第11話
小さなちゃぶ台を囲んで、三人は窮屈に座った。
サッシの窓からは、
やわらかな朝の光が射し込んでくる。
ずっと以前からそうしてきたような
自然な食卓の風景。
この馴染み方はなんだろう、すっかり家族みたいだ。
「ほら、茉奈はこれが好きなんだろ」
そう言って冬弥くんは
妹の前に茄子の浅漬けを取り分けた。
妹がぽかんとして、
「私って茄子の漬物好きやったっけ」
「え、違うの?」
「いや、まあ好きやけど」
「いつも、茉奈は茄子の漬物が好きなんだって、
酔うたびに言ってたから」
「なんじゃそりゃ。
私、小さい頃、茄子の漬物好きやったんかな。
なんか覚えてへん」
妹は、自分の覚えていない過去を知っている人がいる不思議を、
面白がっているようだ。
母が残してきた幼い子どもたちの記憶は、
出ていったあの日に凍結され、
そのまま冬弥くんに受け継がれている。
私たちにとっても母にとっても、
あの日からお互いの時間は止まったままなのかも知れない。
食事を終えて、テレビを観ながらお茶を飲んでいると、
冬弥くんがおもむろに
現金封筒と通帳を何冊かちゃぶ台の上に広げた。
「これ、預かってたから」
昨日、叔母さんたちが探していたものだ。
冬弥くんが持っていたのか。
「姉さんたちに見つかると面倒だから、隠しておいたんだ」
冬弥くんにとっては、叔母さんも姉さんになるのか。
冬弥くんは、迷惑そうな顔をしながら
「姉さんたち、いつも金の無心しにくるから」と続けた。
「金の無心?」
「何、それ。叔母ちゃん、お金ないの?」
「わかんねえけど、いつもなんだよ。
金、貸してくれって。
あの人に見つかると、全部持ってちゃうから隠しておいたんだ。
これは、彩綾たちに渡さないといけないものだと思ったから」
事情はわからないが、それで納得した。
昨夜のあの叔母さんたちの様子。
必死で金目のものを探していた、あの浅ましい姿が鮮明に甦った。




