表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
8/172

名前と経験者の章

この物語はフィクションです。

人物、学校名は全て架空のものです。

「…上手いなぁ!小林君」

ここは、美術部の部室である美術室。

先輩の女の子がそう褒めると、小林想大が

「ありがとうございます」

と会釈した。

「…何描いてるの?」

すると、大人しげな女の子がそう訪ねてきた。

「あぁ…学校の校門に咲いてる桜の花」

「…ふーん」

橙色で細々と描かれた木の枝に、桃色の可愛らしい点が無数に打たれていた。


「陰陽のつけ方、いいね。ファンになる」

大人しげな女の子がそう言うと、一冊の本を持って、自席へ戻って行った。


「…先輩、ひとつ、相談があります」

すると想大が真面目な声で、先輩の女の子に話しかける。その硬質な瞳に、女の子は「どうしたの?」と訊ねる。

「この部活って…『兼部』、できますか?」

兼部…この言葉を言う度、優月の男の子としての可愛らしい笑顔が浮かんだ。







「はい、皆さん、注〜目〜」

練習中の吹奏楽部員へ、部長の雨久朋奈(さめひさともな)が呼びかける。

すると、普段は騒いでいる人さえも、真っすぐに彼女のいる黒板の方を見る。


「…毎年、合同で、春isポップン祭に出てるわけですが、今年も例年通りの予定です」


そう言って、雨久は、ホルンの周防奏音、パーカッションパートの田中美心に数枚のプリントされた紙を配る。


「あれ?小倉君は?」

パーカッションパートまで配りに来た美心だが、いたはずの優月がいない。

「ゆな、知ってる?」

美心が、同じパーカッションパートで1年生の鳳月ゆなへそう訊ねる。

「小倉なら、担任との面談に行ったよ」

ああ、面談か…と美心は納得すると、彼のグリーンのファイルにプリント2枚を載せた。


「1年生の子は、知らないでしょうから、毎年の流れについて、説明します」








その頃、1年1組の教室…

「優月は、困ってることはないですか?」

女性の若い先生がそう訊ねる。名は若村と言った。

「…特には、ないですね」

「部活は、何にしたんですか?」

「えっと…吹奏楽部…です」

『吹奏楽部』という単語にまだ慣れない彼は、拙い喋り口調になってしまった。

「…吹奏楽部かぁ。近々本番があるそうだな…」

「はい。来週に」

彼がそう言うと、若村は「うん」と頷いた。

「他の中学校と合同合奏…するみたいだが、頑張れな!」

励ますような彼女の口調に気圧されながらも

「はい!」

と返事した。



「…友達はできましたか?」

と若村が問うと、優月は

「…い、いえ」

と視線を逸らす。

「想大とは、仲がいいの?」

「はい。小学校から一緒で、よく遊んでて…。部活も中学は同じでした」

「中学では、何部…だったんだっけ?」


え、知らないんですか?、と言葉が出かかったが、間一髪、その声を呑み込んだ。

「び…美術部です」

「あぁ。そうだったなー…。因みに、吹部に入ったキッカケとかは、あるのか?大体は、井土先生の人柄に憧れて入部する、っていう人も多いんだけれど…」

やはり、井土は人気のようだ、と優月は思う。面白くて優しく人当たりが良いからだろう。



「す、少し、お恥ずかしいのですが…」

と、優月は、答えることにした。

「…実は中学の時まで好きな人がいまして…」

すると若村はえっ…!と両手で口元を押さえて、目を大きくする。

相当驚いているようだ。


「…その、好きな人に憧れて…始めました…」

「へぇ…!高校は同じ?」

「いえ。1つ下の幼馴染みです」

「青春だね。告白できたの?」

部活の話とは180°目の色が違う。恋バナに弱いのだろうな。

「卒業式2日前に告白しました」

「そっかぁ…」


それで、全て察したのか、それ以上は何も触れなくなった。



「…まぁ、理由としては素敵じゃない」

励ますように、そう言った。

「…頑張れ!!」

若村が親指を立て、そう言うと、優月は

「はい…」

と俯いた。


何だか恥ずかしかった…。




「ただいま帰りました」

優月が音楽室へ帰ってくる。

すると、ゆなが彼へズカズカと駆け寄る。

「…はい」

「はい」

渡された優月は紙を見る。渡された紙はプリントだ。

しかし、その内容を見た優月は「えっ?」と目を疑った。









ーその頃、茂華中学校

「…はい。瑠璃ちゃん!」

パーカッションパートの優愛が瑠璃に楽譜を渡していた。

「…えっ?」

すると、瑠璃は驚いたように目を丸くした。

「…なんと今回、一曲だけだけど、先生に頼んで、ドラムやってもらえるようにしておきましたー!」

「わぁぁぁ…」


ドラムは、瑠璃がずっとやりたくて仕方がなかった楽器だ。瑠璃の目はまるで、子供がプレゼントを渡されたかのように、キラキラと輝いていた。

「…いいの?」

「うん。私は、久し振りに鍵盤、挑戦してみる」


すると、瑠璃は、「ありがとう」と笑った。

「…ただし、合同での曲は、グロッケン、頑張るんだよ!」

「うん!」


その様子を見た部長の香坂が副顧問の中北楓に話しかける。

「優愛ちゃん、なんやかんや言って優しいんですよねぇ…」

それを聞いた中北はこくりと頷いた。

「そうだね。まぁ、ずっと、可哀想って悩んでたから…」


この半年間、瑠璃は自分のやりたい楽器をやることが出来なかった。彼女の鬱憤も溜まっていたのだろう。


すると、"Flute"と書かれた楽譜を見ながら、

「それで、本番って、春isポップン祭、でしたっけ?」

「…そうだよ。白夜さんは、何回か、出てるから分かるでしょう」

すると香坂は「はい」と頷いた。







翌日のことだった。

「…んあぁ…」

欠伸をしながらの優月が想大と話していた。

「部活、どう?」

想大が訊くと「楽しいよ!」と優月は答える。

「井土先生も優しいし、色んな発見があるし…」

「そうなんだ…」

「想大君こそ、どうなの?美術部」

すると、想大は、はぁ…とため息をつく。

「ずっと褒められてばっかり。だから全然面白くない」

あはは…と優月が苦笑する。

「中学校では、先生、厳しかったもんねー…。半年は続けられそう?」

東藤高校では、部活で最低半年間は活動しなければならないのだ。

だからか、2、3年生は、退部者が続出することもあると、優月は井土から聞いていた。

その問いに想大は、

「分かんない」

と答えた。

楽しくないのか…と優月は口の中で独りごちる。




放課後の音楽室では、賑やかな話し声が飛び交っていた。

「朝日奈先輩、楽器に名前、付けてるんですか?」

1年生のフルート担当の岩坂心音がそう言うと、

「ああ」

と3年生の男子は言った

彼は3年生でチューバ担当の朝日奈向太郎あさひなこうたろうだ。筋肉がガッチリと付くわ、顔はイケメンだわと、男子の憧れを詰め込んだような男の子である。


「…オリオンちゃん、こんにちはー」

そう言って、彼は、大きな白銀色のチューバを両手に取る。

「…オリオン…ちゃん?」

「ああ、この…チューバのことだよ」

向太郎が、軽々とチューバを持ち上げる。重いはずなのに彼が持つと軽く見える。

向太郎は軽妙洒脱だ。


「…私も、名前を付けようかなー…」

心音がフルートを見て首を、うーんと、傾げる。

「…何がいいかなぁ…」

すると、ゆなが2人の会話に潜り込む。

「シンデレラ…とか?」


「シ、シンデレラ?」

心音がそう言うと、ゆなが「そうだよ」と言う。

「な、なんで、シンデレラ?」

「だって、そのフルート…」


ゆなが、彼女の握る学校のフルートを指差す。

「古いし、埃っぽいじゃん」

「ええ?何が言いたいの?」

心音が詰め寄ると、ゆなは口角を上げ、

「だって…シンデレラって日本語で『灰かぶり』って言うんだもん」 


「…ゆなちゃん、ひどーい」

そう言って心音は、彼女を睨みつけた。

「事実じゃん。別に、心音ちゃんを悪ーく…言ってるわけじゃないからね」


「まぁまぁ…、シンデレラでも良いじゃないか…」

向太郎がそう言うと、心音は、

「そうだね…。他にいい名前ないし…」

とガックリと肩を落とした。

「あははは」


優月は、一連の会話を聞きながら音楽室を出た。

「全く…鳳月は正直だな。透明な人間とも言うー」





その時だった。



『もう…あの男に付きまとわれてない?』

『…半年は来てない…。大丈夫そう』


耳の奥を凍りつかせるような会話が聞こえる。

(付きまとい?)

優月は、その会話に足を止めた。と同時、声の主、2人の姿が奥の空間に見える。

(…な!)


その人物は、心音の先輩、初芽結羽香と明作茉莉沙だった。

『…!!』

次の瞬間、2人が後ろを振り返る。


しかし、誰もいなかった。


優月は、トイレの中へ隠れていた。

「…あ、あの…2人…。誰かに付きまとわれてるのか…?」




茉莉沙と初芽は、誰もいないことを確認して、再び話し出した。

「…まぁ、茉莉沙、モテるもんね。そりゃ、みんなも、ヨリを戻したくなるかぁ」

「勘弁してよ…」

そう言って、茉莉沙は顔を渋らせた。美しい瞳が影に歪む。


しばらくして、優月が2人のいた通路を見る。

「…もう、居ないか…」


茉莉沙はストーカーされているのか…?

しかし彼は、近い未来、その真相を知ることになるだろう…。

ありがとうございました!

良かったらいいねとコメントをお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ