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君から貰った花束  作者: 五菜みやみ
一章 気になる人
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1話







 春──。


 新しい恋との出会い──。




 

 カタカタとパソコンに向き合い文書を打っていると、伊波結希が座っている向かいの班にいた男性が立ち上がり声を掛けて来た。


「ユウ!そろそろ会議室行くぞ!」

「はいよー!」


 返事をしながらきりがいい所までを打ち終わると、保存マークをクリックしてから立ち上がった。

 椅子をしまいテーブルの端に置いていたクリップで綴じてある何枚かの紙を手に取る。


「会議行って来ます!」


 同じ班の人たちに声を掛けると、「いってらっしゃい!」と見送られながら声を掛けてきた男性と一緒にエレベーターへと向かった。

 ここはとある出版社ビルの中にあるコスメ誌部門のフロアだ。

 結希はここの社員として六年間勤めていて、今では女性向けコスメの一班で副班長としてサブリーダーを務めている。

 年齢は28歳。独身。今まで付き合ってきた人数は一人。

 さっぱりした性格は社内外問わずウケが良く、人間関係は良好。


(まぁ、たまに怖がられることもあるけど……)


「今日は他部門と合同って言ってたっけ?」


 エレベーターに乗り込むと一緒に来た男性、高緑晴樹が口を開いた。

 もともと晴樹は大学からの同級生で仲が良く、今は同僚としてライバルとして仕事でもプライベートでも仲良くしている。

 明るい晴樹は誰からも良い印象を持たれる為、周りからは「ハル」と愛称で呼ばれることが多く、人付き合いは良好で。男性向けコスメを扱うニ班ではあたしと同じく副班長としてサブリーダーを務めている。


「そうよ。夏と冬の特大企画。一体何をするのかしらね」


 廊下を歩いているとさっき出てきたフロアから騒がしい笑い声が聞こえた。それに混ざる女性たちの黄色い声から察するに晴樹のことだろう。

 晴樹は大学でもそうだったが、この会社でも女性社員からかなりモテている。

 整った顔立ちに、ストレートの茶髪はサラサラで。誰にでも優しく明るい性格をしているから、女性から人気があって当たり前なのかもしれない。

 さらにつけ加えるなら。180センチの高身長と、この地区では有名な大学を卒業していて高学歴と言う肩書きを持ち合わせており。これまでの功績と上司の反応から推測するに、将来は班長や課長として高収入も夢じゃないと思われる。

 全てを合わせて考えると、昔の女性が夢見る“三高”の男性で。それでいて性格も悪くないと来てるから年齢層関係なくモテるのだ。


「騒がしいな」


 エレベーターが来るのを待っていると、ボソリと晴樹が囁いた。ドヤ顔ではないにしても、自分がどう思われているか知っている晴樹の言葉に結希は溜め息をつく。


「ハルが低身長だったら良かったのに」

「おい!」


 結希の吐いた悪言に晴樹は直ぐさま反応し、ツッコミをいれてくる。


「俺に当たるなよ。違う話しで盛り上がってるかもしれねぇだろ」

「それ、本気で言ってないわよね?」

「……まぁな」


(まぁなってね!!モテる男の余裕とか、悪気なくてもウザイんだけど)


 エレベーターがやって来ると一緒に乗り込み、会議室のある五階の階数ボタンを押した。


「それで。彼とはあれからどうなの?」

「現状維持だなー。前よりはガードが緩んでるけど」

「へぇ。連絡先は?」

「ゲットした」

「そう。それはそれはしつこく絡んだのでしょうね」


 すると、晴樹が笑う。


「何言ってんだよ。しつこくするに決まってるだろ」

「…………」


(本当に諦めの悪い男よね。そこが良いって時もあるけど、初対面からすれば本当に最悪なのよ)


 結希もしつこくまとわり付かれて仲良くなった口だから彼の気持ちが分かってしまう。

 晴樹はもともとフレンドリーな性格をしているが、中でも気に入った相手を見つけると、とことん構ってもらうまでしつこく話し掛ける傾向がある。

 きっとカフェの店長だと云う彼にもTPOを弁えず、話しかけに行ったのだろう。


「週三で通いつめて、やっとこの前連絡先を交換してくれた」

「そう……」


 一週間の半分をカフェで過ごしたとなると、それはもう常連客ではないのかと内心で呟く。

 良くもまぁこの暴力的なまでの存在感を解き放ちながら食事をしていて怒られないなぁと、相手の懐の深さが気になる話しだ。


「話しかけて来ないでって言われなかった?」

「あー、“お前の相手は疲れる”って言わたことならあるな」

「でしょうね。それでも諦めなかったのは晴樹の異常さよね」


(やっぱり拒絶するわよね)


 毎日毎日、周りが恋仲にあるのではと疑われるほど、晴樹は話し掛けてくる。

 呆れた結希の言動に晴樹は苦笑いを浮かべながら、「厳しいヤツだなぁ」と呟いた。

 覇気のない声にハッキリ言いすぎたかもしれないと思いつつも、事実なので前言撤回をするつもりはない。


「良かったわね、彼が優しい人で」

「おう」


 プライベートな話しをしていると、チンと音が鳴ってゆっくりとエレベーターの扉が開いた。

 結希と晴樹は箱から降りると長い廊下を歩き、三つ目のドアの前まで歩いて、何も言わずに真剣な顔つきに変貌した。

 仕事モードに切り替えた結希はドアを三回ノックしてから開く。


「失礼します──」



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