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吹奏万華鏡2  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
81/86

11話 春isポップン祭り [前編]

今回からついに本番です!

ちなみに、『あの人たち』が登場します☆

5月4日の日曜日。


朝8時から東藤高校は喧騒に包まれていた。

「ふぁぁ〜、眠い」

優月が眠そうに欠伸をする。残り数歩で校門だ、そんな所で、女の子が話しかけてきた。

「小倉先輩、おはようございます」

話しかけてきた後輩は、トロンボーンパートの藤原(ふじわら)美鈴(めいりん)だ。

「おはよう」

優月はそう言って、彼女の走る自転車を見送った。

そこへ続々と吹奏楽部員が集まって来た。


「おはよー。箏馬」

「ああ、おはよー」

箏馬は眠そうに、國亥の挨拶を跳ね返した。

「それにしても、國亥」

そして彼は不機嫌そうに、箏馬を見る。

錦繡綾羅(きんしゅうらいら)。何だ?その服装は?」

彼の言う通り、國亥は赤いシャツに黒いカーディガン、真っ黒なサングラスに、煌々と光を放つ装飾品を身に着けていた。

「へへ。まぁ、楽器を吹く時は外すよ」

國亥はそう言って、陽気そうな笑いを浮かべた。その様子を見て優月は、

(面白い子達だなぁ)

と思うしかなかった。


9時には楽器の搬入が全て終了した。ドラムは茂華中学校と茂華高校から借りる。故に打楽器はグロッケンや小物楽器のみなので、すぐに終わる。


9時過ぎにはバスが到着した。十数人は乗れるだろう小さなバスだ。

「箏馬君、危ないよ」

「あ、すみません」

バスが止まると同時に、箏馬の肩をゆっくり離す。

「あ、すみません。乗り物が好きなので」

「へぇ。そうなんだ」

優月は箏馬を見守るように見つめながら、スマホを取り出した。

スマホには井土からのメッセージがあった。

《今日1日、久遠くんの面倒よろしくね》

面倒見が良く、井土LOVEな優月にとっては嬉しいことだ。

それにしても…と優月は思う。

何故、井土はここまで箏馬を気にかけているのか?

その理由は間もなく、裏付けされることになる…。



バスが出発するなり、部員は思い思いに話しだした。

『明日、何する?』

『いや、疲れてるから寝るよー』

『ねぇ、コナンの映画見た?』

『えぇ!?まだ見てないー』

様々な話題が飛び交う中、優月は箏馬に話しかけることにした。

「箏馬君って中学生の時は部活は入ってたの?」

すると箏馬が首を横に振る。

「いえ。実は俺…、中学校でも問題を起こしてしまい…」

問題?と優月が首を傾ける。

「はい。問題です」

「そうなんだ。僕、箏馬君が悪い人とは思えないんだけどなぁ」

松柏之操(しょうはくのみさお)…」

その時、彼が低い声でそう言った。

「…別に無軌道に問題を起こしていたわけでは無いのですがね…」

箏馬は皮肉げに笑った。

「…問題かぁ」

優月はそう言って、窓の外を見つめた。

明鏡止水(めいきょうしすい)。先輩は問題を起こしそうには見えませんね」

「えっ?そんなことないよ!小さい頃は苛めっ子って…あっ!」

その時、優月が口をつぐんだ。

「えっ?先輩、もしかして…」

「い、いや、そんなことないよ」

優月は誤魔化すように笑った。

そんな彼の脳裏には、ここにはいないはずの優愛の姿が浮かぶ。あとで優愛に連絡するか、と優月は無意識に思った。


優月や箏馬たち以外にも、美羽愛たちも部員と話していた。

「えっ!美羽愛ちゃんと志靉ちゃん、同じ中学校だったの?」

岩坂心音が驚いたように、こう言うと2人は頷いた。

「はい!一緒だったんですよー」

志靉がニコリと笑う。可愛らしいな、と思った。

「ふふっ、志靉ちゃん、本当に可愛い」

そう思う心音を代弁したのは、初芽だった。

「わぁ!」

今までずっと大人しかった彼女が、突然話したことに志靉は驚きの声を上げる。

「ありがとうございます!いやー、お母さんが可愛いからですかね?」

しかし初芽は困ったように目尻を下げる。

「私、志靉ちゃんのお母さん、見たこと無いよ」

すると志靉がスマホを取り出す。

「これです」

志靉は、母とのツーショットを見せる。

「えっ?本当!アイドルみたい!」

「俺も思う」

初芽と心音は称賛の声を送った。

「えへへへ…」

志靉は恥ずかしそうに笑った。


バスが都会面に入る頃には、皆、疲れたように黙っていた。

「根性無いですねぇ」

そう言ったのは、ホルン担当の日心(にこ)という女の子。そこに氷空が「そうだね」と笑った。

こうして、道の駅色桜へ向かって行った。


その頃、茂華中学校のバスも、色桜に向かって走り出していた。

「莉翔めー!」

友達の横で希良凛が、弟の名を叫んでいる。

そして瑠璃は、トランペットパートの澪子と隣の席だった。

「えっ?雄聖が厳しい?」

瑠璃が口にしたのは、トランペットパートリーダー、そして部長の矢野雄聖の名だった。彼は後輩にさえも厳しいと有名だ。

どうしたものか?と思っていたその時、

「…何を悩んでいるの?」

女の子の低い声が聞こえてきた。

「音織ちゃん…」

話しかけてきた人物は鈴衛(すずえ)音織(ねお)。3年生のフルートパートリーダーだ。

音織に助けを求めるように、澪子が、

「いやー、矢野が厳しくてねぇ」

と愚痴をこぼす。

「それこそ、奏者の嗜み…。()いではないか」

音織には友達が少ない。その理由は、その喋り方に癖があることだ。それでも成績優秀なのでクラスメートからは2つの意味で注目を浴びている。

そのうえ、彼女は部活中はより一層、その会話癖が悪化するのだ。

「嗜みって…」

澪子は、相談することを諦めた。

ちなみに実力面は、前部長の香坂白夜とほぼ同じくらいだ。


その会話を聞いて、希良凛はある人物を思い浮かべた。

(誰かと似てるんだよなぁ。その話し方…)

その時、希良凛の脳裏に浮かんだのは、弟と話していたトランペットを持った少年。

『美しく吹くことこそ、奏者の誉れ…』

同じ話し方。

そう言ったのは、片岡(かたおか)翔馬(しょうま)。御浦の吹奏楽団に所属しているトランペット奏者だ。

この時、そんな彼と音織が『あんな関係』で有ったことを、この時、誰も知る由もなかった。


道の駅色桜。桜は既に散り、新緑の蕾が咲いていた。これから夏が始まる、と暗示するかのように。

「はい!皆さん」

茉莉沙が声をかける。それほど大きい声では無いのに、皆が集まってくる。

「トラックから楽器を下ろします。ステージの裏の大きなテントまで運んでください。今日は暑いので、熱中症にならないように」

『はい!!』


「海鹿さん、マイクスタンド持てる?」

初芽がそう言って、マイクスタンドとそのケースを美羽愛に出す。

「勿論です」

美羽愛はマイクスタンドを両手で持ち上げ、歩いて行った。

「重ーい…」

腕にのしかかる重圧に、美羽愛は重そうに顔をしかめた。


優月は箏馬と話しながら、トラックへ戻っていた。

「先輩、次は何を持ちましょう?」

「うーん…打楽器じゃない?」

優月はそう言って、トラックの先を見つめた。

その時、誰かが重そうに物を運んでいた。


(あっ…!美羽愛さん)

見覚えのある苦しそうな顔に、優月は美羽愛に駆け寄る。

「美羽愛さん、大丈夫?」

優月が尋ねると、あっ!と美羽愛が目を煌めかせる。真意を理解した優月は、

「それ、僕が持っていくよ」

と言う。

「あっ、ありがとうございます!」

美羽愛はそう言って、優月を見送った。

(お、重ぉ…くは無い)

優月は、楽器運搬に慣れすぎているせいで、マイクスタンドごとき、重くはなかった。

そうして往復を繰り返すうちに、楽器は更に重いものへと突入した。

「やっぱ、スネアは軽いなぁ」

優月は、初芽から渡されたスネアドラムを運ぶ。

その時だった。

ブースから手拍子が鳴り響いた。

「始まったな」


茂華高校吹奏楽部の発表だった。

8人とは言え、全員が精鋭。大盛り上がりだ。

それぞれがそれぞれの役目を果たす。それ以上もそれ以下もない完璧なパフォーマンスだった。



「はぁ…、茂華高見たかったなぁ」

むつみが肩を下ろす。

「いいじゃん。一曲聴けたし」

そこに、河又悠良之介が話しかけてきた。

「そういうことじゃないの!悠良之介は分かってないなぁ〜…」

むつみは悠良之介の頬を両方につねる。

「イタイイファイ…」

ここでようやく、むつみがご立腹なことに気づいた悠良之介が「ご、ごめん」と言う。

「…はぁ。まぁいいや」

むつみは棘混じりの声を抑え込むと、準備中のブースを見つめた。

次は茂華中学校だ。


『さて、次は毎年皆勤賞!茂華中学校です!茂華中学校も強豪校で、去年は地区・県大会で金賞、その後も東関東大会っていう超すごい大会で、銀賞を獲得しました!』

素晴らしい実績なのだが、説明が適当であることに、箏馬はプッと笑う。

「こーら、久遠」

そこに、美鈴(めいりん)が話しかけてきた。

「いや、なんか…説明がふわふわだから…」

「ま、確かに」

『今日は全員では無く、全部員の半分以下のようですが、いい演奏を響かせてくれることでしょう!それでは宜しくお願いします!!』


顧問の笠松が、瑠璃に目配せをする。

すると瑠璃が、深呼吸をする。そしてスティックを振り下ろす。

タカタカタカタカタカタ…!!

雑音のような音が空気を切り裂く。瑠璃はそこからエイトビート、管楽器隊は激しい音を響かせる。

曲名は『Ado』の『クラクラ』だ。


(…古叢井さん、上手くやれてる)

優月はそう言って、ドラムを叩く瑠璃を見守る。

優月も最近、舞台でドラムを叩いてみて分かった。プレッシャーが凄いことに。

ドコドン!とタムの音に、シンバルが連なると同時に、トランペットの音が慌ただしく跳ねる。

サビも管楽器隊は完璧に吹き切る。一切ブレないその演奏に辺りの観客は舌を巻くことだろう。

希良凛は、グロッケンとタンバリンの往復だ。1年前は瑠璃がそこに立っていた。そう思うと感慨深いものがあった。


演奏が終わると、矢野が仏頂面で前に立つ。そしてマイクへ向かって、トランペットを構えた。

「皆さん、こんにちは。茂華中学校吹奏楽部です。僕は部長の矢野雄聖です。さて、次は皆さん大好きな…」

そして、彼がトランペットへ息を吹き込む。

その音は、全員の注目を集めるほどに、綺麗な音で曲の輪郭を象っていた。

「ダンスホールです!」

彼が声を張り上げると、後ろのトランペットたちがイントロを吹き出す。

パン!パン!とトランペット、サックス以外の部員は手拍子をする。

希良凛もドラムスティックを構え、イントロに合わせ、スティックを打ち合わせる。瑠璃はタンバリンを叩く。打楽器パートも完璧に音を出す。


「いつだって大丈夫♪」

何故か、井土がノリノリに歌を歌っていた。

「先生、」

優月より先に箏馬が、彼の歌を中断させる。

「はい?」

「この曲、好きなんですか?」

「好きですよ。今年はウチらもこの曲をやろうか…」

「井土先生、そしたらミセス3曲目です」

「…ふふ」

井土は嬉しそうに笑った。

「もしかして、市営はミセ…」

「いや、紅やります」

その時、井土が放ったその言葉は、優月と箏馬を硬直させた。

「えっ…?エッ…クスの…?」

「いや。決定してないですよ。ただ今年は、鳳ちゃんをヒイヒイ言わせたいので」

それを遠くで聞いていたゆなが、不満げにこちらへ歩み寄る。

「おーい、やめてくださいよ。私、ただでさえ、ドラム大変なんですから…」

ゆながため息をつく。しかし、そんな彼女を井土は手で制する。

「安心なさい。2曲中、1曲は()()に鍵盤楽器を任せますから」

「えぇ…。それも嫌だ」

どこまでも我儘な彼女に、優月と箏馬は呆れ笑いを浮かべた。


その時だった。

「井土先生〜」

誰かが元気な声で、井土の名を呼ぶ。

「おっ…。朝日奈向太郎君!」

井土が嬉しそうにする一方、箏馬は首を傾げる。

「誰ですか?」

「去年、チューバやってた先輩」

優月はそう言って目を細めた。

「えっと、河又君と鳳ちゃんに頼まれて、来ちまいました!!」

朝日奈(あさひな)向太郎(こうたろう)はそう言って、ニコッと笑った。

「社会人になってどう?」

井土が聞くと、向太郎はげんなりと顔を沈める。

「いやぁ、皆と笑い合ったあの時に、戻りたいなぁ、そう思いながら出勤しています」

彼が朗らかに笑うと、ゆなが、

「朝日奈、あめ部長も来てるんでしょ?」

と訊いてきた。因みに、彼女が先輩を呼び捨てする性質は今に始まったことでは無い。

「ああ。今メイさんと話してるぜ」

「おお!」

その様子を見て、箏馬は「いいな」と誰にも聞こえない声で言った。



その頃、茉莉沙は元部長の雨久(さめひさ)朋奈(ともな)と話していた。

「茉莉沙ちゃん、部長になってどう?」

「ま、まぁ。何とか…」

「ごめんね。押し付けるように任せちゃって」

雨久の声色は、部員時代の時とは全く違う。穏やかなものだった。まるで『部長と言う名の鎖』がほどけたかのように。

「いえ。結羽香や井上さんが手伝ってくれるので」

「ホント!やっぱり茉莉沙ちゃんに任せて良かったぁ」

「あの…何で初芽じゃなかったんですか?部長」

茉莉沙は、ふと気になったことを、雨久へぶつける。

「それはねー、やっぱり演奏会見て思ったの。茉莉沙ちゃん、すごく責任感強いなぁって」

「は、はぁ」

「ほらさ、トロンボーンも大変なのに、ビブラフォンやったり、笑顔でドラム叩いたり、大変だろうに。で茉莉沙ちゃんは、凄く責任感と忍耐力があると思ったから、部長にしたわけ」

「にん…忍耐力…」

茉莉沙は顔を少し渋めた。

ビブラフォンは付け焼き刃だったし、ドラムに限っては、『狂気的な集中力』の感覚を戻したから、楽々に演奏できたのだ。


その時、茂華中学校の演奏は、最後の曲へと差し掛かっていた。


        〈後編に続く〉

ありがとうございました!

良ければ、

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[次回]

茂華中学校、東藤高校演奏。

合同演奏へ…




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