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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
79/208

9話 初合奏

今回からいよいよ『春isポップン祭り編』が始まります。新1年生の活躍をお見逃し無く…!

翌日。東藤高校吹奏楽部は、とある本番へ向かって練習が始まっていた。

「みなさん、来ましたねー」

全員が揃うと、井土が口を開いた。

「さて、今日は春isポップン祭りの説明をしたいと思います!」

すると、井土は紙を部員たちに渡す。

全ての紙が行き届くと、井土はポンと両手を叩いた。 

「さて、まず、予定表を見てください。当日は全員参加です。日程は5月の4日になります。ゴールデンウィークの半分が部活になります」

申し訳なさそうに彼が言う。

「…はぁ。私の休みが」

ゆなは小さく不満の息を吐いた。

「これもまた無常…」

箏馬は一匹狼のように、立ち尽くしそう言った。

やはり、皆、休みが欲しいのだろう。

「なので、5月3日の土曜日は、部活が入ります」

「はーい」

部員は嫌々、返事をした。


すると井土がスケジュールについて説明を始める。

「集合は朝の8時です。出発は8時15分です。10時には到着するので、そのあとは楽器を下ろします。終われば演奏の12時30分まで、自由行動。演奏が終わったら、片付けをして帰ります。4時には解散です」

井土の淡々とした説明に、箏馬が手を挙げる。

「先生。お昼ご飯はどうするんですか?」

「お昼ご飯はですね、お弁当でも良いですし、屋台で買って食べてもいいですよ」

井土が説明すると、箏馬は「分かりました」と言った。

「…さて、次に衣装ですが、衣装はご自由に。制服にしようかと考えてましたが、不慮の事故で汚されても嫌なので」

「不慮の事故?」

その時、咲慧がきょとんと首を傾げる。

「ええ。例えば、買った食べ物が制服に着いちゃったり、走って水溜りに突っ込まれると、大変ですから」

井土はそう言って、カラカラと笑った。

「それに、休日なのに制服は、嫌でしょう?」

「それが本音か…」

副部長のむつみがそう言う。

「はい!まぁ、楽器の演奏に支障無いようにしてくださいねー」

井土が釘を打つと、「はーい」と生徒から返答が返ってきた。

すると、彼の声色がたちまち変わる。

「…最後に、合同演奏ですが、今年は冬馬中と茂華中学校そして茂華高校とすることになりました。因みに各学校は希望者のみです。まぁ、県内でもウチの吹部は人数が少ないですし…」

すると、心音が「冬馬高校は?」と訊いてくる。

「冬馬の高校さんは、今年は出られないそうです。代わりに茂華高校が来ます」

「へぇ。豪華ですね」

むつみがニンマリと笑う。彼女は他校の吹奏楽部にも興味を抱いている。

「まぁ、茂華高校は、人数50人近くいますから、来るのは希望者だけ…らしいですがねぇ」

井土が羨ましそうに言う。この高校は吹奏楽部員の人数が30人を超えたことが一度も無い。

「まぁ、それでも人数の壁はどうしょうも無いので、頑張りましょう!以上です!」

「はい!」

「それでは、練習してくださいねー」

そう言って、井土は休憩室へ戻って行った。


金色の少し小さなチューバは、管楽器室の奥に眠っていたものだ。大橋(おおはし)志靉(しあ)はチューバを構える。そして大きく息を吹き込む。すると楽器は、ぼーっと音を立てる。少し吹いた彼女は、チューバをそっと撫でる。

「いいですねぇ。やっぱり…」

志靉はチューバが大好きだ。それでもパーカッションと最後まで葛藤したのだが。

その真隣で、海鹿(うみしか)美羽愛(みはね)が銀色のユーフォニアムを構える。

「銀色のユーフォが1番好き」

そう言った彼女はチューニングをすると、基礎練習を始めた。

クラリネットを構えた諸越とほのかも練習を始めようとしていた。

「ほのか先輩、リードあります」

「あるよ。持ってないの?」

「持ってます」

そう言って、諸越はリードを口に含む。少し苦い。

茉莉沙はトロンボーンケースを手にすると、美鈴に話しかける。

「美鈴さん、外で吹いてきますね」

「あっ、私も良いですか?邪魔しません」

「ふふっ。嘘でも邪魔するって言ってくださいよ。良いですよ」

「やったぁ」

美鈴のトロンボーンは銀色だ。何故かこの高校には銀色のトロンボーンがあった。ふたりは外へ練習しに行った。

銀色のトランペットを構えた氷空の横で、國亥が金色のトランペットを構える。

「早速、すぅー…」

彼は音を奏でる。その音は音程が外れていたが。

「國亥君、ちょっと音が…」

「えっ?あっ?すみません!」

その様子を見て、諸越がクスクスと笑う。國亥と諸越は不仲だ。

「諸越君、どうしたの?」

ほのかが訊いてくる。

「えっ!?あ、いや、何でもないですよ」

「そうなの?」

「は、はい」

諸越は誤魔化すように、ロングトーンを吹き始めた。



そしてパーカッションパート。

ゆなはアップライトピアノに突っ伏して、眠りに落ちていた。

朽木糞牆(きゅうぼくふんしょう)。先輩、起こしますか?」

箏馬が訊ねると、優月は首を横に振る。

「起こさなくていいよ。下手したらぶっ飛ばされちゃう」

優月が苦笑混じりに言うと、

「殴ったら、退学…ですよね?」

と箏馬は低い声で尋ねてきた。

「たい…退学?わ、分からないよ。それよりもドラム練習するんでしょ?」

優月は誤魔化すように、箏馬の背中を押す。

「ええ。磨杵作針(ましょさくしん)。努力はいつか自らを救う」

当たり前のように言う彼に、優月はあることを訊ねる。

「その話し方、どこで習ったの?」

「駄目でしたか?」

「ううん。自分にとって、その話し方が良いなら、全然良いんだよ」

その時、スティックを握った箏馬の目元が凛となる。周りの空気が凍りついたような気がした。

「唯我独尊。それこそが俺の生き方です」

「そっかぁ」

「そして、輪廻の輪へ還るんを待ちます」

そう?と優月は少し納得したフリをした。

「じゃあ、練習しょっか」

「はい」

箏馬は小さく頷いた。


「ではまず、基礎のエイトビートから」

箏馬はそう言って、ドラムの椅子に座る。彼の頼りある背丈が羨ましい、と優月はつい思ってしまう。

「日進月歩。努力に基礎は欠かせない…」

独り言のように言って叩く彼を見て、優月は何故か寂しさを感じた。


そして各々の個人練習が始まった。

学校の中庭で、咲慧はアルトサックスを吹いていた。今は人気のないこの場所に、甘い音が漂う。

「よし。えっと次は…」

今、咲慧は基礎練習をしている。

ある程度、吹くと彼女は楽譜を捲る。

〔私は最強〕

そう書かれてある楽譜を見て、サックスを吹き始めた。


個人練習を数十分すれば、合奏だ。

「はい、今日が初合奏ですね。それでは、まずは私は最強いってみょー!」

そう言って、全員が楽器を構える。イントロが始まると、井土が箏馬に駆け寄り、指導が始まった。箏馬はタンブリンだ。優月はタンバリンを手慣れた手つきで演奏する。しゃかしゃかぱん!と心地よい音が響いた。

そして、この曲は各々、3年生にソロを仕込んでいる。だが、ソロの練習を初めて1カ月も経っていない。完璧に吹ける者は少なかった。


「はい!國亥君、少し音程がズレてるかな」

「は、はい」

國亥は必死の形相で、トランペットを吹く。

「…あっ、はい!それで結構です」

「ふー…」

井土の指導が終わった國亥は、小さくため息をついた。

(井土先生、案外優しいな…)

國亥はそう思いながら、指導をする彼を見つめた。

そして指導はまだまだ続いていた。

「チューバ、もう少し音を大きくても大丈夫ですよ」

「は、はい」

諸々の指導をした井土は、にこりと笑う。

「初見と初合奏にしては良い方ですよ」

彼に褒められ、部員たちは少し黙り込んでしまった。

「では、次の曲へとちゃちゃっと行っちゃおう!」

そして、次の曲に移った。



東藤高校が頑張る中、この高校も演奏会に向けて、頑張っていた。

「神崎さん、もう少し音を大きく、香坂さんは音程をしっかり読んでください」

夏の海に漂う波のような着色のされたドラムを、前にした女の子がそう指示する。

「朱雀先輩、こうですか?」

香坂白夜がフルートを吹く。その音は正確なほど響いた。上手いのは誰にだって分かるくらいに。

「香坂さんは魅力的ですね」

そう言ったのは、朱雀(すざく)美玖音(みくね)。元神平中学校でパーカッションを務めていた。演奏技術は県レベルで高く、どんな楽器も楽々に操れる。

「…さてもう一度、合わせますか」

そう言って彼女は、ドラムスティックを正眼に構える。刹那、曲が盛大に空き教室に響き渡った。



その時、ようやく東藤高校吹奏楽部は、合奏を終えたところだった。

「はい。今日はこれにて、終了です。皆さん、取り敢えず今日はよく休んで下さい。明日からも頑張りましょう」

『はい!』

この言葉をあとに、部活が終わった。



「夏矢君は神平中学校だったの?」

咲慧はアルトサックスを片付けながら、颯佚に訊ねる。

「そうだよ」

「へぇ。どうしてこの高校に?皆、神平高校とか御浦高校に行くだろうに…」

その言葉に颯佚は、首を横に振って否定する。

「いや、別に茂華にだって行く人はいるぞ。俺の同級生にも、な」

「へぇ…。どういう人?」

咲慧が訊ねると、颯佚はゆなの方を一瞥する。

「朱雀美玖音。あの人は何故か、茂華高校に行ったんだよなぁ」

「そうなんだ」

「ちなみに裏では、マッドプレイヤー、狂った奏者って言われてた」

「へぇ。カッコいい!」

目をキラキラと光らせる彼女に、颯佚は苦笑した。

「…裏で神様扱いされてるあの人、どうして茂華なんだろうって、ずっと気になってる…」

「略して裏紙(うらがみ)

そう言ってクスクス笑う心音に、颯佚は力なく笑った。

「もしかしたら、あの本番で会えるかもなぁ」

颯佚がひとりげに言うも、彼女の姿は無かった。



朱雀美玖音。彼女の恐ろしさは颯佚だけが知っている。そう、県内トップレベルの演奏者はまだまだいるのだ…。

ありがとうございました!

良ければ、

ポイント、ブックマーク、リアクション

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【次回】

茂華高校で合同練習!!



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