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ゆっくり話して/婚約者の死刑待ち  作者: 香詠 Koei
第二章 愛され女になった
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第9話:敵国軍人も、私に夢中

大佐は、一晩中、忙しく働いていた。ソフィーがジャッキーに連れられて階段を上がっていくのを見届けると、極度に張り詰めていた神経がようやく緩み、彼は階下の自室に戻り、朝までぐっすりと眠った。


起きて、身支度を整え、さあ出勤しようという時になって——彼は、自分の軍用外套がまだソフィーのもとにあることに、初めて気がついた。彼は深く考えもせず、クローゼットから予備の外套を取り出し、ベッドの上に置いた。


彼は、ソフィーの様子が気がかりだった。彼女くらいの年頃の娘なら、通常、あれほどの恐ろしい経験のあとは、平静を取り戻すまでに数日を要する。だから、出勤前に彼女の様子を確認しておきたかった。

ところが、階段の入り口まで来たところで、彼は立ち止まってしまった。上の階には、老人一家だけでなく、ソフィーとジャッキーという二人の若い女性も寝ている。彼女たちがまだぐっすり眠っているであろうこの時間に、上の階に上がるのは不適切だ。彼は、階段の入り口で待つことにした。幸い、後方地域の司令部付きの上官である彼は、緊急事態でない限り、少々出勤が遅れても問題はなかった。


(少し、早すぎる時間か)

そう思って自分の部屋に戻ろうとした時——上の階から、ドアの開閉音が聞こえてきた。


(モーちゃんか、ジャッキーだろう。フィーちゃんは昨夜あれだけのショックを受けたばかりだ、こんなに早く起きられないはずだ)


ところが——数秒後、階段を下りてきたのは、彼自身の軍用外套と——その軍用外套に包まれた、ソフィーだった。


(なんて、美しいんだ……)

昨夜は照明が不十分で、彼女がただの美女だということしかわからなかった。しかし今、朝日の中で見る彼女の美しさは、昨夜の何百倍も増して、大佐の注意を完全に奪い去った。彼が職業軍人であり、咄嗟に自分の意識を制御できたからこそ、平静を失わずに済んだのだ。


***


ソフィーは、階段の下に立つ男を見つめていた。彼も、じっと彼女を見つめていた。そして数秒後、また男が視線を外した。


(かわいい)

ソフィーは、今回のにらめっこ勝負も自分の勝ちだと思った。いつだって、彼のほうが先に視線を外すのだ。


(……ううん、負けてるのは、多分、私のほうだ)

(だって私は彼から目を離せないのに、彼はちゃんと、他のところを見られているんだから)


ソフィーが心の中で、そんなにらめっこ勝負の勝敗ルールに頭を悩ませていると、大佐が先に口を開いた。


「フィーちゃん、おはよう。昨晩は、自己紹介を忘れてしまった。すまない。私はこの地域で働く軍人で、階級は大佐だ。どうか、大佐と呼んでほしい。本当の名は、名乗れないことを、理解してほしい」

言い終えると、彼は思わずくしゃみをして、鼻をすすった。そして、何事もなかったかのように振る舞う。


(昨日、私に軍用外套をかけてくれたから、車の中で風邪をひいたの?)


彼を気遣おうとしたソフィーだったが、大佐のよそよそしい警戒心が、彼女を現実に引き戻した。この現実の世界では、二人の親友が、今どこにいるかもわからない。最悪の可能性も覚悟しなければならない。自分は一時的に安全かもしれないが、その安全がいつまで続くかは保証されていない。彼に友人たちの行方を尋ねたかったが、軽率な行動で自分の状況を悪化させてしまうのが怖かった。何しろ、体の香りにはすっかり慣れ親しんでしまったが、目の前の男については、名前すら満足に知らないのだ。


大佐は、彼女の美しさに過剰に気を取られて醜態を晒さないよう、わざと彼女から視線を外した。そのせいで、彼はソフィーの、ほんの少し前の複雑な表情の変化を見逃してしまう。彼女の放つ、若い娘の香りに、彼の心臓は激しく高鳴った。この場から逃げ出したくて、彼は言った。


「ワタシはこれからシゴトだ。何かあればモランおジイちゃんかおバアちゃんにソウダンしてくれ。二人が君に、何か軽いシゴトを任せてくれるだろう」


(……ああ、そういうことか!)

ソフィーはようやく理解した。昨晩、車の中で彼の言葉が聞き取れなかったのは、彼が緊張している時だけ、訛りがひどくなるからだ。普段はほとんど訛りがないのに。


(でも、今、どうして緊張してるんだろう?)


「じゃあ、これ、お返ししますね」

そう言うと、ソフィーは軍用外套を脱いだ。その一瞬、軍用外套の前が開き、薄い服越しでもはっきりとわかる、豊満な胸の膨らみが、大佐の目に飛び込んできた。大佐はそれ以上見ることを敢えて避け、すぐに背を向けた。ソフィーが軍用外套を彼の手に置くと、彼は振り返りもせず、自室へと戻っていった。


部屋に戻り、ドアを閉めて、周囲に誰もいないことを確認する。大佐は軍用外套を鼻先に持っていくと、ソフィーの残り香を、深く吸い込んだ。彼はベッドに置かれた予備の外套をクローゼットに戻すと、この「ソフィーが着た」軍用外套に袖を通し、それから、出勤していった。

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