第10話
どこかで聴いたことのある懐かしい曲。
どこで聞いたんやったけと考えつつ
緩やかに目が覚めた。
それは炊飯器が炊き上がりを知らせるメロディーだった。
ええと、そうか。
アマリリス。
ふと、イメージが沸き起こる。
ふっくらとした母の手に包まれた私の小さな手。
遮断機が下りるけたたましい音。
古い古い記憶。
「布団、かたしちゃうから起きて。
もうすぐ遺体引き取りの人くるし」
お日さまの匂いのする布団は心地よく、
また夢の世界へ引きずり込もうとする。
寝起きだったせいなのか、
冬弥くんのしゃべり方が母に似ているせいなのか、
つい小さな子どものように甘えたい衝動に駆られた。
「ええー、眠い」
冬弥くんは私の顔を覗き込んで、
表情を変えないまま、頭をこつんと叩いた。
そしてまた「早く起きなさいよ」と母のような口調で言って、
少し笑った。
この人は、
母の代わりにでもなったつもりでいるのだろうか。
なんだか急に恥ずかしい。
台所に行くと、
妹は先に起きていて、かいがいしく朝食の準備を手伝っていた。
あたたかいご飯の匂い。
「紗綾、玉ねぎとじゃが芋のおみおつけ好きだろ」
「おみおつけ?」
「そう、だから豆腐は入れなかったよ」
「おみおつけってなんか聞いたことあるけど、何?」
冬弥くんは、手をとめて私を見た。
「え、なんだよ。おみおつけ知らねえの?」
「知らん」
「お味噌汁のこととちゃう?」
妹の言葉に、みんな目を合わせて
「ああ」と納得。
「大阪ではお味噌汁って言うの?」
「うん、てか逆に、東京ではお味噌汁って言わんの」
「まあ、言うけど」
おみおつけって、味噌汁のイメージじゃないよね、
なんか漬物みたいよね、
どんな漢字なんだろうね、
なんてことを言いつつ、
騒いでいるうちに朝食の準備が整った。




