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15. 侍女たちの反乱

「もう我慢できません! 仕事を放棄させていただきます!」


 ある日、そんな宣言とともに白麗宮の侍女たちが仕事を投げ出した。公爵家からやって来た侍女たちが幅を利かせていることが気に入らず、不満が爆発したようだった。


 アンナたち公爵家の侍女もこの緊急事態に困惑した。なんとか仕事に戻ってもらおうと話し合いを提案したが応じてもらえず、仕方なくイレーネに助けを求めにきた。


「イレーネ様、どうしましょう……」

「困ったわね……私が言っても聞いてもらえるかしら」


 白麗宮の侍女たちは皆、イレーネを見下しているため、イレーネが叱ったり頼んだりしても無視されるとしか思えない。リシャルトにお願いすればすぐに解決するかもしれないが、こんなことで多忙な義兄を煩わせたくはなかった。


(それかオリフィエル様に相談してみるとか……? それこそ無理ね)


 離宮の侍女の抗議など、本来主人が解決すべき問題だ。


「私が彼女たちと話してみるわ」



◇◇◇



「皆さん、不満があるなら私に話してください。そして仕事に戻っていただけませんか?」


 侍女たちが集まる部屋を訪れ、そう話しかけると、白麗宮の侍女たちは皇后であるイレーネに頭を下げることもなく、フンと嘲るように鼻で笑った。


「不満をお伝えしたところで、どうにかしてくださるんですか? あの高慢な公爵家の侍女たちを追い出してほしいと言ったら、そうしてくださるんですか?」

「それは……申し訳ないけれど難しいわ。でも話し合えばいい落としどころが見つかるはず……」

「無理ですよ。そもそも一番の不満はイレーネ様のお世話をしないといけないことなんですから」

「皇帝陛下から見放された方のお世話にやる気なんて出ません」

「せめて給金を倍にしていただければ、多少はまあ……」

「それは……」


 離宮運営の予算はすでに決められている。皇后の品位維持費から出そうと思えば出せるのかもしれないが、不適切な使用として指摘されてしまうかもしれない。


 とは言え、白麗宮には公爵家から使用人を派遣するという変則的な運営をしているため、イレーネとしても元々いた侍女たちの要求を頭ごなしに却下することは躊躇われた。


(本当にどうしようかしら……。やっぱりオリフィエル様に相談するしかないのかもしれない)


 自分の力不足を痛感し、今日のところは説得を諦めようとしたそのとき、白麗宮の侍女のひとりが声をあげた。


「皆さん、仕事に戻りましょう。これはただの怠慢です」


 全員の視線が一斉に彼女に注がれる。

 声をあげたのは艶やかな黒髪をきっちりと結い上げた、凛とした顔立ちの若い女性だった。イレーネよりもいくつか年上かもしれない。


「キーラ、あなたは最近入ったばかりだからそう思うのかもしれないけど、あたしたちはもう我慢の限界なのよ。白麗宮の侍女はあたしたちなのに公爵家の侍女たちの言うことを聞かないといけないなんてやってられないわ!」


 キーラと呼ばれた侍女は先輩侍女の反論を一応黙って聞きはするも、やはり意見を変えることなく言い返す。


「皆さんのお気持ちは分かりますが、それは仕事を放棄する理由になりません。白麗宮の侍女の給金は決して低いものではなく、むしろ高額です。でも皆さんの仕事ぶりはその金額に値するものですか? 皆さんの仕事を見ていると、公爵様が自ら侍女を派遣された理由が分かります。私たちよりずっと能力がおありですから。こうやって文句を言って時間を無駄にするより、彼女たちを見て学ばせてもらうべきです」

「そ、それは……」

「そもそもイレーネ様は誰がなんと言おうと、あのアルテナ公爵家から嫁がれた皇后陛下なのです。こんな不敬を働いて処刑になってもおかしくはないのですよ」


 キーラに次々と指摘され、侍女たちはみな黙り込んでしまった。


(この人、一体何者なのかしら……。新しく入ってきたというわりに物怖じしないし、他の侍女たちも言い返せないでいるのはなぜ……?)


 意外な展開に戸惑っていると、仕事放棄を宣言していた侍女たちはそろって顔を見合わせたあと、イレーネに頭を下げた。


「皇后陛下、この度は……いえ、これまで無礼を働いて申し訳ございませんでした。私たちが身の程も弁えず思い上がっておりました。今日から心を入れ替えて誠心誠意お世話させていただきますので、どうかお許しください」


 侍女たちに謝罪され、イレーネが驚いてぱちぱちと瞬きをする。あれだけイレーネを敵視していた侍女たちが、こうも素直に反省するなんて。


 でも、せっかくの和解の機会を失いたくはない。

 イレーネは謝ってくれた侍女たちに顔を上げるよう言うと、一人ひとりの目を見て許しの言葉を伝えた。


「これまでのことは水に流します。たしかに皆さんにとってやりづらいところがあったと思いますし、私も必要以上に壁を作っていたかもしれません。これからは互いに歩み寄っていきたいです。ですから、皆さんも「皇后陛下」ではなく、アンナたちのように名前で呼んでいただいて構いません」

「イレーネ様……」

「改めてこれからよろしくお願いしますね」

「はい……!」


 白麗宮の侍女たちの心からの返事を聞いて、イレーネはほっと安堵の笑みを浮かべた。


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