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君から貰った花束  作者: 五菜みやみ
三章 酔い想い
12/17

12話


 二人と話していた黒木の部下である荒野が結希の存在に気づくと、その視線に沿って振り向いた黒木と白石が揃ってニッと口角を上げた。


「おぉ、やっと来たか。待ちわびたぞ」

「──って言いながら、黒木さんもう酔ってますよね?」

「何ぉう。俺をなめるなよ伊波。まだまだいけるぞ!」

「俺だっていけるぞぉ!!」


 社内で酒豪と謳われる白石の目の前には、確かにつまみ料理よりも空になったジョッキが机上を埋め尽くしている。

 それに相俟ってか鼻を突くアルコールの臭いもした。

 溜め息をつくと背後から肩に手を置かれて、「俺も来ましたよ」と言う声にそれが晴樹だと直ぐに知れた。


「相変わらず仲良いな」

「喧嘩したことあるのか?」

「最近は飲んでないので喧嘩はしてないスね」


 そう言って晴樹はジョッキを掲げ、挨拶でもするように三人でジョッキを当てて乾杯の音を立てている。

 それから空いていた荒野の前の座布団に座り、結希を見た。


「後で麗子も来るってよ」

「そう」


 それなら美菜は誰と飲んでいるんだろうとふと思って、辺りを見渡してみた結希だったが、容易く姿は見つからなかった。

 晴樹の隣りに座り、メニュー表を開くと黒木が叫ぶ。

 

「伊波、おかわりぃ!」

「はーい。白石さん、おつまみどうですか。足りてます?」

「お、適当に頼むわぁ」

「なら胡瓜とお肉頼んでおきますね」

「伊波さん、注文俺がしてきます」

「あら、あたしやっておくわよ?」

「……一度逃げさせて下さい」

「ブフッ!」


 そう言って立ち上がる荒野に結希は品物を書いた付箋を渡した。

 立ち去って行く後ろ姿に「戻ってこいよ」と上司からの野次が飛んだのを、若干ふらついた足取りで振り返って言い残していく。


「ちゃんと戻りますよ。飲み足りないですから……!」


 未だに付き合おうとする姿勢に関心しながら結希は二杯目の酎ハイを飲み干そうとしていた。

 


✽✽✽



 荒野が手洗いから戻って来て、麗子が加わると酒に強い人たちが集まって来て話も盛り上がっていた。

 結希は度数の酒を仰ぎ、くらくらする思考に酔い覚ましにお手洗いへ向かった。

 通路を歩いていると美菜と会い。手を軽く振ると美菜はお辞儀をした。

 

「久しぶりって感じね」

「そうですね。毎日顔を合わせてるのに、不思議ですね」

「そうね」


 頷いて結希はふふっと頬が緩んでしまう。

 美菜はその様子に軽く首輪を傾げていた。


「やっと会えた。嬉しい」

「……わたしに会えてですか?」

「うん。戻るの?」

「そのつもりでしたけど、結希さんはどこか行かれるのですが?」

「酔い覚ましにお手洗い行ってから外へ行こうとしてたの」

「付いて行っても良いですか?」

「いいわよぉ。話したかったし、お外行こう」


 話していて、ふとアルコールの臭いに気づき、慌てて服を嗅ぐ。


「酒臭いかも。大丈夫?」

「平気ですよ。結希さん、もしかして酔ってますか?」

「酔ってる酔ってる。あ、変なことしそうになったら逃げてね」

「変な事って何をするんですか」


 くすくす笑う美菜に結希は「待ってて」と言って引き止めてからお手洗いを済ませた。直ぐに美菜の所へ戻り、勝手口から外に連れ出す。

 外に出ると髪を撫でる優しい風が吹いていて、火照った身体には丁度良い気温だった。

 店の壁に寄り掛かると、美菜も隣りで手を組みながら寄り掛かっていた。


「美菜ちゃんは何を飲んでたの?」

「わたしはお酒に弱いので、サワーを飲んでからはソフトドリンクを飲んでました」

「そうなんだ。お酒はサワーが好きなの?」

「うぅん、酎ハイみたいに果実系のお酒なら何でもいいですかね。ワインは苦いので飲めそうにありませんが……」

「分かる。今度、二人きりで飲みに行きたいなぁ」

「いいですよ」


 何気なく言ってみた誘いに、あっさりと美菜は頷いてくれた。

 二人きりでも大丈夫なんだと結希は浮き立つ思いに「やったぁ」と声が高くなった。

 すると名前を呼ばれた気がして、前屈みに振り向く。

 

「その、わたしといて楽しいですか?」

「うん。でも一番の理由は落ち着くからかなぁ」

 

 こう言って結希は姿勢を正すと今度は美菜の肩にこてんと頭を乗せた。それだけでも香る仄かな石鹸に瞼が自然と下がる。


「あたし、美菜ちゃんの匂い結構好きだな」


 そう囁いてそよ風を感じていると、店内の騒がしい声にハッとして起き上がる。


「危ない危ない。今、寝そうだったわ」

「結希さんにとって、少しでも居心地がいいなら良かったです。そろそろ戻りますか?」


 鈴を転がすように囁く美菜はどこか儚げで、「うん」と相槌を打ちながら美菜を観察する。初めてみた新しい一面にどんな変化も見逃したくなかった。

 じぃと見つめていた結希は、「結希さん?」と呼ぶ声にぼぅとしていたことに気付いて、大分酔ってることをこの時になって自覚した。


「ううん、なんでもないわ。戻ろっか。デザート食べなきゃね。──あ、そうだ。メニュー見たらきな粉あんみつのアイスがあったの」

「そうなんですか。見てなかったので知らなかったです」

「あんみつの掛かったきな粉アイスで、和風のデートって美味しわよね」

「はい。わたしもきな粉が好きなので食べたいです」

「えぇ、好みまで一緒? なにそれ、超嬉しい」

「あははっ!」

 

 楽しそうに話す美菜に結希も胸が満たされていた。

 二人きりの時間に満足気に座敷へ戻ると、後輩たちの所でアイスを食べて一次会はお開きとなった。



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