第61話 事件の解決編が始まりましたが、私には他人事です
「私が即位する以前から、フリューエル家にも、サーシャルにも恩があった。今回、私の暗殺を企んでいた首謀者を捕らえることが出来たのも、フリューエル家の尽力があったからこそだ。こういった襲撃があったことが表沙汰になれば、当面の間、側妃を娶らせようという勢力を黙らせることも出来る。一時的に警備の不手際ということで、フリューエルの家名に傷をつけることにはなるが、すぐに挽回に持っていく手筈は整えていた。それなのに……お前という莫迦者は」
滔々と語りながら、エオールの隣にユのつく旦那様=陛下が並び立ちました。
壮観ですね。
……などと、感動している場合ではなくて。
(要するに、陛下は襲撃があることを知っていて、わざとやらせて捕えた。それに、フリューエル、ミノス家も協力していたっていうことよね?)
犯人も捕らえることが出来て、側妃を娶らせようとしている勢力も黙らせることが出来て一石二鳥。
お得ですね。
しかし、お楽しみの舞踏会を阻止するべく、勝手にアデルが動いて妃と陛下に薬を盛ってしまった……と。
(おおっ。私、何か事件の絡繰りが分かってしまったかも!)
いやいや、調子に乗りすぎですね。私。
そんなこと、どうだっていいことなのに。
(……帰りたい)
何故、この国の中でもお偉い身分の方々が、狭い個室にぞろぞろと押しかけて来てしまったんでしょう?
(余所者の私がいる前で、ぺらぺら重要機密まで喋り出していますよ。この国、大丈夫なんですか?)
本来であれば、私も立ちあがって、お辞儀くらいしなければ失礼なのでしょうが……。
すいません。
腰が抜けてしまって、立てないのです。
「調べはついている。動機がどうであれ、料理人や侍女を買収して薬を盛らせたのは、お前だ」
「違います。俺は……」
今までの自信満々の大人びた十四歳が、急に萎んで年相応、いや、それ以下の小さな子供になってしまいました。
「すべて……サーシャルに話しても良いんだぞ?」
「やめてください!」
今にも泣き出しそうな声で、アデルが懇願しました。
「俺はただ……今回の舞踏会は、陛下が側妃として、姉様を娶るための……前振りだって聞いたから、どうしても阻止したくて」
そして、彼はよろよろと立ち上がると、陛下の前で膝をついて、深々と頭を下げたのです。
降参……ということのようです。
「アデル……。中止をしたら、今回の襲撃犯をその場で捕えることが出来なくなっていただろう?」
「そんな奴ら、俺がどうにでも……」
「力技では何の解決にもならないだろう? 今まで証拠がないために立件できなかったんだ。今回の件は入念な下準備をして、聖統御三家と示し合わせた上で実行した。お前が下手な横やりをしたせいで、更に面倒なことになったんだぞ?」
そうですね。
彼が余計なことさえしなければ、私だって、こんな目に遭っていなかったのです。
うっかり、相槌を打ってしまった私ですが、こういう時だけ悪目立ちをしてしまう才能があるようです。
ばっちり目撃されていたらしく、アデルに怒鳴られてしまいました。
「おい! そこの女。お前、一体何者なんだ? お前に俺の何が分かるんだ!?」
「煩い。いい加減にしろ。アデル」
「しかし、陛下」
「お前が憂いていることは、私だって理解はしているのだ」
陛下が溜息を溢しつつ、ちらりとエオールを見ていました。
何の目配せなのでしょうか?
アデルは、必死になって叫んでいます。
「どうか、陛下! 姉様を側妃にはしないと公言してください!! 陛下の愛人だとか、側妃候補だとか、そんな噂を立てられていたら、姉様はいつまでも幸せになれません」
……ん?
(じゃあ、サーシャルは愛人ではないということ?)
愛人というのは、あくまでも社交界の噂?
(セーラ様。まさかの早とちりですか? 誤解するにしても、迷惑過ぎますよ)
……それに、アデル。
この期に及んで甘ったれた頼み事を。
(私のことを、散々莫迦にしていたけれど)
――莫迦……なの?
犯行動機は、すべて身内のため。
反省もなく、陛下に願い事までする始末。
(今回も寛大な処分にするつもりでいたって……。王宮内にまで進出して悪事を働く犯罪者ですよ。それじゃ駄目ですよね?)
ああ、突っ込みたい。
けれど、私は早く退出することだけを考えなければならないのです。
(お二人の注目がアデル坊ちゃんに集まっているうちに、私は速やかにここを去らなくては)
傍観者に徹することが出来ているのは、自分に矛先が向けられていないからです。
動け動けと、腑抜けた腰を擦りながら、私は身体の立て直しをはかっていたのですが……。
――しかし。




