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第1話 私のこと

◆◆


 私、ラトナ=リーランドが余命宣告をされたのは、八歳の頃でした。

 それまで、元気一杯な子供だったのに、流行り病にかかってしまい、それから上手く動けなくなってしまったのです。

 医者は病の後遺症なのか、未知の病なのかそれすらも分からず、ただ、この調子では成人まで生きることは難しいだろうと、両親に伝えたと言います。

 確かに、毎日、怠くて、しんどくて……。

 呼吸が苦しく、熱っぽくて、頭痛、腹痛、眩暈、吐き気、あらゆる痛みの症状を味わいつくしました。


(ああ、私は死ぬんだな)


 目が覚めてからの一日の長い時間、鈍痛に耐え、少し調子の良い時はいつ襲ってくるかとも知れない痛みに恐怖しながら過ごして……。

 いつの間にか、心の余裕がなくなっていました。

 多分、物語の主人公に成りえる立派な方でしたら、この時点で周囲の人々に感謝して、誰かの幸せを祈ったり、生かしてもらえたことを神様に感謝したりするのでしょう。

 でも、私……。人一倍、強欲だったのです。

 本を読んでいても、綺麗な花を愛でていても、使用人たちと雑談していても、友達だった人と会っても、家族と話していても……。 


 ――羨ましくなる。

 ――妬ましくなる。


 私が決して手にすることが叶わない遠い「モノ」を彼らは平然と持っているのだと……。頭の片隅で、そんなことはないって分かっていても、辛いのは自分だけじゃないんだって気づいていても、隣の芝生が青く見えすぎしまうのです。

 達観できたら、良かったのに。

 けれども、私は残念ながら性格が悪くて、思っていることがすぐ顔に出てしまうのです。

 笑おうと懸命に口角を上げようとしても、ぎこちなく、引きつってしまう。疲れてしまう。そんな自分が、また許せなくて……。

 だったら、見ない方が良いし、知らない方が良いし、喋らない方が楽です。


 ――だって、どうせ私は死ぬんだから……。


 けれど、神様は何をお考えなのか、私は医者の言っていた十八歳になって、成人しても死にませんでした。

 ぴんぴんしていた両親の方が、何故か先に事故で亡くなってしまい、私は見事に「我が家のお荷物」となってしまいました。

 年の離れた兄が私の保護者となった訳ですが、兄は当然結婚していて、子供は三人。

 先の戦争の影響もあって、家計は火の車でした。

 先立つものもないのに、私の診察代、薬代にお金を取られる日々。

 兄は意を決して私に言いました。


「ラトナ。お前の嫁ぎ先が決まった」


(あれ? 入院じゃないの?)


 覚悟はしていたけれど、まさか家を出る理由が「結婚」になるとは、さすがの私も思いもよらなかったのです。

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