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一日ぶん、歪んだ月  作者: 宝や。なんしい


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第9話

母が冬弥(とうや)君と暮らしはじめた頃のことだった。


「一度ね、私のこと抱いてもいいよ、って言ったんだけどね」


冬弥君はきれいな顔をしていて、

それだけでモテそうな感じがするんだけど、

人とつき合うのが苦手でね、

ご両親とも合わなくて、


とてもかわいそうな子なのよ、という言い訳をしたあと、

そんなことを私に語った。


電話の向こう側で、

母は、少し酔っていたようだった。


「でもね、いらねえ、ってあっさり断られちゃったの」


そして照れたようにして、かわいそうだと思ったからね、

と言っていたが、


酔っ払っているとはいえ娘に話すことか。


「人ってね、満月とか新月とかの夜に、

生まれたり、死んだりするんだって」


おもむろに冬弥君が言った。


「へええ、なんでやろうね」

妹が無邪気にこたえる。


「潮の満ち引きが関係していて、

特に女性は、地球の引力を感じやすいらしいよ」


母が意識のないまま、

三日も命を繋いでいたのは、

満月を待っていたためだったのだろうか。


「人間って、やっぱり地球にとらわれているんだね」


冬弥君にとって、母はどんな存在だったのだろう。


地球の片隅で、ひっそりと肩を寄せ合って暮らしていた、

母と冬弥君。


それでも地球に繋がれていないと生きてはいけなかった。


地球のへその緒を切って、

今、母はようやく自由になれた。


母の死に顔は、今、

私の記憶しているどんな顔より美しい。


私たちは母の遺体に向かって厳粛に献杯をして、

ささやかな宴をお開きにした。


それは照れ臭さなんかもあって、少し、芝居がかってはいたけれど。


そして冬弥君は、

手際よく私たちの分の布団を敷いて、

自分はさっさとどこかに出て行ってしまった。


母の話によれば、他に知り合いなどいないような気もしたが、

私たちは彼の親切に甘えることにした。


妹はさすがに泣き疲れたこともあってか、

布団にもぐりこんだとたん、寝息をたてはじめた。


母の影を気にしながらも、私も少しウトウトしかけた時、

スマホが微かに振動した。


冬弥君からのメッセージだった。


「おやすみ」


それだけだった。


少し考えて、私も「おやすみ」と返した。



カーテンをすり抜けて入ってきた明るい月の光は、

ゆらゆらと揺れながら、じわりと私たちを照らし出していた。


まるで海の底にいるかのような息苦しさを感じながら、

いつのまにか、

私も眠りについていた。



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