第44話 芝居が下手なのです
「従弟……様なのですよね? 本当に」
「やっぱりな。みんなにそういう反応されるんだよ。信じられないだろう? 僕、あの意地悪なオバサンの血縁なんだよ」
……意地悪なオバさん。
それは、エオールの金髪巻き毛の母君のことですね?
ちょっとだけ、毒舌なところは似ているかもしれませんね。
「だから、まあ……ラトナさんの顔は知らなかったけれど、エオール様とは身内だからね。結婚したことは知っていたんだ。真っ赤な外套。あれをエオール様が君に贈ったことも知っている。一際、目立つようにって」
「目立つって?」
あの外套に、そんなよく分からない意味があったとは知りませんでした。
エオールは私を目立たせて、一体何がしたかったのでしょうか?
「あっ、いや……だから。あんな夜中に一人で走って離れに戻るって、とんでもないことしているよ。君はさ」
「はあ」
不味いですね。
夜中に耐久徒歩大会みたいなことをしていたことが確実にバレています。
私は急いで、ごほごほっと咳をして虚弱ぶりを演出してみました。
エオールには感づかれる演技力かもしれませんが、この人なら騙せるかもしれません。
「昨夜は体力づくりのために散歩していたのですが、気が付いたらあそこに。今は太ももの倦怠感や強張りが酷くて」
「それ……筋肉痛じゃないかな?」
「ごほっ、ごほっ」
駄目でした。
嘘が思うように吐けません。
もはや、言葉では誤魔化せないので、私は必死に咳をして具合悪いことを主張してみせました。
私の必死の芝居に、やがてアースクロットは小さく頷きました。
「いや、ああ……そうだったな。そういう設定でいくんだよね。ああ、いいよ。しんどいんだったら、そのままで構わないから、楽にしたままで」
(駄目か)
私の体調不良は考慮しても、帰ってはくれないのですね。
図々しい。……けど、エオールの従弟ということですから、それなりに偉い人なのでしょう。
(そんな大物と、私、昨夜会っていたなんて)
頭巾でも被って、変装してから別邸に近づけば良かったのです。
後悔しても、今更ですけど。
「……で、君はどうして昨夜は走って消えてしまったんだ? 夫婦なんだから、普通に別邸に行けば良かったのに」
「ごほっ、ごほっ」
「いや、咳。うん……訊くなってことかな? でも、あの後、エオール様、倒れて大変だったんだよ。君がそんなんじゃ……」
「はあっ!? 倒れたのですか!? エオール様がっ?」
勢い余って、毛布が床に落ちてしまいました。
私は飛び跳ねるように、寝台から身体を起こしたのでした。




