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第51話 フリューエル邸に連行されました

◇◇


 ……で、その後、私がどうなったかというと。

 謎の一声によって、私の所有権が別の人に移ったのでした。

 ――とはいっても、青年と同じく強引に連行されたのは同じで、いきなり馬車に乗せられた私は拒否する間もなく、何故かフリューエル家の裏口から室内に連れ込まれてしまったのです。


(どういうこと?)


 セーラに助けを求めても、頭を横に振るだけです。

 これには彼女の言葉が分からなくても、通訳はいりませんね。


 ――わたくし、何も知らないわ……。


 セーラに分からないことが、私に分かるはずもないのです。

 しかも、説明の一言もなく通されたのは、舞踏会で賑わっている大広間ではなく、なぜかフリューエル家の二階。

 艶々の大理石の螺旋階段を上るよう、背中を押された時、私にとっては死出の旅が始まったようでした。


(ここで私、拷問の末に殺されるの?)


 自分で言うのもなんですが、怪しい上に目立ってましたものね。


(ああ、この赤い外套を呪いたい)


 こんなものを身につけていたばっかりに、悪目立ちしてしまったのですよ。

 ……ですが。

 二階の一室の扉を開けた途端、私の妄想を遥かに凌駕する現実が待っていたのでした。

 

「衣裳部屋?」


 一面の花園のような、ドレスの山。

 そうして、隙のないメイドの方々が私を出迎えるべく、横並びで勢揃いしていました。

 

(私……早速、死んでしまったのかしら?)


 ……ここは天国?


 そうして、ぼうっとしている間に、私はメイドさん達の着せ替え人形と化してしまい……。

 体感時間は、瞬き程度。

 彼女達は匠の技を駆使して、あっという間に私をいっぱしの令嬢に変身させてしまったのでした。


「誰……ですか? この人は?」


 鏡に映る自分を目にして、ありきたりな台詞を私が吐いてしまったのは事実です。

 ふんだんのフリルと可愛らしいリボンがあしらわれている、見るからに高価なドレス。

 薄桃色の生地を選んだのは、私の赤い靴に合わせたからでしょう。

 装飾品に関しては私は無知の極みですが、耳飾りや首飾りは、多分……金剛石。ガラス玉だと思いたかったのですが、やはり光沢が違います。

 常に寝ていたので、ぼさっと広がってしまった髪も綺麗に結いあげて下さって、血の気のない真っ青な顔は、化粧の力で血色良くなっていました。


 ……彼女達は、神様ですか?


(一体、私はどうなってしまっているの?)


 想像力だけは逞しい私にも、まったく考えつかない事態に発展しているようでした。


「どうぞ、こちらに……」


 私の支度が整ったことを察した温厚そうなオジ様執事が、部屋の外から私を促しています。

 私は今まで着ていた衣服をメイドさん達に託して、導かれるまま、ふらふらオジ様執事の背中を追いました。

 部屋を出ると、真っ先に優雅な音楽の生音が聞こえてきます。

 大勢の人達がすでに集まっているようで、談笑の声も耳に届きました。


(これが、大貴族様の舞踏会……)


 先程は死刑台に続くように見えていた螺旋階段を、私はゆっくり降りていきます。

 その途中で、オジ様執事は私に蝶が開いたような形状の「仮面」を差し出してきたのでした。


「何ですか? これ」

「今宵は「仮面」舞踏会です。こちらの仮面で顔を覆ってください」

「はあ?」


 仮面被って、みんなで踊る会?

 知りませんでした。

 貴族様は、おかしなことをするのですね。

 しかも、こんな物まで渡してくるということは、私は参加決定ということじゃないですか?


(誰が、こんな……?)


 ここはフリューエル家の屋敷です。


(……ということだから)


 二階の衣裳部屋はフリューエル家の誰かの部屋なのではないでしょうか?

 螺旋階段を降りて廊下に出ると、音楽は更に大きく聞こえてきました。


(またしても、裏口方向?)


 もはや、考えることを放棄して、オジサマ執事の白髪の後頭部だけにに注目しながら、ついて行くと……。

 再び、裏口を伝って外に出たところで……。


「ううっ」


 男の呻き声と共に、それをふん縛っている従者。

 そして……。


「ああ、来たか」


 月明かりの中、私の存在に気づいた長身の女性が風に揺れる銀髪を撫でながら、微笑っていました。


「貴方は?」


 ――と、その時でした。


『ああっ!! ううっ!!』


 背後で、セーラの雄叫びがこだましたのです。

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