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第47話 エオールからの贈り物

「仕方ありませんね。ひとっ走り行ってきますよ。別にフリューエル邸に入らなくても良いんですから。セーラ様の喋っていることは分からなくても、ご自身の旦那様を確認したら、私に指差すくらいのことは出来るでしょうし」

『でも、ラトナさんが彼女の旦那様にいきなり愛人危険……なんて伝えたら、エオール様の立場もないんじゃ?』

「大丈夫ですって。そもそも、私、初対面の人に話しかける勇気なんてありません。あくまで、こっそりとセーラ様の旦那様に「愛人危険」と書いたメモを託してくるだけです。それで良いんですよね? セーラ様」

『……っ……う』


 旦那様と愛人さんの名前が分からないのが致命的ですが、このまま見過ごして、またその愛人さんが事件を起こしたら、私も後味が悪いのです。

 セーラは膨れっ面でしたが、やがて渋々首肯しました。


(さあ、あとは舞踏会場に行くだけ……)

 

 ……なんですけど。

 そこで私は再び大きな問題に直面していました。


「あー……。まずいですね。私、ちゃんとしたドレスがないんでした。とりあえず、実家から持ってきた良さげな寝間着の上に普段着のドレスを着ていけば、裏口くらいには近づけるかと思うんですが?」

『……ば……か!』

 

 ……おや。

 セーラが今までにないくらい、激しく暴れています。

 私のことを、心配してくれているのでしょうか?

 分かっていますよ。

 公爵夫人なのに、正装ドレスがないなんて、痛すぎますよね?


『でも、ラトナさん。新品の靴だけは、あるじゃないですか?』

「ああ! そうでした」


 私は箪笥を開けて、最奥で一際目立つ赤い箱を引っ張り出しました。


「確か、これでしたね」


 未開封に近付けるために、私は慎重に開封します。

 真ん中に添えられた小ぶりのリボンが可愛らしい、真っ赤な靴。

 いきなり、靴職人が私の足の長さを測りに来た時は、竦みあがって部屋から逃げようとしたものでした。

 

(女の子っぽくて、私には相応しくないと思っていたんですけどね)


 もちろん、外で履いたことはありません。

 外套は寒すぎたので、渋々使わせてもらっていますが、靴まで買い取りになったら大変なので。


『さすが、エオール様。素敵な靴ですよね』

「いかにも、高そうですけどね」


 私は渋い顔のまま、踵の高い靴を机上に置きました。

 セーラが目を輝かせています。

 彼女もこの靴が気に入ったみたいですね。

 私なんかより、セーラの方がこの靴は似合ったでしょうに……。


『やっぱり、ラトナさんって、エオール様のこと心配なんじゃないですか?』


 ミネルヴァが意地悪な笑顔を私に向けています。

 いつもなら、これでもかというくらいしつこく否定する私ですが……。


「……そうですね。あの方に、どんな打算があったとしても、今まで私、死んだ両親以外から贈り物って貰ったことがなかったんです」

『意地っ張りですね』


 的確な指摘に、私は苦笑してしまいました。


「もっと素直だったら、兄様にも可愛がられて、違う人生が歩めたのかもしれません」

『いっそのこと、エオール様のところにお見舞いに行って、ついでにセーラ様のことも素直に伝えたら良いじゃないですか?』

「愛人さんが傍にいるのに……ですか? エオール様は、とっくに私のことなど忘れてしまっていますよ」

『……っ! ぐっ!!』


 セーラが怒鳴っています。

 彼女も必死のようです。


(いつもだったら、舞踏会なんて、危なっかしいところ、近づきたくもないんだけど)


 誰よりも臆病な私が彼女の言葉を信じて動いてみようと思ったのは、決してお金のためだけではなくて、自分と少し似た境遇の彼女に同情したからかもしれません。

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