表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/67

第17話 泥棒扱いされました

◇◇


『記憶をすべて取り戻した私に死角はないわ。王都内の抜け道は任せて頂戴』


 迷子になってしまった先日とは打って変わって、モリンは得意気に道案内をしてくれました。

 大通り以外の裏道を使うのも躊躇ちゅうちょしません。

 細くて狭い道は、怖い雰囲気もあるのですが、むしろ地元の人にしか知られていない分、安全性は高いらしいです。


(王都とていっても、一本奥の道に入ると、今にも壊れそうな家も多いのね)


 先の戦争の影響はいまだに色濃く、貧富の差は以前に比べて、顕著になっているようでした。


「……でも、モリンさんの家って、もう誰かが住んでいるんじゃないですか?」

『あれ、ラトナちゃん知らないの?』

「えっ?」

『王都では主が変死した家に住むには一年の猶予が必要なのよ。だから、私の家にはまだ入居者はいないはずよ』

「知りません。そんな規則があるのですか?」


 スフォル領だったら、知り合いや親戚の誰かがすぐに住んでしまっているかもしれません。


「だって、ここは聖統御三家が君臨している王都よ。都の穢れは最小限に……というのが王の意思でもあるわけ。私らみたいな幽霊は、穢れの象徴みたいなものだからね」

「穢れの象徴って……」 


 モリンに自分を卑下して欲しくないのですが、でも、聖なる王の御膝元で幽霊が沢山いるのを良しとしないのは、分かる気がします。


(……て、離れに沢山いるんですけどね。エオール様)


 あの離れ、一体どうするつもりなのでしょう?

 今、私はモリンとミネルヴァと特別よく話すだけで、離れに出入りしている幽霊の総数は、私が数え切れないほどなのです。

 わざと幽霊を棲みつかせて、飼っているなんてことはないだろうし。


(エオール様って、幽霊がいることを知らないのかしら?)


 確かに、先日離れにエオールが来た時は、モリン、ミネルヴァを始め幽霊たちも隠れていたようですが、まさか、聖統御三家の方が、あんなに重々しい気配に気づいてないなんてことは……。


(いや、あり得るわ。聖化の力って、場を浄めるってだけで、幽霊は視えないのかも?)


 考えているうちに、益々分からなくなってしまいました。


『さっ、ラトナちゃん。近いわよ。来て!』


 足がないせいか、浮遊しているモリンの移動速度は目で追えないくらい速くて、私は後に続くのが大変でした。


「待って下さい。モリンさん」


 なぜ、全速力で?

 一応、私病み上がりなんですけど……。

 よろけながら、私は彼女を追いかけます。


 ――そうして。

 裏道を駆け抜けて、辿り着いた行き止まりの場所。

 満月を背景に、ぼろぼろの煉瓦造りの小屋が白く浮かび上がっていました。


「これが、モリンさんの家?」


 家というより、倉庫のような趣きです。

 人の気配はありませんでした。


「怖いくらい、静かですね」

『こういう曰くつきの家はね、教会が面倒見て、定期的に神父が巡回したりしているから、誰かが勝手に住みつくことなんて、まずないのよ』

「曰くつきって……。また」


 会話をしながら、私は立て付けの悪い扉を力一杯こじ開けます。

 扉の開いた隙間から、光が一直線に入る、狭い一間。

 生活用品一式、ありませんでした。


『教会が回収したんでしょう。まあ、散乱しているよりは良いけど』


 空っぽの家をぐるりと見渡して、モリンは感慨深そうに目を細めていました。


「お金も、教会が没収したんじゃ……」

『大丈夫よ。ほら、床下を見てみて』

「……はい」

 

 モリンに促されるまま、床に敷いてあった薄い絨毯をずらそうとした私ですが……。


「ん?」


 おかしいです。

 いくら引っ張っても、絨毯が動きません。

 視線を動かすと、布の端に何かが乗っているのが視えました。


(ああ、何だ。じゃあ無理ですよね)


 ……て。


「何が?」


 答えは「人」でした。


「泥棒っ!!」

「ひっ!」


 顔を上げた拍子、耳が痛いくらいの大声で叫ばれた私は、その場で腰を抜かしてしまったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ