表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/67

第53話 修羅場と私

 私も最大級に焦っていたので、セーラが憑依しやすかったのかもしれませんが……。


(セーラ様って、深窓の令嬢設定だったはずなのに足が速いのね。どこの野生児?)


 ドレス姿にも関わらず、セーラは私の身体で華麗に走っています。

 魂が違うと走り方も違うのですね。

 ドレスの重みに潰されそうで、歩くだけで精一杯だった私とは雲泥の差。

 ……というか、消えかかっていたくせに、凄まじい精神力です。


(そりゃあ、自分を殺した人を目の前にして、平静ではいられませんよね)


 ……けど。

 裏口方面から、そのまま外に出たら良かったものを……。

 何を間違ったのか、セーラは舞踏会が行われている広間に走って行ったのでした。


(セーラ様、そこは駄目ですよ)


 なぜ、一等目立つ場所に?


(殺されそうだから、人が多い場所に来たかったとか?)


 けれど、肉体の持ち主は、彼女じゃないのです。

 ……()ですよ。

 招待客でもない「ラトナ」が仮面舞踏会の中に、参加してしまっている御法度な状況なのです。


『あの……セーラ様。今すぐ身体返して下さいとは言いませんけど、素早くそこから脱出して下さると……』


 心からの私の呼びかけにも関わらず、セーラはずんずんと舞踏会場の中心に向かって行きます。

 まるで、私の声が聞こえていないようです。


(ん? 声が聞こえないというより……。むしろ)


 私の身体に憑依しても、セーラは話すことが出来ないようです。

 口を動かしていますが、まるで言葉になっていません。


 はあはあ……と息を切らして、好奇な目に晒されながら、彼女が狙いを定めて突進したのは、人集りが出来ている男性のところでした。


(…………この人、誰?)


 袖口と襟元に金の刺繍が施された黒地の長いコート。

 純白のクラヴァット。

 決して派手ではないものの、すべて品の良いものばかりを身につけているみたいです。

 そして、何より長身、金髪。宝玉のような碧眼。 

 緑色の仮面を被っていても、分かります。


(エオール様と、同じ人種……) 


 見た目は違いますが、身の内から漂う高貴さと余裕。

 私の苦手な人間側の男性です。


「……っ! ……うっ」


 誰かと談笑していた男性は、いきなり袖を引いてきた私に目を丸くしていました。

 当然ですよね。

 不審人物以外の何者でもないのですから……。

 けれど、彼の袖を引いて、めげることなくセーラ=私が懸命に何かを訴えています。


(この人……セーラ様の「ユ」のつく旦那様よね)


 だったら、私が書いたメモ書きを渡せば、少し事情も分かってくれるのではないでしょうか?

 

(……て?)


 ああ……。

 あのメモ、私、外套の衣嚢ポケットに入れっぱなしでした。

 着替えてしまった今、もはや、何の意味も、ありませんね。

  

(何がしたかったんでしょう? 私……)


 男性と仮面越しに見つめ合うこと数秒。


『早くこの場から退散しましょうよ。頼みますから、セーラ様』


 必死に説得する私を無視して、セーラはその場から頑と離れようとしません。

 そうこうしているうちに、先程のお綺麗な(仮)愛人がこちらに到着してしまいました。

 彼女も早足で一直線に、この男性のもとにやって来ます。

 そうして、向かい合う三者+私一人。


(待って。この構図ってもしや?)


 語り継がれるだけで、実際目にする機会は希少。

 いや、出来れば人生で一度だって遭遇したくない。


 ――修羅場。


 ……というやつなのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ