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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
挫折する主人公 市営コンクール始動編
88/208

17話 問題発生

天龍の帰り道だった。

『おい、箏馬!』 

誰かが長身の少年を呼びかける。

「はい?何か?」

「…お前の弟、また虐められてるぞ」

そう言ったのは、國井(くにい)孔愛(こうま)

「見たなら止めろ…」

そう言いながら、彼は霞のように去る。


それからは、箏馬の弟を虐めた高校生は、全員、彼の下に倒れた。

「3度も弟を狙う、浅はかなり」

箏馬が怒りのまま、男子のスマホをつま先で蹴り上げる。

「今日こそは、許さない。冬馬高校だったな」

「ぐっ…!」

彼は男子の名前を控えた。

「弟への辺りが酷いと、学校に言わせてもらう」

箏馬はそう言って、冬馬高校の方へと連絡を入れたのだ。

だが、この事態が全てのはじまりだった…。



それから数日後。

「えぇっ!?日心ちゃん、本当?」

何やら3年生の女子たちが、日心の元へ群がっていた。これは珍しい、と優月は駆け寄る。

「先輩、どうしたんですか?」

「あ、いや、ゆゆね」

初芽は顔を歪める。普段の彼女とは想像できないほどに苦しそうだった。

「これ…、ゆゆはショック受けるかもしれない」

そう言って、初芽が日心のスマホを優月に見せる。見せられたのは1本の動画だ。


「えっ!?」

それを見て優月は我が目を疑う。

『砕ッ…』

『ぐわっ!!』

動画に映るは箏馬が、他校の生徒をのめしている動画。みるみるうちに自分の顔が青くなるのを感じた。

「いや…嘘でしょ?」

しかし日心のスマホだ。合成などとふざけたものではない事くらい、すぐに分かった。

「ゆゆ、大変じゃなかった?」

今更、むつみが心配してくるが、優月は首を横に振る。

「いえ。まさか…こんな子だとは…」

優月は顔をしかめ、考えるポーズを取る。

「…待て。思い出せ…」

その時、優月の脳裏には、あの日の箏馬の言葉が浮かんでいた。

『松柏之操。俺も無軌道に問題を起こしているわけではないのですがね…』

あの言葉を信じれば、彼が一方的に暴力行為をしたとは言えない。

近くにいた顧問の井土も頭を抱えていた。

(…ちょっとまずいなぁ)

「みんなぁ、この動画、どれくらい出回ってる?」

井土が尋ねると、日心が「いえ」と答える。

「動画にはプライバシーというのもありますし、先生以外には誰にも共有してはおりませぬ」

「はぁ。それはまだ助かります」

それでも井土は、日心の答えでは、反応は変わらない。

大変なことが起きている。優月には嫌なくらい分かった。それに彼が抜ければ、パーカッションパートは絶望的になる。

それと同時に、日心の口角は上がる。まるで、この事態を面白がっているかのように。

「波乱を抱し華やかなる日々、心が躍る」

その時、彼女の前髪を覆う三つ編みが、ふさふさと揺れる。

「高津戸、笑い事じゃないよ」

そう言ったのは、志靉だ。

「…この動画って、高津戸が撮ったの?」

志靉が尋ねると、日心はこくりと頷いた。

「前々から問題児と聞いていたので」

その時、井土が動揺する部員を手で制す。

「今回の件、本人曰く、冬馬高校も関与しているそうです。この騒動が収まるまでは、不用意に近づかないように!」

「冬馬高校?」

優月が顎に手を当てる。すると彼は音楽室から出ていった。

「…それでそれで?」

しかし、部員たちの話は止まらなかった。

(まず、何であの子は暴力を振るったのか?)

その考えは部活中でも消えることは無かった。


久遠家。

夕飯の味噌汁を作る箏馬に、弟の銀之進が話しかける。

「お兄ちゃん、学校はいいの?」

「いや、しばらく来るなって言われた」 

現在は謹慎中の彼は、家にいながら家事をしていた。その時、鍋の中の湯がぽこぽこと音を立てる。すると彼は火を止めた。

「一切皆苦。俺の心配は良いから、銀之進は風呂に入れ」

「うん…」

そう言って、箏馬は刻んだ野菜を、雑な仕草で湯の中に入れた。

(くそが…)

何かを嘆くように、彼は低い声で小さく呟いた。その時、メールの通知音が鳴る。

《大丈夫?》

相手は先輩の優月からだった。入学早々、問題を起こしてしまった。その後悔のまま、彼は優月へ返信する。大丈夫です、と。

『ご飯出来たぁ?』

それと同時に、女性がリビングへと下りてくる。箏馬は苛立ちを隠そうともせずに、

「まだです」

と返す。すると女性はちっ、と舌打ちをした。

「おせーなぁ。急げよー」

それだけ言って、女性は再び戻って行く。

「ぐうううっ!!」

箏馬は悔しがるように慟哭を吐き捨てた。


その頃、優月はシロフォンという楽器を前に、マレットを構えていた。

下鍵盤をマレットで早打ちをする。

ドレミファソラシド♪ドレミミソラ…♪

しかし、マレットは絡みつくように引っかかるわ、隣の鍵盤まで打ってしまうわで大惨事だった。

「はぁぁ…、嫌んなっちゃう…」

優月は、今にも鍵盤を投げ出したかった。何より井土がいない。

優月はそう言って、窓の外を見つめる。下では生徒たちが楽しそうに笑い声を上げていた。

(はぁ…、皆楽しそう)

優月は少し寂しかった。いつもは話しかけてきてくれる箏馬がいないことに。

「…少し、休みますか」

そう言って優月が向かったのは、個人練習用のドラムセット。ゆながドラムセットを占領している今、このドラムセットで優月は練習している。


その時、孔愛が音楽室へ入ってくる。

「遅れてすみません!」

「あ、大丈夫だよ」

むつみがオーボエを手にそう言った。

「先生に、事情聴取されまして…」

そう言った孔愛は氷空の方を見る。

「事情聴取?」

彼女が尋ねると「はい」と彼は頷いた。

「昨日、箏馬が暴力行為を働いた場所にいたんですよ。何しろ、天龍のあるホールの近くでしたから」

すると氷空は「へぇ」と眉をひそめる。

「あの日、俺は見たんですよ。箏馬の弟を襲った高校生の姿を」

彼が言うと、氷空は「そうなんだ」と言った。

真相は複雑、そんなことは氷空にも、すぐに分かった。だが孔愛は何も気にすることなく、トランペットを吹き始めた。


こうして合奏を終え、優月と咲慧は、日心と帰ることになった。

「…えっ?箏馬くんの弟が虐められてるの?」

優月が確認するように訊ねると、日心はこくりと頷いた。

「ええ。あの人の弟なる者は、冬馬高校の高校生連中に虐められていたのです」

日心は大きく変わった喋り口調をする。まるで戦国武将のように。その時、咲慧がこう言った。

「…怖いね。冬馬。だからゆなっ子も避けてたんだ」

「えっ?」

優月がつい声に出す。

「あの子、元々彼氏がいたんだけど、酷い別れ方しちゃって。その彼氏、冬馬高校にいるんだ」

咲慧はそう言って、眉をひそめる。

「…じゃあ、東藤に来た理由って?」

「その元彼氏と同じ高校なのが嫌だからだよ」

「そうなんだ…」

そういえば一度聞いたことがあった。ゆなには彼氏がいたという話。

「でも、取り敢えず、箏馬君が退学にならないと良いけれど」

優月が言うと、咲慧はこくりと頷いた。



翌日、部活が休みだった優月は、母の寛美の両親が経営している花屋の手伝いに来ていた。この花屋は、寛美の家族だけで営業している。

「…はぁ。うちの後輩が…」

優月は箏馬が大変な思いをしているだろうな、とため息をついた。

「こーら、そんな溜め息ついてたら、花まで萎れちゃうよ」

そう言ったのは、寛美の母、加苗(かなえ)だ。

「…うん」

加苗は、優月が小さい頃から、面倒を見ていた大切な関係だ。定期演奏会も見に来てくれたという。

「部活で何かあったのかい?」

「…後輩が粗相を起こしたみたいで」

優月はそう言うと、加苗はクスリと笑う。

「そうかい」

それだけ言って、加苗は店の中に入って行った。

(…箏馬君の弟君を襲ったっていう人たちさえ、分かればあの子は退学にならないで済むかもしれない)

優月は、彼としての大義名分を明かさなくてはならない、そう思った。


「…あ、優月君!この前、見つけたの」

その時、寛美の妹が話しかけてきた。

「あ、はい」

そう言って、優月に渡されたもの、それは数枚の写真だった。そのうちの1枚の写真を見た瞬間、ある思い出が脳裏へと淡い色で蘇る。


そして『この記憶』が後の彼を狂わせることとなる。


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