第7話
妹はずっとしくしく泣きっぱなしで、よく涙が枯渇しないもんだ。
叔母さんたちへの当てつけのつもりで泣いているのかと思ったが、
そうでもないらしい。
私はなにげなく立ち上がって、
ベランダに出てみた。
冷たい風がぴゅうと鳴って、
私の顔を真正面から打ちつけていった。
アパートは高台にあったが、そこから見える街の景色は恐ろしく暗かった。
灯りが異常に少ない。
私が住んでいるところも大概田舎だが、
平野の圧力は半端じゃなかった。
ビロードのようにしっとりとした漆黒の空には、
月が張りついている。
今夜こそ、紛れもない、
まんまるな月だ。
じわじわと頭の奥のほうから、
ススキの野原のイメージが浮かび上がってきて、
そのまま支配されそうになる。
慌てて強く頭を振った。
スッと背後に気配を感じたので、
振り返ると、若い男がこちらを見て立っていた。
「すまん。遅くなって。メシすぐ作るから」
若い男は当たり前のようにそう言って、
そしてその言葉通り、
手に持っていたビニール袋の中の、
大量の食材の調理にすぐさま取り掛かった。
「|冬弥君、最近、お母さんはどんな様子やったん?
なんかそんな兆候でもあったん?」
妹は噓のように晴れやかな顔をして、
調理に忙しい冬弥君の後ろ姿に話しかけた。
冬弥君は、慣れた手つきで次々と料理を完成させていった。
フライパンがじゅうじゅうと音をたてると、辺りにいい匂いがただよいはじめた。
油の焦げた匂いが、
空きっ腹を刺激する。
「いや、ふつうだったよ。
まあ、あの人はよく酒を飲むからね」
冬弥君は、母のことを、あの人と言った。
「ご飯がすぐに炊きあがるから、もう少し待って」
小さなテーブルには、次々と手料理が並べられた。
簡単な家庭料理ばかりだったが、
どれもとてもおいしそうに仕上がっていた。
「先、食べてていいよ。なんも食べてないんでしょ、今日」
冬弥君はイメージとはずいぶんと違っていた。
蒼白い顔をして、背はひょろりと高い。
瘦せた身体に白いシャツをふわりと羽織っているだけだったが、
それがよく似合っていた。
とてもおじさんとは呼べないあどけない顔をしていて、
母が「男の子」と言い続けている理由がわかる気がした。
ただ、その幼い表情とは裏腹に、
世の中を達観して見ているような、
飄々とした雰囲気があった。




