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19. 拒否

「──それで、本日はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか」

「ああ、そうでしたわ。今日はイレーネ様にお伝えしたいことがあって参りましたの。もうすぐ皇宮で夜会が開かれることはご存知ですわよね?」

「いえ……初耳です」

「えっ、知らされていなかったのですか? いやだわ、どうしてかしら」


 どうしても何も、コルネリアが情報を遮断していたに決まっている。


「今教えていただいたので大丈夫です。それで、夜会についてのお話なのですか?」


 おそらく夜会ではコルネリアがオリフィエルのエスコートを受けたいと頼んでくるつもりなのだろう。


(別に構わないわ。私もこの状況で夜会に参加するのは避けたいし……)


 生誕祭以来、イレーネは公の場に出ていない。

 あのときから本当に色々なことが変わってしまった。


 イレーネは皇后宮から白麗宮へと移らされ、代わりに皇后宮を手に入れたコルネリアは、その地位まで愛人から皇后へと変わったかのように堂々と振る舞っている。


 そんな状況で夜会に参加したら、貴族たちからあれこれ言われて笑われるだろうことは想像に難くない。だからコルネリアから頼まれれば素直に頷こうと思っていたのだが──。


「今回、オリフィエル様のエスコートはイレーネ様にお譲りいたしますわ」

「……え?」

「わたくしだって立場はわきまえておりますわ。やっぱり夫婦そろって入場なさるべきでしょう? 胸が痛むのは確かですけれど、我慢するのは慣れていますから」


 コルネリアが寂しそうに眉を下げながら、口もとでは愉しそうな笑みを浮かべている。


(ああ、そうか……。これも嫌がらせね)


 こうやって夜会に引きずり出して、イレーネを好奇の目に晒そうとしているのだ。オリフィエルがエスコートすると言えば、未練がましく参加したがるに違いないと思って。


 でも、もう幻の愛に縋ってばかりはいられない。


「いえ、私は夜会には参加いたしません。お二人で楽しまれてください」

「え……?」


 オリフィエルとコルネリアが揃って目を丸くする。二人ともイレーネが断るなんて考えもしなかったのだろうか。


「参加しないってどういうことですか? オリフィエル様がエスコートしてくださると仰っているのに……」

「そうですね、せっかくご配慮いただいているのに申し訳ございません。ですが、どうぞコルネリア様をエスコートして差し上げてください」


 頑なに拒否していると、今まで黙っていたオリフィエルが酷く不快そうに眉を寄せ、睨むような視線をイレーネに向けた。


「なぜだ? どうして夜会に出ない?」

「なぜと、そう仰るのですか……?」


 イレーネが夜会に姿を現すことでどうなるか、オリフィエルが分からないはずがない。それなのに不参加を咎めるのは、彼もイレーネが夜会で辛い思いをすることを望んでいるということだろうか。


「……陛下はそんなに私を夜会に参加させたいのですか?」

「そなたは皇后だろう。皇宮の夜会に姿を見せるのは当然の義務だ」

「……ええ、そうですね」


 オリフィエルがここまでイレーネの参加にこだわる理由が分からない。イレーネを傷つけようとしているのか、それとも単に言うことを聞かないのが許せないのか。


(いずれにせよ、私と過ごしたいからでないのは確かでしょうけど)


 悲しいような虚しいような気持ちになりながら、イレーネは切ない眼差しでオリフィエルを見つめ返した。


「分かりました。夜会に出席いたします」

「そうか──」

「ただし、私はアルテナ公爵にエスコートしていただきます」

「は……何だと?」


 オリフィエルが再び驚きに目を見開く。


「なぜ公爵なのだ」

「家族にエスコートしてもらうのは普通のことではありませんか?」

「そうではない、なぜ私ではなく(・・・・・)公爵なのかと聞いている」

「それは……」


 リシャルトなら、決してイレーネを傷つけないから。

 何があっても守ってもくれると信じられるから。

 針のむしろのような場所でも、リシャルトが一緒なら安心できるから。


「──そのほうが陛下も無理なさらなくてよいかと思っただけです。兄にエスコートしてもらうのがお気に召さないのであれば、ひとりで出席いたします」

「そなた、そこまでして……」


 オリフィエルは何か言いかけて飲み込むと、苛立ったように席を立ってイレーネに背を向けた。


「好きにすればいい。だが、夜会には必ず出席しろ。いいな」

「はい、かしこまりました」


 イレーネが返事をした途端、オリフィエルが無言で部屋を出ていく。コルネリアや侍女のキーラもそろってオリフィエルを追いかけていき、部屋にはイレーネひとりが残された。


「これでよかったのよね……?」


 テーブルに置かれたままの紅茶の水面に、迷いに揺れるイレーネの瞳が映っていた。


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