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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
挫折する主人公 市営コンクール始動編
99/208

28話 歌詞の意味 〜月に叢雲華に風〜

部活動終了後も、優月はドラムを練習していた。

「…タタタ…タタタ…タタタ…タタタ…ッ」

小太鼓(スネアドラム)の細かい音が、音楽室の空気を切り裂くように響く。

パパパッ!パパパッ!パパパッ!パパパッ!

そこへ一定間隔でバスドラムを踏みつける。ビーターというマレットの先端が大きな面を蹴破るように打ち抜く。

「はぁー…」

優月は数十分前のことを思い出す。

『あ、ゆゆ、ドラムだって、夏祭り。あとオプクロ追加で〜』

『えっ、うん』

ゆなが優月にドラムを任せたのだ。

『夏祭り』は盆踊り大会にて、和太鼓クラブ『天龍』と合同演奏する曲だ。そこで、元和太鼓部だったゆなと咲慧に白羽の矢が立ち、2人は和太鼓を演奏することになったのだ。

「…まぁ、明日もやれば良いし、今日はこれでいいかな」

そう言って、咲慧を見つめた。昨日のあの会話が蘇る。

「はぁやく帰ろっと」

優月はドラムに毛布をかけると、音楽室を出ていった。

「…はぁ」

優月の脳裏に、咲慧の言葉が蘇る。

『お前、このままじゃ本当にできなくなるよ』

その厳しい言葉が、頭の中で何度も駆け回る。その言葉は事実であり正確に未来を予測している。演奏ができなくなるのは本当だ。


翌日。月に叢雲華に風、恥ずかしいか青春は、の2曲を終えると、いつもの如く、『夏祭り』の演奏だ。ドラムに変わった優月は、楽譜を凝視する。

「すーっ」

深く深呼吸する。それでも緊張がすべてほぐれるわけでは無い。

「鳳ちゃんと加藤さんの太鼓は、できる所までやって下さい」

すると、その声に呼応するように、2人は、不揃いなバチを構える。それ程、練習をしていないようだったが、この熟練者2人なら何とかなると、誰もが思う。

「はい!それでは行きますよー」

井土はそう言って、歌い始める。その歌の輪郭になぞるように、トランペットとサックスの音が響く。

「…!」

優月は一呼吸置くと、スティックを上下へ振る。スネアの細かい音が響く。4小節でスネアの音を区切るように止めれば、ハイハットシンバルのオープンクローズだ。2枚のシンバルが、左足に合わせ跳ね上がる。更に和太鼓の華やかな音も注ぎ込まれる。その音は吹奏楽というよりは祭囃子に近かった。

しかし、途中で井土に止められる。

「はい、そこのバッキングやってみましょうか」

そう言って、管楽器隊の指導が始まった。

「あい!取り敢えず今日も課題を潰したので、これにてOKです!」

井土がそう言うと、他の曲へ移る。

こうして、各課題をしらみ潰しに克服し、今日も部活が終わった。

「…はぁ」

優月はホトホトとリュックを手にする。

「…あ、」

「優月くん、帰るん?」

すると、アルトサックスを片付けた咲慧と鉢合わせる。

「うん。じゃあね」

また何か怒られそうで、優月は足早に音楽室を去ることにした。

「…じゃね」

咲慧の声を後に、優月は音楽室を抜け出した。


そうして、優月はスマホを手にする。

「…はぁ」

すると、大量のメール履歴が目に飛び込む。練習に夢中だったので見えなかった。

「あ、優愛」

その時、懐かしい名前を口にする。

《優月くん、市営コンクール出るの?》

それは、目前へと控えた市営コンクールに対しての問いだった。

《出るよー》

しかし、その返答は驚くものだった。

《おっ!楽しみにしてるよ》

その文面を見た優月は、叫びそうになった。

《えっ?見に行くの?》

《うん。暇だし》

その差も当たり前かのような返答に、優月の体がピクピクと動く。

《てか、演奏はどう?》

《いや、まずまず。どうすれば感情込めて演奏できるかな?って》

優月が率直な感想を述べる。

《そんなの、簡単じゃん》

しかし、優愛の返信越しの様子は迷った様子もない。これが元強豪校か、と一瞬瞬迅した。

《優月くん、月に叢雲華に風だっけ?》

まさか優愛が、曲を言い当てる。

《えっ?どうして知ってるの?》

《瑠璃ちゃんから聞いたよ。私の名前入ってるーって気に入ってるよ》

そうなのか、と優月は驚いた。やはり優愛と瑠璃の関係は全く途切れていないようだ。

《何度も曲を聴いて、歌詞の意味を想像して演奏すると良いよー》

と共に、うさぎの可愛らしいスタンプが送られてくる。ぐっ!と丸まったフォントに覆いかぶさるように、白ウサギがあるはずの無い親指を突き立てている。

《歌詞の意味?》

《うん。感情を込めるのに必要なのは勿論、曲への愛着も湧くからおすすめだよー》

《なるほど》

優月は、メールを返信すると「歌詞ねぇ」と言う。

「…あとで調べてみよ」

《がんば!》

そして彼女のあっさりとした文面で、メールでの会話は終わった。


その後、列車へ乗り込んだ優月は、歌詞の意味を調べることにした。ゴトンゴトン…と車内が小さく揺れる。

「…へぇ」

見てみれば『月に叢雲華に風』は動画アプリのMVでも100万回再生を突破しているらしい。

「月に叢雲花に風。良いことには邪魔が入りやすい…か」

何だか既視感のある言葉だなぁ、と言葉を口の中で転がす。


月に叢雲華に風。

この曲を作るに当たっての原曲は『ラストリモート』。そこから東方Projectのアニメ『紅霧異変の章』にてオープニングに使用された。そして東方好きなら知らない人はいない。有名な曲だ。


しかし優月は、東方が…と言うより、メロディーが好きだ。静寂の中に優しさのあるメロディー。そこから展開される勇ましい音の弾幕。サビは何か迷いが吹っ切れたような曲調が、心を高ぶらせてくれるのだ。 

「…1番は恋のはじまり。2番は2人だけの空間…」

何だか、優愛との恋を思い出す。

優月は幼い頃から優愛に恋した。それから、小学生時代は殆ど2人で過ごした。しかし中学に上がり、優愛が吹奏楽部に入った時には、運命のようなものが変わっていた。

古叢井瑠璃。彼女の先輩となった彼女は、更に部活動に、のめり込むようになった。それからは全く会えなくなった。

「…これ、中学時代の僕か?」

歌詞を全て考察した結果、優月はふとそんな事を口にした。

雲突き抜け、風切り裂いて…

その歌詞は、まるで絶望的ともいえる状況を、否が応でも突き抜け、愛を伝える。…ようにも思えた。


「…2番は?」

気付けば、列車を降り、駅構内のベンチに座りながら、歌詞の考察へとのめり込んでいた。

「…毒にも似たこの絆は…僅かな終焉の予感じゃ千切れはしない…」 

どうやら、毒のように奥底にまで深めた絆は、少しした終わりの予感では、崩れはしない。という意味のようだ。

「…少し悪い状況が連なっても、深い絆は断たれない、そう言いたいのかな」

優月はそう思うと、自然と笑みが溢れる。何だか、あの頃の自分に言い聞かせているようだ。

そして最後のフレーズ。

「例え、愛の歌が永久、届かぬとも、待ち続けよう、輪廻の時を慈しむ心に誓って…」

芽生えた恋情なるものが、例え、伝えられなくても相手に気づいてくれるまで、待ち続ける。輪廻の時が回ったとしても。

「ふぅ…」

歌詞の意味を考察した優月は、満足感と感動にもにた熱い感情が、脳内を支配する。

静寂から勇敢なメロディーの先にある歌詞。

それはまるで、中学時代、恋をしていた時のことを言い当てているようだった。

吹奏楽を始めるキッカケをくれたあの恋。

それが優月を更に強くする。

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 咲慧のスパルタ指導、再び…


お楽しみに!

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この曲知ってます! これからも頑張って!!
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