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第43話 エオールの似ていない従弟

◇◇


「こんにちは。ミノス公爵の奥方。身体が弱いということだから、そんなに手間をかけるつもりはないよ。起きているんだよね?」


(うわあ)


 何か来た。

 また変なのが……。

 ごくたまに生息しているのです。

 私が他人様に対して懸命に作っている「壁」を軽々と越えて、初対面で間合いを詰めてくる曲者が……。

 まさしく、そういう人のようです。

 エオールよりも少し高い、軽やかな声。

 しかも、私この声をよく覚えています。


 ……昨夜、私に知らなくても良い情報を嬉々として語って行った貴族の男性。


 私の素性を知っていて、離れまで押しかけて来るなんて、恐怖でしかありません。


「あっ、トリスさん。出て行ってくれる? 少しの間で構わないから」

「しかし……」


 実直で真面目。

 それが最大の短所でもある=何もしない執事長のトリスが困惑しているようです。


「大丈夫だって。エオール様には許可取っているし、僕の従者も一緒。誓って不埒な真似はしないから。言い分があるのなら、後で本人に言えば良い」

「旦那様が許可したのですか?」

「ああ。そういうことだから、ねっ?」

「……でしたら」

「えっ」


 ――いいんですか?

 そんなに緩くて。

 一応、当主の妻と謎の男……ああ、壁際に空気のような彼の従者も侍っていますが、限りなく「二人きり」に近いんですよ。

 ……て、私がエオールの妻だなんて彼らも思っていないから良いのでしょうか?

 私は嫌ですよ。

 絶対に、二人になんてなりたくないです。

 幽霊以上に、私は人が怖いんですから。

 助けて……と、片手だけ毛布の中から出して伸ばしてみたのですが、すでに私の寝台の前にまで来ていた男が私にしか聞こえないような小声でそっと……。


「やあ、昨夜はどうも。ラトナさん」

「……っ」


 とんでもない発言を繰り出してきました。

 ――昨夜?

 何のことでしょう……なんて、素知らぬふりで通用する相手なのか否か、私が無言で見極めていると……。


「昨夜の君と俺の出会いを、そこのトリスに聞いてもらっても良いんだけどね」


 まさかの脅迫……とは。

 昨夜の印象では、煩いけれど、爽やかをウリにしているような貴族様だったのに……。

 とんだ「大悪党」でした。


(終わった)


 私は伸びきっていた手を、するすると毛布の中に引っ込めたのでした。

 トリスが一応「手短にお願いしますよ」と、心配している感だけ出して、扉を閉めて行ってしまいました。

 ああ、何なんですか……。

 この痛い展開は……。


「一体、貴方様は何者なのですか?」


 私は毛布の中からくぐもった声で問いました。

 男は待っていたと言わんばかりに、笑いながら答えました。


「これは失礼。僕の名前はアースクロット=フォン……」

「あ、いえ、大丈夫です。長いと覚えられないので。アースクロット様……ということで」


 聞いたこともない名前ですが、次の彼の一言に私の脳内は真っ白になりました。


「ああ。まあ、いいけど。僕はね、エオール様とは従弟なんだよ」

「従……弟。ご身内ってことですか?」

「そう。僕の父の姉が元公爵夫人。君も会ったことがあるはずだ」


 金髪巻き毛のまつ毛が長くて、いかにも性格が歪んでそうな若作りお義母様の血縁者とは……。

 神様は何を間違って、この粗忽そうなお坊ちゃんをあの人の甥にしたのでしょうね?

 ちらりと毛布の隙間から見たアースクロットは、ひょろりと背の高い標準的な男性でした。

 体の造りも性格も、欠片も似ていないようですが……。

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