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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
80/208

10話 合同練習

いよいよ、合同練習です!

ちなみに作者は、合同練習なんてしたこと無い…泣



春isポップン祭り。それは(みち)(えき)色桜(しきおう)で行われるコンサートのことである。毎年、色々な学校の吹奏楽部が参加する。

参加する高校は4校。東藤高校、冬馬中学校、そして茂華町にある茂華中学校、茂華高等学校だ。


その祭りにて合同演奏をするのだが、練習日の話が、この日行われる。

「茂華高校かぁ。私のお兄ちゃんもそこに通ってるんだよねぇ…」

アルトサックス担当の加藤(かとう)咲慧(さえ)が、教室でそう言った。

「えっ?咲慧ちゃん、お兄さんいるの?」

優月が聞くと「そうだよ」と言う。

「まぁ、今は宮城で暮らしてるけど」

「へぇー」

咲慧はそう言って、目を細めた。

「…でも、まさか、茂華高校とも合同演奏なんて…」

咲慧はとても嬉しそうだ。彼女の髪が自由になびく。とても可愛らしい。

「吹奏楽部に入って良かったぁ」

「茂華高校、好きなの?」

「あそこ、すごく私の好みなの」

どうやら咲慧は、茂華高校の演奏が好きらしい。

「優月くん、去年、茂華町の演奏会来てたでしょ?」

「え、うん。来てたよ」

「やっぱり。私、優月くんをどっかで見たなぁ、って気がしたから」

(あの時は、確か優愛達の演奏が、見たくて行ったんだっけ…)

優月はその時のことを思い出した。

「…でも、僕の知ってる子は全員、茂華以外の高校に行っちゃったからなぁ…」

「えっ?そうなの?」

「うん。凛良の方に」

主に優愛のことだが、咲慧は「そっかぁ」と気まずそうに言った。

「でも、頑張ろうね」

「もちろん!」

優月と咲慧はそう言って、ぱちん!とハイタッチを交わした。


あの春isポップン祭りの説明から2日後、この日も井土からの説明があった。

「さてと、今日も予定表にもある『合同練習』について説明しょうかと思います。じゃあ一昨日、配った予定表を見てください」

井土がよく響く声で言う。だが、その声に威圧は一切無い。

「箏馬君ある?」

優月が訊ねると、箏馬は「ありますよ」と答えた。間もなく、井土からの説明が始まる。

「練習日は4月26日です。集合は茂華高校に10時ですよ。練習してパートごとにお昼を食べたら、2時から4時まで合奏。4時30分に解散です」

彼の言うことは、予定表に書いてあることと何ら変わらなかった。

「いいですか?4校が集まります。この日は制服でもジャージでも(かま)いません」

「略して、いよかん」

と心音が言う。するとゆなが、

羊羹(ようかん)じゃない!それみかん!」

と突っ込む。

その時、1年生からどっと笑いが起こった。

「何を悟ったのだ?」

ただひとり、箏馬はつまらなさそうに言う。

「…箏馬君、あれは面白いんだよ」

「ほう。まぁ狂言綺語(きょうげんきご)ですね」

彼はそう言って、黙り込んだ。優月は苦笑で誤魔化す。

「はいはいー!面白いよー。略称大臣さんと突っ込み大臣さん」

井土があしらうと、ふたりは満足げに黙り込んだ。

「さて、あとは中学生も来ます。皆さん、仲良くしてあげて下さいね。くれぐれも睨みつけないように」

「略して(にら)

「いや、睨みと韮を掛けたつもりだろうけど、全然つまんないよ」

今度は初芽が小突いて突っ込んだ。止まらない心音の略称地獄に、笑いが止まらない。

「まぁ、今のはスルーしますね。あとは挨拶しっかりして下さい。校長からは学校の看板背負っているとか何とか言われたので」

井土の発言に、箏馬が眉をひそめる。

「校長からの言葉が有耶無耶とは…」

「あははははぁ」

まぁ仕方ないよ、と優月は苦笑した。

「それでは、伝えたいことはこれにてお終いです。訊きたいことはありますか?」

「…はい」

それに手を挙げたのは、諸越冬一だった。

「昼食は友達と食べて良いのでしょうか?」

「いえ。パートごとに食べてもらいます。なので適度にコミュを取って下さーい、と言われています」

「略してパラコート」

心音がボケると、

「毒ですね。食事には持ってこないで下さい」

と今度は井土自らが、突っ込んだ。

「クスクス…」

すると無言だった箏馬が笑う。

「井土先生、面白いやぁ…」

それを見た優月は、衝撃を受けた。彼の表情は少年のように和んでいた。

それから、いつものように練習が始まった。



それから数日後、いよいよ土曜日になった。

優月は、茂華町に住んでいるので、少し自転車を走らせ、茂華高校に到着する。

「…やっぱりデケェ」

優月は校舎の迫力に息を呑む。

県立茂華高校。校舎は5階建てだ。音楽室は何と5階にあるそうだ。校門前で少し待っていたその時。

「お、おはようございます」

気弱な声が聞こえてきた。

「ん?あ、おはようございます」

「えっと…す、吹奏楽部ですか?どこの?」

その男の子は、少し戸惑っているようだ。年下と分かった優月は優しい声でこう言う。

「僕は小倉優月。打楽器やってるんだ。そのジャージ、茂華中学校だよね?」

すると、その男の子は「はい!」と頷いた。

「僕、1年生の末次秀麟です!」

1年生まで来るのか、優月は今までにないパターンに驚きながらもこう尋ねる。

「へぇ。カッコいい名前だね。何の楽器やってるの?」

すると男の子は「打楽器です」と言った。

「一緒だ…」

優月は声にならない声でそう言う。

そして優月が気になっていたことを尋ねる。

「今年は1年生でも本番、出るんだね」

「…なんだか、パーカスは人足りないみたいで。駆り出されちゃいました」

そういうことか、と優月は納得した。

「よろしくね。末次君」

「小倉さん、よろしくお願いします」

そう言って、元茂華中の優月と秀麟は出会いを果たした。


それからしばらくすると、吹奏楽部部員に音楽室へと通された。音楽室はやはり広い。

その中の椅子のひとつに優月たちは座らされた。

「すげぇ…」

壁には、茂華高校吹奏楽部の輝かしい栄光の証が張り付けられていた。

すると、続々と吹奏楽部員が音楽室へ集合した。


総勢40人。最初は広いと思われた音楽室も、あっという間に狭く感じられた。


こうして、パートごとに練習が始まった。合同演奏の曲はふたつあり、『Aimer』の『残響残歌』と『宝島』だ。


「香坂先輩、お久し振りです」

「鈴衛さん。久し振りだねー」

後ろから、フルートパートの再会を懐かしむ声が聞こえてくる。


「えぇ。まずは自己紹介しますか。名前、学校、何て呼んでほしいか、を言いましょう」

そう言ったのは、朱雀(すざく)美玖音(みくね)。茂華高校パーカッションパートだ。2年生だというのにしっかりしているなぁ、と優月とゆなは少し感心した。

「私は朱雀美玖音です。美玖音ちゃんって呼んでください。よろしくお願いします」

すると、パーカッションパートからぱちぱちと拍手が沸き起こる。

「次は東藤の子かな」

すると、ゆなに押し出された優月が言うことにした。

「東藤高校の2年、小倉優月です。優月君でも、小倉君でも、好きに呼んでください。よろしくお願いします」

次は、ゆなの盾にされた箏馬が言う。

「東藤高校の1年、久遠箏馬です。呼び方はどうとでも構いません。よろしくお願いします」

あまりの愛想のない声に、辺りは少し凍りついたような雰囲気になる。そこに、ゆながやれやれといった様子で前に立つ。

「同じく2年の鳳月ゆなです。呼び方は鳳ちゃんでもゆなちゃんでもいいです。よろしくお願いします」

すると、今度は茂華中の自己紹介だ。

「茂華中3年の古叢井(こむらい)瑠璃(るり)です。瑠璃ちゃん呼びしてくれたら嬉しいなぁ、ってことで宜しくお願いします」

瑠璃のツインテールがふわりと揺れた。随分変わったな、と優月は思った。

「同じく2年の指原希良凛です。呼び方はさっちゃん、さっしーのどっちでも良いです。よろしくお願いします」

「同じく1年の末次秀麟です。君付けで宜しくお願いします」

そう言って秀麟は丁寧にお辞儀をした。礼儀正しいな、と誰もが思うくらいに。

冬馬中学校の自己紹介を終えて、いよいよパーカッションパートの練習も始まった。


「…はぁ」

しばらくドラムセットを叩いたゆなが面倒臭そうにスティックを下ろす。

「ゆなちゃんー」

そこに美玖音が話しかけてきた。

「そこね、バスドラ入れるから、ドンドンじゃなくてドドッだよ」

「えっ?そう?知らなかった」

「よく楽譜見ないと。私もドラムやっていい?」

「いいよー」

「でも凄く上手。魅力的なドラマーだね」

そう褒めた美玖音がドラムスティックを手にする。グリップも付いていないごく普通のスティック。しかし、やけに重く感じた。

すると、パンパン!とスネアを弾くように打つ。シンバルとタムの音が容赦なく空気を裂く。

上手い…、とゆなは直感的に思う。それに正確だ。一挙手一投足も無駄が無い。余裕を見せるゆなとは、全く違う。


その間、優月と瑠璃は、それぞれ後輩の面倒を見ていた。

「シェーカーはね、そんなに大きく振らないよ」

「そうなんですか?」

優月が頷くと、瑠璃がもうひとつのシェーカーを持ってきた。

「えっと、久遠さん、腕はあんまり動かさないんですよ!」

「え…ええ…」

瑠璃が手本のようにシェーカーを手首全体で振り出す。砂が音を奏でる。細かい音は箏馬の興味を引き出した。

「こうだよ。まぁ頑張ればできるからね!」

瑠璃がフフッと笑うと、箏馬は珍しく熱を帯びた声を出す。

下学上達(かがくじょうたつ)。いつか上手くなってみせます」

口元がぴしっと引かれる。その顔は誰から見ても美しい。

「ふふっ。頑張ってね」

瑠璃は、いかにも先輩というように、そう言った。

「古叢井さんはどうなの?」

すると優月が瑠璃に、演奏の進捗を尋ねた。

「うーん。難しいかなぁ。優月先輩もグロッケンでしょ?」

「そうだね」

すると瑠璃が希良凛をギロリと見る。

「はぁ。私もドラムやりたい」

「あれ、入学式でドラムやったんじゃないの?」

これは親友の小林想大から聞いたことだ。

「やったよ。でも、もっとやりたいの!」

「えーっ。先生に直談判した?」

「…笠松先生には言ってない」

瑠璃が悔しそうに言うところを見て、優月は仕方なさそうに笑った。

「小倉先輩、ここのタンバリンを教えてくださーい」

その時、指原希良凛がそう話しかけてきた。

「えっ?何で僕?」

「いやぁ、瑠璃先輩、分かんないみたいで…」

「そっかぁ」

その後も優月は、小物楽器に詳しくない瑠璃の代わりに後輩に楽器を教える羽目になった。



「はぁ…」

1階の自動販売機で、飲み物を買った優月は小さくため息をついた。

「鳳月さんや美玖音ちゃんがいないから、結局、僕に指導が任されるなんて…」

その通り、瑠璃までも鍵盤楽器を必死に練習している間、優月が、希良凛や秀麟たちの指導をしていたのだ。

その時だった。


「小倉君」

誰かが話しかけてきた。

「あっ…!お、お久し振りですね!中北先生」

その誰かに優月の目は大きく見開いた。そこにいたのは、中北楓という茂華中学校吹奏楽部の副顧問だ。実は優愛のことが好きだということを見抜いた人物である。

「ふふ。瑠璃ちゃん達の面倒見てくれてありがとうね。本当に助かってる」

彼女の柔らかい柔らかい双眸は未だ健在だ。

「あ、いえ。どっちかと言えば、面倒見てもらってる方で…」

優月が恥ずかしそうに言う。だが中北が首を横に振る。

「でも、知らない後輩いたでしょ?」

「は、はい。指原さんは、去年の夏祭りで話したことあるんですけど、末次君は…」

「そっかぁ。瑠璃ちゃん、いい子にしてるでしょ?」

「はい。そういえば古叢井さんは、あれからもずっと鍵盤なんですか?」 

その時、優月は彼女の過去について触れる。


ティンパニ破壊事件。先輩の優愛が目を離した時に、瑠璃が立て続けにティンパニの皮を破壊した事件だ。本人は、和太鼓を叩く要領で打ったそうだが、その事件からは鍵盤楽器しか任されなくなったのだ。

しかし太鼓目当てに入部した瑠璃は、その事態にとことん苦しめられたのだ。


その問いに中北はこう答えた。

「…まぁね。でも最近、私にはドラムやりたいとか、スネアとかティンパニやりたいって言ってたからね。最後だし尊重してあげたいな、って思ってるよ」

やはり中北は優しいな、と思った優月は「へぇ」と満足げに笑った。


そして、合奏が始まった。

「國亥君、小山さん、少し音程がズレてますね」

茂華高校吹奏楽部の顧問の今川(いまがわ)京華(きょうこ)が指導をする。

「久遠君、しっかり指揮を見てください。古叢井さんも、指揮をよく見て早まらないように」

やはり指導は少し厳しいものだった。いかんせん時間が無い。

そんな雰囲気で合奏を終えると、今川はニコリと笑う。

「やはり、皆さんよくできますね!」

その言葉を、カバサを手にしていた優月は苦笑で跳ね返した。

「今回はコンクールではありません!演奏者本人も楽しみましょう」

『はい!!』

その声が、音楽室中に響いた。その声が響いた時、合同練習は幕を閉じた。


いよいよ来週、本番だ。

だが、本番、パーカッションパートに激震が走る…。


ー本番に続くー

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】

春isポップン祭り!!茂華高校の凄さ


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