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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
76/208

6話 東藤高校 部活動見学 [4日目]

今回で4日目です!明日で終わりです!

2年3組教室。

「おはよー」

優月は誰かに言うわけでもなく、ただ挨拶をして教室に入る。その時、誰かが手を振ってきた。

「優月くん、おはよう」

「あ、咲慧ちゃん、おはよう!」

優月に手を振った人物は、加藤咲慧。昨日、入部届けを出したアルトサックスパートの女の子だ。

「…んっ?何書いてるの?」

その時、彼女が小さなノートに何かを書いていることに気がついた。

「ああ、小説だよ」

咲慧はそう言ってにこりと笑った。

「えっ?小説?それは凄いね」

「でしょ?」

優月が頷くと、咲慧は満足げに笑った。

加藤咲慧。面白い人だな、と思った。



そして、今日も勧誘だ。

「…今日は誰も来ないね」

優月が言うと、ゆなは「飽きたー」とスマホを片手にゲームを始める。

鳳月ゆな。彼女は中学時代、和太鼓部に所属し、ドラムを習っていたという異色の経歴を持つ女の子だが、性格に難ありで面倒くさがり屋だ。そんな彼女は無類のゲーム好きで、個人練習中でも遊んでいる。だが、技術は部内でも折り紙つきだ。

皮肉なことにも、実力面なら皆から頼られるくらいだ。


「もう飽きたぁ。久遠の相手」

「久遠?誰?」

優月は初めて聞く名前に、首をかしげる。

「久遠箏馬!ホラ昨日来てたでしょ?」

「ああ、四字熟語使ってた人かぁ」

優月は昨日のことを思い出す。長身で美顔の男子。確かにいた。

「あの子、打楽器入るの?」

「らしー。まぁ、すぐやめるだろ」

ゆなは彼のことを知ってのことなのか、それとも予想なのか、そんなことを言った。

「それは困るよ」

そんな彼女に優月は顔をしかめてそう言った。


その時、噂をすれば何とやら。箏馬が現れた。

「おい、まさか國亥はいないよな?」

「いないと言っている」

そしてもう1人。見覚えのない顔がひとつ。

「こんにちは。失礼しまーす!」

すると部長である茉莉沙が歩み寄る。

「あの、お名前は何ですか?」

彼女が訊ねると、その男の子は、

「諸越冬一です。よろしくお願いします」

「はい。ありがとうございます」

茉莉沙はそう言って、名簿を閉じた。

「あの、クラリネットやりたいです。っていうか、少しだけ吹いていました」

すると、心音が誰かへ振り返る。

「だって!ほのかちゃん」

降谷ほのか。彼女はクラリネットの初心者だが、実力は中の下辺りだ。

「諸越君、よろしくね」

ほのかはクラリネットを手にそう言って笑った。端麗な瞳がより目立つ。

「よろしくお願いします」

諸越はやたら丁寧に頭を下げた。


体験が始まると、やはり体験者は来るものだ。

「美鈴さん、何か吹ける曲とかありますか?」

「えッ?中学校では、色は匂えど散りぬるをって曲やってました」

「えっ?聞いたこと無い…」

茉莉沙はそう言って、少し考え込む。すると美鈴は体験用のトロンボーンを構える。

そして、音を吹き鳴らす。その音はどこか元気をもらえる。何かに勇敢に立ち向かうかのような勇ましいメロディー。その中にどこか優しさが秘められている。

「…ああ、この曲」

茉莉沙は、音楽アプリで音を出す。

『色は匂えど♪いつか散りぬるを♪』

(なんか、聴いたことある)

茉莉沙はその曲が気に入ったのか、プレイリストに追加することにした。

あとで井土に注文しょう、そう思いながら。


そして、諸越はクラリネットが上手かった。

「百花繚乱?すごぉ」

彼の吹いている曲は有名な曲だ。そんな曲を彼は上手く吹きこなす。

「…この曲、大好きで中学の文化祭でやったんですよ」

「へぇ。吹奏楽部だったん?」

ほのかが聞くと、諸越は頷いた。

「はい。まぁ、それほど強い所では無かったですが」

諸越が言うと、ほのかはクラリネットを構える。

「ここね、すごいポップス多いの。だから入ったら絶対に楽しめると思うよ」

「降谷先輩がそこまで言うなら…」

諸越はふふっと笑った。


その頃、咲慧は颯佚とサックスを吹いていた。

「百花繚乱だってさ」

「私も吹けるよ」

と言って、咲慧は淡々とサックスを吹く。

すると、皆が知る音が空気を震わせる。

「どーれ」

颯佚もサックスを吹く。同じ音が出る。だがここで経験の差が出る。やはり、颯佚の方が上手かった。

「…上手いね。優秀な奏者だ」

咲慧はそう言って、サックスを撫でる。だが颯佚は首を横に振る。

「…そんなこと無いよ。演奏だけが奏者の価値じゃないから」

「そぉ?」

咲慧は少し疑問そうに首を傾げた。

「てか、吹部だったのか?加藤さんは?」

「うん。凛西良新高校で1年ね。元々サックスは小さいころから趣味で吹いてた」

「だからか。でも音程は甘いな。あとで教えよっか?」

「…あとでね」

それだけ言って、咲慧はサックスを吹き始めた。


そして、打楽器パートの優月は、今日は箏馬の相手をしていた。

「えっと、箏馬君!ドラムやりたいんだっけ?」

ゆなは、勧誘に行くと出ていった。

押し付けたなあの人は…、と優月は出そうなため息を、吸い込み彼に話しかける。

「はい…。よろしくお願いします」

箏馬の声は地を這うように低い。その理由はきっと警戒しているからだろう。

「…じゃあ、エイトビートからやっていこうか」

エイトビートはドラムの奏法の基本だ。優月が言うと、箏馬はスティックを握る。そして、小さく息を吸い込む。


「一意専心…」

彼はそれだけ言って、スティックを大きく振り下ろす。シンバルにスティックの腹が食い込む。

そしてハイハットが大きく揺れる。彼の細い脚が隆起する。その度にバスドラからはドン!と音が鳴る。

「お…おお…」

優月は少し驚愕した。良く言えば豪快、悪く言えば爆音。彼の叩くドラムは、ゆなとは違う意味で暴走していた。その上、途中で途切れたりズレたりと初心者マークを見るより明らかだ。

(…なんで、鳳月さんは丁寧に教えないんだ)

そこで入部初日のことを思い出す。あの時、ゆなはドラムを教えてくれた。教え方は丁寧だったが、すぐに放任された。

「どうですかね?」

箏馬が自嘲するようにこちらを見てくる。

「えっとね…、基礎リズムが出来てるのはすごいよ。でもね…」

優月は自分のスティックを手にする。

「少し良いかな?」

「はい」

優月はドラムを前にスティックを構える。

このドラムは最早ゆな専用だ。卒業式以降、このドラムは使っていない。

小さく呼吸をする。しかし呼吸音は全く聴こえない。

彼はスティックを振り下ろす。シンバルが一瞬のうちに震える。パシン!と金属が震える音。

優月は、踏むようにペダルを蹴る。椅子が高いから足が届かない。

ハイハットは粒のように鳴り、スネアはパン!と正確にハイハットのリズムに食い込む。

「いち、に、さん、し、ご、ろく…」

リズムを刻みながら、優月がカウントをする。

「ほう…、泰然自若…」

箏馬は感心する。彼は気づいている。

優月は、分かりやすいようにカウントしている。この後何を言われるか、それはすぐに分かった。タムを叩きシンバルで締めくくると、晴れ晴れとした顔で優月は、

「こんな感じで、正確さと落ち着きが無いと、駄目なんだよ」

と言った。

「はい!才徳兼備。先輩はすごいですね」

「え、そ、そう?ありがとぉ」

優月は照れる少女のように笑った。

「てか、才徳兼備は言い過ぎだよ!才覚なんて無いよ」

「…そうですか?」

「1年間、ドラムをずっと個人練習してたからかな」

優月が言うと、箏馬は「ほう」と頷く。

「まぁ、頑張ろう!」

「尽善尽美。頑張ります」

そう言って箏馬は、再びエイトビートを刻み続けた。

しかし、彼が爆弾男だということを、優月は後に知ってしまう。



部活動が終わると、優月は少しの時間、ドラムを練習していた。

スネアの連打が完璧と判断したことで、個人練習は終わった。次の便までは20分。まだまだ時間があるが、まぁいいだろう。優月はそう思いながら、帰ることにした。


やはり想大がいないと寂しいな、優月はつくづくそう思う。だが、そう思う度、想大の最後の言葉が脳裏に蘇る。

『優月君は辞めないでね』

そう言っていた。その時決めた。誰かを追うのでは無く、自分の未来を追う人間になると。

そう思っていると、誰かが話しかけてきた。

「優月くん」

優月は声だけで誰か分かった。

「どうしたの?咲慧ちゃん」

長い髪を垂らした少女、加藤咲慧だった。彼女と優月は並んで帰ることにした。

「優月くんは家、そっちなの?」

「ああ、家はね茂華町にあるの」

「え?キミ、ここら辺じゃないんだ?」

「そうだよ。東藤駅まで行くの」

すると了承したかのように、咲慧は頷いた。

「ねぇ、1個聞きたいことがあるの」

咲慧はあることを優月に訊く。

「あの…春isポップン祭りって何?」

「えっ?春isポップン祭り?ああ、道の駅色桜でコンサートをやるの。色んな学校と合同演奏とか…」

「ああ…。凛良でも合同演奏やったよ。確か、クリスマスコンサート!」

「あ、うん」

優月はそれ以上、何も言えなくなった。定期演奏会の準備で参加できなかったとは言えまい。

「それで、どこと合同演奏するの?」

「うーん、去年は茂華中学校と冬馬高校だったね。あ、茂華中学校は僕の母校だよ」

「へぇ。意外だなぁ」

ふたりはその後も、色々な事を話していた。そんな中で、とある話題が出た。

「そういえば、あの久遠君とはどう?」

「ああ、箏馬君!すごく入部する気満々だった」

「…あの子、天龍にいたらしいよ」

「へぇ。天龍ねぇ」

天龍は東藤町内にある大規模な和太鼓クラブだ。向太郎や瑠璃が元々いたクラブだ。

「…天龍かぁ。そういえば、咲慧ちゃんも和太鼓部だったんでしょ?」

「そうだよ。今でも叩ける」

自信満々に言う彼女がどこか眩しい。

「どうして始めたの?」

「えっ?…忘れちゃった」

しかし、咲慧は優月の質問をひらりと躱す。しかし、優月は気付いてしまった。

恐らく聞いたらマズイ。

「…そっか。そういえば、鳳月さんのあの性格は前からなの?」

優月は話しを変えるように、ゆなのことを訊ねる。

「えっ?まだあの子の過去聞いてないの?」

しかし、咲慧はあっけらかんと疑問を疑問で返した。

「ごめん。鳳月さんの話しなんて聞いてない…」

「結構、話し長くなるよ」

「そんなに?」

「うん。あと結構、『あの人たち』のことを悪く言っちゃうかもしれない」

「えっ?あの人たち?」

「まぁ!きっといつか話してくれるよ!」

「咲慧ちゃんは知ってるの?」

「うーん、先っちょだけ。ソフトクリームの1番美味しい部分を舐めたくらい」

「それ、出だしだけじゃないの」

すると咲慧はふふふふ…と笑う。

「そうだね」

しかし、そこでふたりは別れることになった。

「またね!」

優月が手を振ると、咲慧は満面の笑みで、

「バイバイ!」

と返し、帰路へついて行った。


(…鳳月さんの過去ねぇ)

ゆなの過去。少し気になる。

だが、彼女の過去は思ったよりも複雑そうだ。


      〈最終日に続く〉

ありがとうございました!

良ければ

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【次回】

いよいよ最終日!新入部員は何人入った?

裏で蠢く箏馬のカゲ…。悲劇の始まり

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