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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
83/208

13話 ドラムスティック

今日は春isポップン祭りの後日談です。

毎日投稿最終日です!

春isポップン祭りが終わった翌日。

優月はとある場所までバスで向かった。

誘われるようにして、降りたそこはショッピングモール。

「着いた…。早く買いたい」

この日優月は、部活で使うドラムスティックを購入しに来たのだ。

今、使っているものはとても使えそうな状態ではない。シンバルで擦れたチップ、削げ凹んだスティックの側面を見ると、もう買わなくちゃ、と優月はいつも思っていた。

そうして、優月はひとりショッピングモールの中にある楽器店へと足を踏み入れたのだ。

楽器店は3階。実は去年のこの日も来ていた。

「はぁ。どれにしよう?」

優月は迷いながら、スティック売り場へ向かった。


それは遡ること数日前。

『タタンタタン!じゃなくて、タタッタタン!だよ』

優月は、顧問の井土から教えを請うていた。〈恋〉と書かれた楽譜は、ドラムのものだ。

『っていうか、ゆゆのスティック』

すると井土が苦笑する。

『はい?』

優月は、自分のスティックを見て首を傾げる。

はて?何かおかしかったのか。

『…ボロボロだよ。ローズウッドはあんまり使わないほうがいいのに…。高かったでしょ?』

『まあ、2500円しましたね』

スティック2本、日々の部費よりも高い。

『そんな高いの使うと、お金なくなっちゃうから、もう少し安くて、丈夫なのを買ってきな』

井土がニコリと笑う。優月は『分かりました』と言った。


(あれから、激しめの曲をやるって言ってたし…。買うなら今日しかないなぁ。その前に…)

ちなみに今夜は優月の家族、小倉家は家族でバーベキューをする。ついでにと菓子と飲み物を頼まれていた。


「ふぅ。重ぃ」

優月はそう言って、背中にくっつくリュックを恨めしそうに見つめる。

「さて、スティック買いに行きますか…」

トコトコと彼は、3階の楽器店へ歩き出した。


その頃、楽器店。

「おねーちゃん」

「何?」

古叢井瑠璃もある物を買いに、ここを訪れていた。

「今日は何買うのー?」

「えっ?ドラム用のチューナーと、スティックだよ」

「もしかして、お家で叩いてるやつ?」

瑠璃の妹はふたりいて、ひとりが小学6年生。眼前にいるもうひとりが小学1年生だ。

樂良(らら)は、お母さんのところに戻ったら?楽しくないでしょ?」

瑠璃が言うと、樂良はぷくりと頬を膨らませる。

「むーっ」

ああ拗ねちゃった、と瑠璃は小さくため息をつく。ごしごしと金髪交じりの髪を撫でてあげると、彼女はどこかに行ってしまった。


その時、優月は楽器店の前へ着いていた。その横には文具店がある。

「…文具。懐かしいなぁ」

優月は中学時代は、美術部だった。絵を描く為の金色の絵の具をよく買い占めたものだ。

まさか、そのとき、吹奏楽部に入るなど、誰が予想しただろう。

「ほんと…人生どうなるか分からないなぁ」

ほんの少し、中学時代を思い出して優月は寂しくなった。あの時は友達と馬鹿笑いをしながら絵を描き、休日に部活に行くなどあり得なかった。

だが、吹奏楽部に入って世界が変わった。目の前に見えるその世界そのものが。


そうして、優月はスティック売り場へ歩き出そうとする。その時、パシン!と聞き覚えのある音が耳を突き抜ける。

「ドラム?」

優月は反射的に振り返る。東藤高校でドラムは当たり前、いわばメジャーなので音に敏感だ。 

すると年端もいかない少女が、スティックを振り下ろしていた。

可愛らしいな、と優月は思う。こう無邪気に叩けているうちが1番楽しいのだろうな。

そう思いながら、優月は今度こそ、目的の売り場へと歩き出した。


その頃、瑠璃は文具店にいた。

「樂良はどこ行ったんだろう?」

探している相手は、妹の樂良だった。てっきり文房具を見に来たのかと思ったが、そんなことは無かったようだ。

しかし、そんなことが瑠璃に気付けるはずが無い。結果彼女は数周、店内を歩き迷った。


「あった。ヤラハのスティック」

優月はそう言って、スティックを手に取る。

「…優愛がお勧めしてたんだよなぁ」

優月は優愛のことを思い出しながら、レジへと向かった。

結局、スティックは2000円で購入できた。早く叩きたいな、とそんな気持ちを抑えて、優月は楽器店を見回す。

すると高そうなギターが陳列している。

「…ギターかぁ」

井土がギターを弾いている所を想像した優月は、クスリと笑った。

(確か、市営でもギター使うんだっけ?)

市営コンクール。優月はそのことを思い出した。

それは、7月22日の火曜日に行われる吹奏楽祭だ。御浦市が主催のコンクールは、それぞれ金銀銅を付けられる。結果が付くので1週間後の吹奏楽地区大会での自由曲を演奏する学校が多い。

今年、東藤高校は、地区コンクールには出ない。その代わり、得意のポップスで金賞を獲ることになったのだ。

(…やるしかない)

優月はそう言って、ギター売り場から去って行った。


その時、優月の目の前に何かが飛び込む。

「あっ」

それは先程も見た、4台にも並ぶ電子ドラムだ。その横には、アコースティックドラムが2台並んでいる。どうやらその2台は体験できないらしい。

「…練習してみるか」

取り敢えず練習したかった優月は、躊躇無く電子ドラム前の椅子に座り、付属のスティックを握る。そして正眼に構えた。

そして、エイトビートを刻み始めた。

その音は心地よく、空気を少し震わせた。

(…でも音がなぁ)

ただ唯一不遜に思ったのは、音に深みが無かったことだ。

すると隣に、少女が歩み寄ってくる。少女はスティックを乱雑に取り出すと、太鼓のパッドを打ち出す。それに気づいた優月は、少し速度を下げる。

(あれ、さっきの子…)

優月はそう言いながら、シャッフル交じりのエイトビートを刻む。ぱぁん!とスネアが薄く擦れるような音が響いた。

すると隣の少女が、優月を一瞥する。その時。

「分かんなぁい」

初めて少女が、言葉を口にした。その声が優月に向けられていることは明白だった。

「…ん?大丈夫?」

優月の声は反射的に高いものになる。

「ううん」

少女は首を横に振る。このまま立ち去るのも可哀想だと感じた優月は、手本を見せることにした。

「いち、に、さん、し…」

カウントの入ったエイトビートを見た少女は、真似を始めた。

「いぃち、にぃ、さぁん、しぃ…」

少しまばらながらも、叩けている。

「上手だね」

優月が褒めると「それほどでもぉ」と少女が笑った。その笑顔は、誰かと似ていた。

その時。

「…樂良!」

誰かが少女の名を呼び、こちらへ駆け寄ってきた。その人物に優月の目が大きく見開かれる。

「あれ?古叢井さん!昨日ぶり」

「えっ?優月先輩だ。どうしたの?」

瑠璃が樂良を抱くと、そう尋ねた。

「スティック買いに来たの。もう寿命らしくて」

「えっ?私も!」

どうやら目的は同じのようだ。

「…そうだ。昨日の演奏、千本桜!すごく上手かったよ」

すると瑠璃が、へへ…と笑う。

「お家で沢山練習したの。私にね、ドラム買ってくれたんだ」

嬉しそうに言う彼女を見て、優月は衝撃を受けた。

「えっ?そうなの!?」

「そうだよー」

なるほど、と理由を呑み込んだ優月は、そう言って瑠璃を見つめる。

「だから、チューナーとスティック買いに来たんだぁ」

瑠璃はそう言って、スティックを取り出す。

「そういえば、想大君とは?」

優月が訊くと、瑠璃はニコリと笑う。

「ふふ。来月、デートに行くんだぁ」

関係が良好そうで何より、優月はそう思った。

すると瑠璃が樂良の手を掴む。

「じゃあ、樂良、帰るよ」

「えぇ~、私ドラムっていうのやりたい」

「お家帰ったら教えてあげるよ」

「ほんと!私、大きくなったら吹奏楽部に入る〜!!」

瑠璃に似た純粋な彼女に、優月と瑠璃はアハハハ…と笑った。

「あ、そうだ!優月先輩、箏馬君のLINE持ってる?あの子と昨日会ってさ…、繋ごうと思ったんだけど…」

「えっ?箏馬君?持ってない。あとで繋ごうか?」

すると瑠璃は「お願い!」と笑った。

その後、瑠璃は箏馬とLINEを繋ぐことを理由に、優月と連絡先を交換した。

「じゃあ、古叢井さん、市営で」

「あ、優月先輩、瑠璃ちゃんで良いよ」

「…えっ?じゃあ、瑠璃ちゃん、またね」

「うん。ばいばぁい」

瑠璃と樂良に手を振られながら、優月は手を振り返した。



そして今日起こったこの出来事が、後の箏馬たちを救うのだ…。

ありがとうございました!

良ければ、

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をお願い致します!


【次回】 

キャラクター紹介 市営・地区コンクール編始動!

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