未だに膝の上だ。
小柄な私でもすっぽり包める程、この娘はまだ、小さい。
「……たぶん、違う。
夢を追いかけるのは、悪いことじゃない。でも、夢ばっかり追いかけるのは、悪いことなんだろうね」
私には今まで、『夢だけを追い続る特権』を与えられていたように思える。
けれどもそれは、そろそろ剥奪されてしまうらしい。
「……? おじちゃんの言ってること、分かんない! 夢は追いかけちゃダメなのって、私は聞いてるの!」
じたばたと暴れだすお姫様。
要領を得ない私の返答にご立腹な様子だ。
さて、どうやってなだめすかそうかと考えながら私は―――
「私はまだ、夢の途中でね。
夢を追い続けてよかったと思えることはほとんどないけれど、でも、いつの日か」
いつの日か、君に胸を張って「夢」を語れるような、そんな「大人」に―――私は。
※
こうして私は、「大人」になった。
しかし同時に私は、まだまだ「大人」にはなりきれていないとも、思う。
―――いつの日か、わたしは「大人」になれるだろうか。
……いや、ならなければと、私は思う。
なぜなら、それが今の私の、もうひとつのーーー




