第2話
冬弥君は、
母との生活の中で自分の痕跡を絶対に残さない。
千葉の家へ何度か遊びに行ったことがあるが、確かに誰かと住んでいるような形跡はまったく見当たらなかった。
私たちが行くと、
遠慮してまったく姿を現さなくなってしまうため、
ほんとうにこの世に存在する人間なのかと疑ってしまうことすらある。
母の夢物語に出てくる、架空の少年ではないのだろうか。
そんなことを考えることもあった。
そんな時、私は妹に、
「冬弥君って、ほんとうに現実にいるの?」
と訊いてみるが、
妹はずっと昔に会ったことがあって、
冬弥君の実物を知っているので、私のこの途方もない不安定な気持ちには、
まったく理解がない。
「いるよ」
妹の応えはいつも端的で、みもふたもない。
すでに職場に向かっていた妹を呼び戻して、大慌てで新大阪から新幹線に飛び乗ったが、
東京に到着したのは、それでももうお昼を過ぎていた。
そこから総武線で千葉の姉ヶ崎へと向かう。
あまり行くことはなかったが、母がいなくなったら、ここに訪れるのはこれで最後になるだろうな、というようなことをぼんやりと考えていた。
車窓からは、ススキの原っぱがどこまでも広がっているのが見えた。
なぜか、母のイメージとぴったり重なっていく。
そしてそれは、時々私が見る夢と同じ風景だ。
なんにもなくて、私だけがそこにポツンと立っていて、
ただひたすらに何かを迷っている。
なんの起伏もない夢だが、いつも怖くてしょうがなくなって、
必ず途中で目が覚めてしまう。
妹はどんなときもよくしゃべるが、
さすがに慎重な面持ちで、電車の中ではやたらと大人しく静かにしていた。
その姿は、わざとらしく悲しんでいるようにも見えたが、
特に話すこともなかったし、
私のほうも、本を読んだりスマホを触ったりしながら、ただ漫然とその時間を過ごしていた。




