第16話
「私たち大阪から来ていて、今後もうここに来ることはないんですけど、
なんとかなりませんかね」と、
もう一度お願いしてみたが、
ぽっちゃり男は考えを改めるつもりはないようだった。
「ご存知ないかも知れませんが、
銀行では必ず相続の手続きが必要なんですよ」
人をバカにしたようなこの言い草には、
さすがにカチンと頭にきた。
「少額なのに融通ききませんね。
それじゃもうこのお金は出せなくなるってことですね。
ずっとこの銀行に残ったままになるってことですね」
「いえ、
ちゃんと正規の手続きをしていただければ
いつでも解約できますので」
そうでしょうとも。
ぽっちゃり男は間違ってない。
しかし、お前には感情はないのか。
チャッピーのほうがよほど寄り添ってくれるぞ。
「めちゃむかつくな、あのおっさん。
頭に花咲かせやがって」
銀行を出てから口汚く罵っていると、冬弥くんが面白そうに笑った。
「笑い事ちゃうで」と言いながら私も笑い、妹も笑った。
「相続せなあかんことぐらい知ってる言うねん。
でも少額やったらそのまま出してくれるとこもあるやんね。
二万円くらいそっと出しとけよ。
しょおもないルールに縛られてるんちゃうで」
私たちは銭湯までの道のり、
周りのことなんてまるで気にすることもなく、
ずっと文句を言っては爆笑しながら歩き続けた。
この街に到着したばかりの頃は
夕暮れ時だったということもあったせいか、
やけに寂れた街だと思ったが、
日中に見るとちゃんと生活感のある街に見えた。
或いは
いつの間にかこの場所に僅かに馴染み、
視野が広がってきたせいか。
色んなものが目に入るようになったからなのだろうか。
銭湯は、最近オープンしたばかりということで、
こぢんまりとはしているが、とても清潔でおしゃれだった。
冬弥くんが、じゃ休憩室で待ってるからと言って、
男湯のほうに消えていった。
普段でも銭湯に行くことなどなかったので
楽しくて、
つい年甲斐もなくはしゃぎ過ぎてしまった。
「あ、忘れてた、冬弥くん、待ってるんやったわ」




