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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
挫折する主人公 市営コンクール始動編
89/211

18話 楽譜配り 

優月は物心つく前、バケツを太鼓代わりにして遊んでいた。しかしその技術は子供離れしていた。

しかし彼にとってこの『記憶』は拒絶すべきものだった。

「あ~、死にたい」

優月はそう言って、数学のテストの解答用紙を受け取る。

「小倉君、大丈夫ですか?」

その時、鎌崎の不安そうな声が聞こえてくる。

「えっ、あっ、失礼しました!大丈夫です」

優月は恥ずかしそうに、解答用紙を受け取ると、机へと広げた。

(はぁ…、ずっと拒絶してた記憶が…)

優月は心の中でぶつぶつと呟きながら、解答用紙を見る。

38点、赤い文字でそう書かれていた。

「やったぁ!赤点回避っ!」

優月がそう言うと、咲慧がこちらへ話しかけてきた。

「赤点回避とは優秀ですな」

と言った彼女の点数は64点。そっちが優秀だろ、と優月は一瞬突っ込みたくなったが我慢した。

優月は小学校上級生の頃から、数学いわゆる算数が苦手だ。人に言えない話、赤点の常習犯でもあった。

「それより、死にたいって言ってたけど大丈夫?」

すると咲慧が先程のことについて、心配そうに聞いてくる。

「あ、いやぁ、嫌な記憶を完璧に思い出しちゃって…」

「嫌な記憶?」

「うん。皆の前でバケツを太鼓の代わりにして叩いてたなぁ、って。思い出しただけでも恥ずかしい」

優月がそう言うと、咲慧は「可愛いじゃん」と言う。

「せっかく10年も、そのこと忘れてたのに、写真を見たせいで…!」

「写真?」

「そう。演奏してた時の写真を、お母さんの妹さんが撮ってたの」

優月が恥ずかしそうに言うと、咲慧は可愛らしく笑い声を上げた。

「それは残念」

「ほんとー。だからドラムも筋が良いって、井土先生に褒められたんだなーって」

「確かに。優月くん、ドラム優秀だもんね」

便乗する彼女に優月は「ありがとう」と言った。

(…はぁ、気持ち悪い)

思い出してからと言うものの、あの大人数の前で演奏した光景が蘇るのだ。だが、その感覚は何故か、怖いくらい心地よいのだ。



部活の時間になると、井土が冊ほどの楽譜を持ってきた。

「はい!今回の市営コンクールは3曲やりますよと言うことで、楽譜を配ろうと思いまーす。練習頑張りましょうね!」

井土がそう言った。

「略して居残り練習」

心音がそう言うと、ゆなが顔をしかめる。

「いや、私、そういうの嫌い」

ゆなが言うと、辺りから笑い声が聞こえる。

「ちなみに本番()は、鳳ちゃんが1曲、ゆゆも1曲、ドラム演奏()です。では配っていこう!」

「略して絆創膏!」

「いや、名前まで略せてない」

心音とゆながそう言うと、各々の楽譜が配られ始めた。

「今日の所はまだ1曲ですが、あと1曲は部長と選考中です。少々お待ちを」

そう言って渡された楽譜。それは、

『月に叢雲華に風』

だった。その曲名に美鈴(めいりん)が反応した。

「この曲、知ってます。ラストリモートの」

「おいおい、メタ的に二次創作の曲を扱って大丈夫なのか?」

悠良之介が心配そうに言う。

「略してオタ曲」

「まさしく!」

何も知らない心音がボケる。ゆなが突っ込む。そんなかんやで、会話が慌ただしく渋滞している。

「…来たぁ」

優月はそう言って、ニヤニヤと笑う。

この曲が来たらドラムをやりたいと、井土に直談判した甲斐があった。

「この曲は、部員総選挙にて選ばれたものです。鳳ちゃんはきっと名前で選んだことでしょうが、私もすごく好きです」

井土が目を煌めかせる。

(色は匂えど散りぬるをが1番好きだけど)

日心はそう思いながら、スマホで曲を検索し始めた。

すると井土が、ぱんぱん!と両手を打つ。

「はい!このあと配る2曲は、8月にやる盆踊り大会で演奏する予・定です!これから配る一曲は天龍とコラボするんで、よろしくす!」

「天龍かー」

ゆながそう言って顔を渋めた。

「略して、古典(こてん)

そこにすかさず、心音が略称する。

「その教科、赤点だった」

その言葉に、ゆながこう言った。

「ええぇっ!?」

それに驚いたのは井土だ。

「えっ?鳳ちゃん、赤点!?」

「う、うん!」

ゆなが、ナントカナルサとカタコトに言う。

「…鳳月っていう先輩、大丈夫なの?」

と美羽愛が言う。

「うーん、まぁ進級できてるから大丈夫だよ」

志靉がそう言って、チューバを撫でた。

「それでは、残りの2曲、配りましょうか!ミックスナッツとコラボの夏祭りです」

そう言って、各々の楽譜が配られた。

優月の担当する楽器は、グロッケンとドラムだ。

「…おぉ」

優月はそう慄いて、ミックスナッツの楽譜を見る。しかし井土の表情は不安気だった。

「ゆゆは、まだ慣れないと思うので、ちゃんと私に聞いて下さいね」

「は、はい」

「あと、月に叢雲華に風は、まだやらなくていいです。6月になったら練習を始めましょう」

「えっ?やらなくていいんですか?」

優月が訊くと、井土は口元に手を置き、

『今は対応に追われているので』

とひんやりした声で言われた。

「わ、分かりました」

「6月になったら教えます。それまでは色々な曲をやって腕を慣らして下さいね」

そう言って、井土は優月から去って行った。


そうして譜読みを終えた優月は、ドラムを練習することにした。

「…むずぅ」

楽譜は簡略化されているとは言え、とても難解だ。これを楽々に演奏できるゆなや井土は、何者なんだ?と気になったが、まずはイントロを練習することにした。

ハイハットを右手に打ちながら、スネアを打つ。

ツッツッツッ…と細かい粒のように響いた。しかし叩いてみて分かる。

この曲が難しいことを。

そんなことを考えていると、合奏の時間になる。

「はい、ではやってみましょう!ミックスナッツから」

意気揚々と始まったものの、優月はいきなり曲を捌けるわけでもない。途中で何度も合奏を止めてしまった。

ドラムの難しい譜面に翻弄されながらも、合奏が終わる。


ドラムは難しいな、優月は改めて思った。


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