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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
77/208

7話 東藤高校 部活動見学 [最終日]

今回で、部活動見学編終了です!

ですが、何やら物語の裏で危ないナニカが蠢いているようです。

いよいよ、部活動見学日も最終日に突入した。

そしてこの日は、ミニコンサートの日だ。これを機に入部してくれる者がいるかもしれない、という理由で。


「はい、では開始は3時45分からです。それまでは練習するも良し、誰かを誘いに行くのも良しとします」

井土は職員室で対応に追われているらしく、副顧問の飯岡がこう言った。

「…はぁ」 

緊張する、その言葉を優月は舌の中で転がす。

新1年生の前で失敗は許されない。優月はパーカッションセットを前に呼吸を整えた。


すると廊下から、見知った男子たちが入ってきた。数分すると対応を終えた井土も入ってくる。

優月は暇だな、と視線を流していると、出口に数人の人を見つけた。

(しーちゃんと美羽愛さん?)

そこにいたのは、大橋志靉と海鹿美羽愛のふたりだった。

「…もしかして」

優月は、それだけ言って、出口へと駆け出す。

「!!」

すると美羽愛がびっくりしたように、瞳を丸くした。

「あ、あのー、もしかして体験に来てくれたの?」

この2人とは以前、話したことがある。美羽愛は「はい」と頷く。優月はにこりと笑い、

「今日はコンサートあるんだよね。どうぞ」

と彼女たちを教室へ入れる。

横2列に並ぶ椅子の、1番奥に2人は着席した。


そしてもう1人、男の子を連れて音楽室へ入ってきた。

「ほう。これは異な…」

「箏馬、ここではそんな喋り方するなよ」

そう言ったのは、國亥孔雅。そして長身の男の子、久遠箏馬だ。

「なんでだよ?」

すると、彼は冷静な表情を崩す。

「だって、なんか気持ち悪いんだもん」

國亥はそう言って、箏馬の肩を叩いた。

「…戯言(たわごと)を」

「またまたそんなこと言って…」

箏馬はそうぽつりと言ったが、國亥のペースに飲まれてしまう。なので箏馬は冷ややかな表情、そして冷えた石のような硬い声でこう言う。

唯我独尊(ゆいがどくそん)。それこそが俺の生き方だ。そして輪廻(りんね)()(かえ)るんを()つ…」

「…はぁ」

彼の言葉に國亥は大きくため息を吐いた。とても高校1年生とは思えない。

(まぁ、箏馬の過去を顧みれば、当然か…)

しかし、いつものことだと國亥は口説くのを諦めた。箏馬は親の愛を受けたことが無い。こうして、自らを救う仏教間の言葉と共に生きている。


その時、井土がギターを構えて、部員全体を見回す。

「さて、今からミニコンサートを始めまぁす!」

その時、ゆながシンバルを叩く。パシン!と金属音が弾ける。

優月は楽譜を凝視した。今、演奏している曲はYOASOBIのUNDEADだ。この曲は春休み中、皆が練習していたものだ。

ちなみにイントロが優月は大好きだ。


そして、次々の曲が流れていく。止まない手拍子の雨。

「さて、次の曲はMrs.GreenAppleの『点描の唄』です!手拍子をお願いします!」

鍵盤楽器が得意な心音がピアノを弾く。優しい旋律が音楽室内に、ゆらりと流れる。

そして初芽のフルートや颯佚のサックスが、美しいメロディーを奏でた。

優月はドラムスティックを構える。

『いつまでも♪いつまでも♪』

井土は歌いながら、ギターを弾いている。本当に器用な人だな、と優月は不意に思った。

そして、ついにドラムも加わる。

優月はスティックをシンバルへ振る。パシン!と音がした。だが、ゆなほど上手くは鳴らせない。

右手でハイハットを叩き、左手でスティックが淵を打つ。カン!と歯切れのよい音が響く。

緊張でやはり掌は汗に濡れる。

それでも最後まで叩き切った。

タンタ、タタタ!スネアの連打が終わると、心音のピアノの音だけが残る。やはりピアノはいいな、と誰もが思った。


その時、茉莉沙が前へ立つ。

「ありがとうございました。こんな形で色々な曲を吹きます。最初はどんな楽器でも構いません。是非入部を決めてくれたら嬉しいです。今日はありがとうございました」

茉莉沙はそう言って、小さく頭を下げた。彼女の美しい深紅の瞳が瞼に隠れる。

するとパチパチと拍手が鳴り響いた。


「やっぱ、俺、高校でも吹部やろっかな」

國亥がそう言うと、箏馬は「いいんじゃない」と返した。

「千篇一律。お前にぴったりだ」

箏馬が煽るように言う。すると國亥は「どういう意味だ?」と尋ねる。

「深い意味は無い。こうして代わり映え無く続けるのだろう」

最後のひと言は独り言かのようだった。

すると箏馬は席を立つ。そしてこう訊いた。

「國亥は楽器の体験はする?」

その声があまりにも普通だったから國亥は反射的に頷いた。


一方、優月は志靉と話していた。今からドラムの体験をすることになっている。

「…今日で体験は最終日だし、何しょう?」

優月が尋ねると、志靉は、

「曲を教えてください」

と言った。

「いいよ」

優月はそう言って楽譜を捲る。とは言え、任された曲は少なかった。


「おお、優月」

その時、飯岡がこちらへ歩み寄ってきた。

「あ、飯岡先生、こんにちは」

するとつられたように志靉も「こんにちは」と挨拶する。その2人の反応に飯岡は、お辞儀で返した。

「そっか。優月も先輩か…」

飯岡は感慨深そうに言う。

「…はい」

優月はそう返事することしかできなかった。すると飯岡は「頑張れよ」と言い去っていった。

彼を見送った優月は、再びドラムと向き合う。


「…じゃあ、点描の唄やろっか」

優月が言うと、志靉は「はい!」と頷いた。

「えっと…じゃあ、最初からやってみようか」

「はーい」

志靉は早速、優月のスティックを握る。持ち方や軸が安定している。流石だな、と思った。

すると彼女がスティックを振り下ろす。打たれたシンバルはパシン!と音を立てる。そしてスティックを垂直に振り下ろす。その先はスネアの打面。皮を大きく打つ。

「…あ、しーちゃん、ちょっとごめんね」

「へ?はい?」

多分こちらが謝ることではない。がつい謝ってしまった。

「あの…ここはね、スネアの淵に当てるんだよ」

「あっ…」

すると彼女は思い出したのか、ばつが悪そうに笑い出した。その声があまりにも可愛らしいものだから、優月はつい気が抜けてしまった。

「…そうでしたねぇ。ごめんなさぁい」

と言うと、再び彼女はドラムを演奏し始めた。

その刹那…。

『あの…すみません』

優月の耳の中へ、流水のように声が流れ込んでくる。

「わっ!そ、箏馬君!びっくりした」

優月は、目の前の長身に驚いてしまった。久遠箏馬は「すみません」と一礼すると、用件を述べる。

「あの…楽器の使い方が分からなくて…」

「ああ!分かった。少し待っててね」

「すみません」

優月から離れた箏馬は、再びパーカッションセットの方へと戻って行った。すると志靉が「あのー」と話しかける。だが優月は、

「…ちょっとエイトビートとかやっててね」

とだけ残して、箏馬のあとを追うように歩いていってしまった。


1人残った志靉は、小さくため息をつく。

(パーカッションとチューバ兼任できるか聞こうと思ったんだけど…)

しかし、仕方がない。志靉は黙って、基礎であるエイトビートを刻み始めた。


優月は、箏馬のいるパーカッションセットに到着するなり、

「どうしたの?」

と聞いてくる。

「…その、この目の前にある楽器はどう使えばいいかと…」

と言う箏馬の声は、少年らしいものになっていた。優月はスッと肩を落とし、スティックを握る。

「えっと何からやってみたい?」

「あ、じゃあ、この太鼓みたいなのを…」

「それは、ボンゴだね」

優月が言うと、小物台にスティックを置く。

「これはね、手で基本叩くんだよ」

と言って、彼は基礎の連打を繰り返した。繰り出される繊細な音に、箏馬の眉間が僅かに上がる。

(ほう…。面白い)

箏馬は心の底から興味を持ったようだ。

「手で叩くって言っても、指先だけを当てる感じだよ。皮が手の平全体と密着しないようにね」

「はい」

箏馬が素直に返事をすると、優月はクスリと笑った。いい子だな、と思う。

「やってみて。今はできなくても毎日やればできるようになるよ」

優月が笑う。すると、その笑顔に感化された箏馬がこくりと頷いた。

「日進月歩。やってみます」

そう言って叩くが、上手く音が進まない。左手の太鼓から右の太鼓を打つ際に、もつれてしまうのだ。

「難しい?」

優月が尋ねると、箏馬が「いえ…」と言う。そして数分ほど見守っていると、ようやくスムーズに叩けるようになっていた。

「うんうん!上手いよ」

優月がそう言って、ぱちぱちと拍手をする。

「それは…ありがとう…ございます」

その時、彼は初めて赤面した。人に褒められたことが無い彼は、少し嬉しかった。

「じゃあ、次はシンバル系やってみるか!」

優月がにこりと笑い、スティックを手にする。

「まずね、シンバルはそれぞれ役割があるの」

優月はそう言って、右側にある大きなシンバルを叩く。するとカァン!と豪奢な音が響いた。

「これは、チャイナシンバルって言って、曲が盛り上がるときに使うの」

「華やかなる音。良いですね」

「でしょう?」

そして、今度は少し小さいシンバルを叩く。ポシン!とくぐもったような音が放たれる。

「これがスプラッシュシンバル。他にもあるけど、吹奏楽部に入ったら使うから覚えておいてね」

「一諾千金。価値ある教養ありがとうございます」

そう言って箏馬は大きく頷いた。

「というかその話し方、すごく独特だね」

優月が言うと、箏馬が「ですよね」と眉をひそめた。

「実は、俺、片親なんです」

「か、片親?そうなんだ」

優月は心臓がキシリとなる。なんでかは分からない。

「その親が心底酷くてですね…」


その時だった。

「…先輩」

そう言って、美羽愛が手を振ってきた。その横には志靉がいた。

「はぁい」

優月は去り際、「ちょっとごめんね」と言って、彼女たちの方へ戻って行った。

その様子を見て、箏馬は小さく肩を竦める。

「…取り敢えず、続けるか」

箏馬はそう言ってボンゴを、指先で打つ。

「百折不撓。それが自らに涅槃をもたらす…」

彼は集中するように、練習し始めた。まるで自らの煩悩の火を消すように。


一方、優月は志靉の元へ戻った。

「どうしたの?」

優月が尋ねると、志靉はニコリと笑う。

「あの…私、吹奏楽部に入部したいです。でも相談がありまして…」

「ん?何か?」

すると志靉は目を細める。

「あの…チューバとパーカッション、選べるのは1つだけですか?」

「うーん。例外はあるけど…」

その時、茉莉沙のことを思い出す。明作茉莉沙は元々プロレベルのパーカッション奏者で、丁度抜けたパーカッションの田中美心の代わりに、打楽器も請け負ったことがあった。

「基本は無いかな」

「…分かりました」

すると、志靉は決意を宿した瞳を彼に突きつける。

「じゃあ私、チューバやります!今までパールちゃん貸してくれてありがとうございました」

そう言うと優月はそっか、と言う。

低音は貴重だ。それもいいだろう。



ー部活終わりの音楽室ー

優月はそのことを、部活終わりに咲慧に話した。

「結局、打楽器は久遠君だけが入ったんだ」

「うん。まぁ今年の新入部員は7人。多い方だね」

すると咲慧は首を傾げる。

「えっ?7人で?」

「いや、凛良と比べないでね。あそこ100人単位でしょ?」

「うん」

凛良高校は生徒数が500人以上いる。吹奏楽部も人気なので相当数いる。

「でも、久遠君、扱いが大変ってゆなっ子から聞いたよ」

優月はゆなの方を見る。

「むっつん!あのゲーム、新しくコラボするらしいよ!」

「えっ?またゲームやってたの?」

「えへへ…」

どうやら、ゆなはむつみと話していた。


優月は慎重そうに、

「そっか…」

と言う。ゆなは信用に値しないが、少し心配になった。この胸騒ぎ、本当にならなければいいが。優月はそう心の底から願った…。







その頃、久遠家。

古びた日本庭園のある家から、トントンとくぐもった音が聞こえてきた。

「…銀之進、今日もあの高校生に虐められたのか?」

箏馬が言うと、銀之進という弟が頷いた。

「だから冬馬高校には近づくな…いや、もういい…」

箏馬は、淡々と人参を切っていた。ストンストンと刃が野菜を切っていく。綺麗な断面をいちょう切りにする。そして怒りに塗れた声でこう言った。

「…そいつらは俺が…」

「えっ!?駄目だよ!お兄ちゃん、吹奏楽部に入ったんでしょ?今、人を殴っちゃったらまずいよ!」

「……ううっ!」

その時、人参の断面が荒々しく現れる。

「分かった。逃げるか、耐えてくれ」

その時、彼が眼前の壁を睨んだ。

「隠忍自重…」

そして怒りを抑え込むように、何度もその言葉を自分に言い聞かせる。

「銀之進、一切皆苦。少し待ってろ…」

その時、彼の胸中にあったのは、肉親である弟を傷つけられた悔しさ。そしてそれに対する者への怒りだった。


これをキッカケに、箏馬は地獄を見ることになる…。

ありがとうございました!

良ければ、

リアクション、ブックマーク、感想、ポイント

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【次回】

東藤…金を狙う。

部員の意外なハナシ



[今後の予定]


6月19日 [木]東藤。市営で金を狙う…!

       地獄のはじまり


6月20日 [金]茂華高校が動き出す。

       朱雀(すざく)美玖音(みくね)現る!!


6月21日 [土] 東藤&茂華&冬馬の合同練習

        一同に集結!!

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