第14話
母が眠っていたベッドは、そこはかとなく、
がらんとしていた。
いつも使っているのだろうと思われる
シーツ代わりの色褪せた花柄のタオルケットには、
母の形が隅々まで残されている。
生々しい、
ふくよかな指先まで。
部屋に漂う物足りなさは、
主を失ったこの部屋の悲しみなのかも知れない。
「銭湯でもいこうか」
冬弥くんがおもむろに言った。
「駅の向こう側に大きな銭湯ができたらしいんだ」
「行きたい」
屈託もなく妹が即答する。
ここに来てから
妹が、次第に幼くなりつつあることに気がついた。
冬弥くんに対して、
母親にするような、
幼い子どもが甘える仕草というのだろうか。
小学校にあがる前、
母と離れて暮らすことになった妹は、
小さいなりにも、様々な気苦労があったのだろう。
同年代の子どもたちより、早く大人になることを余儀なくされた。
滅多に会えない東京の母と会うたび、
そういえば、
いつも妹は幼くなる。
失った時間を、急いで取り戻そうとするかのように。
一緒に過ごせなかった時間を、
馴染みのない母に執拗に甘えていた。
妹にとって冬弥くんは
母の代わりで、
冬弥くんにしても、
私たちのことは自分の子どものように思っていて、親になったつもりでいる。
その理由は私にはわからないが、
こうやって同じ時間を過ごしていると、それも然り。
妹と冬弥くんは
以前からお互いを知っていて
そうした意識のうえに成り立つ複雑な関係が、
すでに築き上げられていたのかも知れないと、
微妙な違和感に納得した。




