第18話
平日だというのに、
オープンしたばかりのスーパー銭湯は多くの客で賑わっていた。
街の静けさを思うと
対称的。
窓のない休憩室にも、
ほんのりと雨の匂いが感じられたので、
おそらく外はもう本降りになっているのだろう。
しまった。
傘を持ってなかったな、なんてことを考えながら、
ここでは聞こえない雨粒の冷たさを感じた。
「あの人が、亡くなる前の日の夜に」
なんで喧嘩したのか覚えてないけど、
きっと
すごくつまらないことだったと思う
と、冬弥くんは続けた。
そこには若干、
母と冬弥くんの二人だけにしか踏み込めない
事情を感じられた。
「それで、家を出て、
翌日家に戻ったら玄関で倒れてた。
もう意識もなくて。それで、
それで、
ええと」
あまり感情を表に出さない冬弥くんにしては珍しく、
動揺を隠しきれないようだった。
「それで、そのまま?」
「あ、そう。
そのまま、意識は戻らなかった」
妹はひとごとみたいに「ふうん」と言った。
「医者が言うには、
もっと早く治療してたら助かってたかも知れないって」
そして「ごめん」と小さな声で呟いた。
その時、
母の眼には何が見えていたのだろう。
何を思っていたのだろう。
次第に薄れてゆく意識の中、母は何を感じていたのだろうか。
血液がこびりついた母の顔が
思い出された。
冬弥くんは後悔する。
一生拭えない罪の意識。
「冬弥くんが悪いわけじゃない。気にしなくていいよ」
薄っぺらい慰めでも、何か言わずにはいられなかった。
ほろ酔い気分で外に出ると、
雨はやんでいて、辺りはすっかり暗くなっていた。
アスファルトは濡れて街灯の光が反射。
きらきらして綺麗だと思った。
「日が落ちるの早くなったよね」
「まだ暑い日は多いけどね」
三人はそれぞれの思いを抱いたまま、
へらへら笑う。
なんでもないつまらない話をとめどなくして、
いつまでもいつまでも笑っていた。
小さな森の暗闇の中にひっそりと建つ神社を過ぎると、
母のいない部屋。
「ああ、疲れたなあ」
両手をのばして深呼吸をしたら
疲れがどっと押し寄せた。
明日、
母が火葬される。




