第13話
十時になる少し前、
体格のいい男性が二人でやってきて、のしのしと家の中に入ってきた。
水分を含み柔らかくなった畳の上を、
大きな男が歩く度、ぎしぎしと軋む音がする。
湿った匂い。
二人は、
手際よく
てきぱきと母の遺体を棺に詰めてゆく。
男たちも私たちも、
まるで感情をどこかに置き忘れてきたような、
たんたんとした時間。
しかしその違和感は、今の私には心地よかった。
二人組は、母の収まった棺を担いで玄関を降り、
そのままの状態で、
ご挨拶をどうぞと言った。
妹がもうすでに涙ぐんでいる。
なぜこんなにすぐに泣けるのか不思議だが、
この場合、
私の方がよほど異様に見えるだろうということは自覚している。
「お母さん、また明日行くからね、ばいばい」
そつのない上手い言葉を
棺にかける、妹。
次に、
二人組は私の方をじっと見る。
私がただの長方形の木箱に向かって、
感動の言葉を投げかけるのを待っているのだ。
そう思えば思うほど、涙は静かに乾いていく。
気まずくなったので、
とりあえず「あ、明日ね。ばいばい、元気でね」と声をかけてみた。
二人組は無表情のまま、
恭しい感じで棺を車に載せて静々と去って行った。
よくテレビで見かける、
クラクションをふぁーんと鳴らしたりしなくて、
残念。
気がつくと、近所の人も何人か見送りに出てきていた。
昨夜、線香をあげにきてくれていた人もいて、
軽く会釈だけしておいた。
できるだけ目立ちたくないと思った。
私はここの住人じゃないし、
これからもここで生きていくつもりもない。
ここに私の居場所は永遠にないから。
ここは母の匂いがする。
「なあ、紗綾ちゃん。ところでさ、元気でねってなんなん」
妹は笑いをこらえている。
冬弥くんも興味津々にこちらに目をむけた。
「お母さん、死んでるのに元気でねはないやろ」
「いや、私もおかしいと思ったけど、つい流れで」
「流れ」
「流れ、ね」
そうしているうちに思わず三人で爆笑。
母が亡くなったというのに
なんという不謹慎か。




