第15話
銭湯に行く前に、銀行に行くことにした。
ここに居る間に、
母の遺した通帳を片付けてしまわなければいけない。
郵便局とT信用金庫とH銀行。
「冬弥くん、ついてきてもらってもいい? 場所わからんし」
冬弥くんはなんでもないように、
いいよとこたえた。
もちろん生活保護を受けていた母に
財産などどいうものなど期待できるはずもなく、
通帳の残高は全部合わせても
十万にも満たない。
「相続しろとか言われたらややこしいから、
カードでちゃっちゃと出金してしまおうか」
どの銀行も家からほど近いところにあった。
家を出るとすぐの小さな森の中にある神社を横目に、
なだらかな坂をたらたらと下っていくと、
小さなスーパーがあった。
「こんなところにスーパー、あったんやな」
昨夜お腹をすかせて途方にくれていたが、
探せばなにかしらあったのかもしれない。
母の生きてきた頃の、
生活動線が見えるようで面白いと思った。
あちこちに母の残像。
ふわりと湿気を含んだ風に包まれた。
もうすぐ雨になる。
最初は郵便局。
特に悪いことをしているわけでもないのに、
後ろめたい気持ちが三人を挙動不審にさせた。
それでもATMにカードを差し込み、
暗証番号を入れるとすぐに引き出しすることができた。
暗証番号は母の生年月日だった。
窓口の局員に気がつかれることもなくスムーズに成功。
気を良くした私たちは次のT信用金庫へと向かう。
ここでも特に問題なく成功。
あと残っているのは、H銀行。
残高は二万円と少し。
ここも同じようにATMで引き出しをしようとしたが、
暗証番号のエラー。
まずい。
冬弥くんの生年月日を試してみたが同じだった。
三回間違えるとカードは使えなくなるので、
やむなく店内へ。
田舎の銀行はこんなに暇なのかと思うくらい誰もいない。
必然的に私たちは悪目立ちした。
変に隠すと逆に面倒なことになると思い、
正直に話してみた。
残高も多いわけじゃないし、
なんとかならないかと思ったが、
なんともならなかった。
奥から出てきた黒縁眼鏡のぽっちゃりした男性が、
真面目な顔をして
「相続の手続きが必要ですね」と、皮肉な笑いを浮かべながら言った。




