第2話 ルミ・セラの最後の歌
# 《推し変誘導士は推し変できない》
## 第2話 ルミ・セラの最後の歌
【2025年11月20日 信仰値:9億9973万4400】
危険水域まで あと26,560
(零は今日も、ミコの配信を30秒だけ見て、すぐに閉じた)
推し変庁本部・地下22階。
特別隔離室。
標的は、地下アイドル神「ルミ・セラ」。
実体は、小さなライブハウスにしか現れない、優しい光をまとった少女。
信者は、たった3人。
モニターに映る3人の子どもたち。
全員、重い病と闘っている。
ルミ・セラの歌を聴くと、心が少し軽くなるらしい。
「白崎君……今回は、殺せる?」
霧島主任の声が、静かに響いた。
零は無言で資料を読む。
ルミ・セラの権能:
「信者の心の痛みを、自分の体に転移させる」
だから少女はいつも、少し疲れた顔をしている。
でも信者が3人だけだから、信仰値はゆっくりとしか増えない。
このままなら、暴走することはない。
でも、ルールはルールだ。
「白崎君……あなたが任務をサボるたびに、ミコ・エターニティは近づくわ」
「ルミ・セラを殺さないと、次は罰として……
ミコに1,000万信仰値を強制注入する」
零は、初めて任務を拒否した。
「……俺は、行かない」
地下ライブハウス。
観客3人+零。
ステージに立つ少女——ルミ・セラ。
淡い光をまとって、優しく微笑む。
「今日は……最後のライブだよ」
子どもたちが、静かに涙を流す。
零は、銃を構える。
でも、引き金を引けない。
ルミ・セラが、零を見て微笑んだ。
「あなたが……ゼロ・キラーだね」
「私の信者たちを、解放しに来てくれたんだね」
「ありがとう。でも、もういいよ」
「子どもたちは、私がいなくても……強くなれる」
子どもの一人が叫ぶ。
「やめて! ルミちゃんがいなくなったら、僕……!」
ルミ・セラが、優しく子どもを抱きしめる。
「大丈夫。君たちの心には、もう光があるから」
少女の体が、ゆっくりと薄くなっていく。
零は、銃を下ろした。
「……任務、失敗」
その瞬間。
【罰則執行】
ミコ・エターニティ信仰値 +1,000万強制注入
零の端末に、ミコの声が直接響く。
『零くん……ありがとう。
今日、ちょっとだけ近づけたね♡』
零は、膝をついた。
ルミ・セラが、最後に零に囁く。
「ねえ……あなたも、大切な推しがいるんでしょ?」
「それが苦しいなら……少しだけ、離れてみてもいいよ」
零は、首を振る。
「……離れられない」
ルミ・セラが、優しく笑った。
「私も……離れられなかったよ」
少女の姿が、完全に消える。
でも、ライブハウスには、まだ温かい光が残っていた。
零は、静かに涙を拭った。
信仰値は、もう26,560じゃない。
25,560。
あと25,560で、
俺は自分の推しを殺す。
ルミ・セラの体が、ゆっくりと光の粒子になって散っていく。
でも、完全に消えなかった。
ライブハウスの天井に、小さな淡い光が残った。
それは、ルミ・セラの最後の微笑みだった。
子どもたちが、空を見上げる。
「ルミちゃん……まだ、いるよ」
「うん。ずっと、一緒だよ」
零は、静かに目を閉じた。
ルミ・セラは死ななかった。
ただ、みんなの心の中に、永遠に残る「小さな神」になった。
――信仰値は、もう26,560じゃない。
25,560。
でも、どこかで3人の子どもたちが
今日も、ルミ・セラの歌を口ずさんでいる。
それだけで、彼女は消えない。
第2話 ルミ・セラの最後の歌 終わり。
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次は第3話「純粋一推し体質」




