第3話 純粋一推し体質
# 《推し変誘導士は推し変できない》
## 第3話 純粋一推し体質
【2025年11月22日 信仰値:9億9997万2100】
危険水域まで あと2,790
(零は今日も、ミコの配信を1秒も見なかった。
でも、世界のどこかで誰かが新しく推した。)
推し変庁本部・医務室。
零はベッドに横たわり、天井を見つめていた。
ルミ・セラの事件から3日。
任務失敗の罰として、強制的に信仰値注入された1,000万が、まだ体に残っている。
胸の奥が熱い。
ミコの声が、頭の中に直接響いてくる。
『零くん……どうして来てくれないの?
寂しいよ……』
霧島主任が入ってきた。
「白崎君……検査結果が出たわ」
「あなたの体質、正式に確定した」
零はゆっくり体を起こす。
「……純粋一推し体質、ですね」
主任が、ため息をつく。
「一生、最初の推ししか推せない。
推し変しようとすると、激痛と吐血。
最悪、死ぬ」
零は、静かに笑った。
「知ってました」
――7年前。
15歳の零は、初めてミコ・エターニティの配信を見た日を、決して忘れない。
学校の屋上。
クラスメイトたちが、スマホを囲んで騒いでいる。
「新しいVtuber神、ヤバいぞ!ミコ・エターニティ!」
「永遠の17歳ってマジ?300年活動してるらしい」
「もう推し変したわ。前の推しとかゴミ」
零は、無関心だった。
推しなんて、くだらないと思っていた。
でも、画面に映った少女を見た瞬間。
ピンクの髪。
透き通るような笑顔。
「おはよう、みんな!今日も一緒にいてくれてありがとう♡」
胸が、締め付けられた。
初めての感情。
――この子を、守りたい。
零は、無意識にコメントを打っていた。
【初見です。ミコちゃん、永遠に推します】
その瞬間。
体が熱くなった。
心臓が、永遠にミコのものになったような感覚。
次の日から、クラスメイトたちは次々と推し変した。
新しい神、新しいアイドル、新しいキャラ。
でも零だけは、できなかった。
他の配信を見ようとすると、吐き気がする。
他の子を「可愛い」と思うと、頭が割れるような痛み。
医者に診せたら、こう言われた。
「君の体は、もう一生ミコ・エターニティしか受け付けない」
「純粋すぎる信仰が、体質を変えたんだ」
――純粋一推し体質。
世界に100人もいない、極めて稀な症状。
主任が、資料を閉じる。
「白崎君……あなたがミコ・エターニティを殺す日が、すぐそこまで来てる」
「あと2,790。
明日には、2,000を切るかもしれない」
零は、静かに呟いた。
「……知ってます」
窓の外。
世界中で、老人が若返るニュースが流れている。
ミコの権能が、少しずつ発動し始めている証拠。
主任が、最後に言った。
「あなたは、エースだ」
「だからこそ……あなたにしか、殺せない」
零は、ベッドから立ち上がる。
端末を開く。
ミコ・エターニティ公式チャンネル。
最新動画のサムネイル。
ミコが、涙を浮かべてこっちを見ている。
タイトルは。
『零くんへ。
もう、来てくれなくてもいいよ。
でも、忘れないでね♡』
再生ボタンに、指が触れる。
でも、零は押さなかった。
代わりに、端末を閉じた。
あと2,790。
あと少しで、
俺は自分の心を、
自分で殺さなければならない。
第3話 終わり。
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次は第4話「庁内の過激派」




