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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
75/208

5話 東藤高校 部活動見学 [3日目]

部活動見学3日目です!5日まであります!

『…ゆなっ子、和太鼓部って入部してもいいの?』

冬馬中学校。ある女の子がゆなに話しかける。

『えっ?まぁ、私の負担が減るなら良いや』

ゆなは悪びれもせずにこう言った。

『本当?私入る部活がないの』

『へぇ。別に良いけど』

『やったぁ』

するとゆなが口角を上げ彼女を歓迎した。

『よろしくねぇ。咲慧』

その後だ。ゆなの設立した和太鼓部に部員が入ったのは。




ー部活動見学3日目ー

風に揺られ桜が散る。白い小麦粉のような雲は太陽を優しく覆っていた。

「…はぁ」

ため息をつく優月に、ゆなが歩み寄る。

「何緊張してるの?昨日、タンバリンで後輩にカッコつけてたくせに」

「ひどい…」

ゆなは何事にも正直だ。だから、こんなひどいことでもサラッと言えてしまう。

グサリとその言葉は優月の胸に深く突き立てられる。ああ、これからもこんなことを言われ続けるのか、と思うと死にたくなるほど嫌になる。

「鳳月さんこそ、昨日、後輩来たんでしょ?」

「ああ。アイツか。私と同じ中学校だったな」

「えっ?じゃあ、冬馬?」

「そうだよ。まぁ私が3年の時、来たんだけど」

ゆなはそれだけ言ってスマホを手に取る。

そしてアプリゲームを起動した。全く、いつものことなので優月は放置することにした。


それにしても小林想大。彼が退部してからは、何かつまらないな、と思う。

自分を見守る為にわざわざ入部した。本意がそれだと知ると、想大の優しさに感奮する優月だった。


その時だった。

「こんにちは」

音も無く、誰かが入ってくる。

「あ?」

優月は振り返り、その誰かを見る。

そこにいたのは、黒髪に青みが混じった美少年だった。身長も160超えとゆなと同じくらいの身長。そして瞳は青みを纏っていた。

「三拝九拝と失礼します」

彼はそう言って頭を下げる。

「堅苦しいなぁ」

優月が、彼を苦しそうに見つめる。何だかこちらまで緊張してしまう。

「長幼之序を守ったまでです」

「あ、あははは」

優月は苦笑するしか無かった。全くどういう人間だ。

「鳳月先輩、今日もドラムをやりたいのですが…」

「ああ。オッケー!」

ゆなはそう言って、箏馬を手招きした。

優月はもうひとつのドラムセットから、毛布を剥ぐと、スティックを手にする。


そうして演奏しょうかと考えていると、また誰かが音楽室に入ってきた。その人物にゆなの瞳が大きく開く。

「は?…咲慧?」

「ゆ、ゆなっ子。ひ、久しぶりだねー」

咲慧は気まずそうに手を振る。

「何であなたがこんな所に?」

「転入してきたの…。私立はやっぱり遠いし」

ゆなの問いに咲慧は苦笑混じりに答えた。

「あぁ…。そりゃそーだな」

優月も会話に入ることは無かったが、そう口に出してしまった。ちなみに、彼女が転入してきた理由は優月も知らない。

「だから、あれほど止めたのにー」

ゆなが大げさそうに言うも、

「云うても1回だけでしょ?」

と咲慧にはあしらわれてしまった。

「あの…」

優月が咲慧に話しかける。

「結局は、入部するの?」

それを聞いた途端、反応したのは咲慧ではなく、ゆなだった。

「えぇ!?入部?」

「う、うん…」

咲慧が頷くと、ゆなはあくどい笑みを浮かべた。

「まぁ、菅菜が抜けちゃったし、丁度いいや」

ゆなは、友達を見つけたと思わんばかりに、咲慧を見つめた。

「えっ?齋藤先輩、抜けちゃったの?」

すると咲慧が訊ねる。

「そーだよ」


《今度は客として応援するから》

去年度、最後の部活で齋藤菅菜に言われた言葉が、今になっても蘇る。


「そっか」

咲慧はどこか残念そうだった。しかし、ゆなは素知らぬ顔でスマホを片手に、指を慌ただしく動かし始めた。



その時だった。

「こ、こんにちはぁ」

「こんにちはぁ」

ふたりの少女が入ってきた。海鹿(うみしか)美羽愛(みはね)大橋(おおはし)志靉(しあ)だ。美羽愛はユーフォニアム経験者で、志靉はチューバとパーカッション経験者だ。ふたりは小学校からの仲らしい。


「あっ!しーちゃん、こんにちは」

優月は待ち合わせたかのように、彼女に歩み寄る。すると志靉はにこりと笑い、

「こんにちはぁ」

と言った。

「…じゃあ、ドラムやる?」

昨日の約束通りに優月が誘うと、志靉は大きく頷いた。


そして、個人練習用のドラムに優月は、志靉を案内する。

「そういえば先輩、このドラム、何て名前ですか?」

すると志靉が突然、そんなことを訊いてくる。

「え…ええ…?名前?」

「えっ?楽器に名前を付けないんですか?」

「しーちゃんは付けてるの?」

「はい!私の中学校のドラムはアビスって付けてました!因みに私が使うチューバにはマーメイドって呼んでました!」

ドラムにアビス、チューバにマーメイド。まず茂華中学校では、楽器に名前を付けることすらないだろう。

「名前、何にするんです?」

そんな事を思っていたら、彼女が優月に詰め寄る。


「あらあら…」

咲慧が心配そうに、優月に歩み寄ろうとした。だが、ゆなの手に止められてしまった。


「え…えっと…」

その時、バスドラムの打面に書いてあったロゴを思い出す。

「パ、パールちゃん…とか?」

優月は、恥ずかしくて仕方が無かった。すると、志靉は目を煌めかせる。

「へぇ!女の子なんですね!」

「え、ええ!」

優月は井土を真似るように頷いた。

「命名、パールちゃんですね」

そう言って喜ぶ志靉を見て、優月は少し気が抜けた。変わった子だな、と思いながら。


その時、井土が休憩室からのドアを開けてきた。

「あら!今日は乙女が多いわねぇ」

「また口調どうにかなってるぞ!」

井土とゆなのやり取りに、その場にいた優月たちはクスクスと笑う。

「ああ、それで、加藤さんは入部届け持ってきましたか?」

「はい。持ってきました」

咲慧はどうやら吹奏楽部に入部するようだ。まさか自身のクラスメートが最初に入部するとは。


すると、箏馬がゆなに話しかける。

「先輩、打楽器パートはいっぱいですか?」

「えっ?まだだよ」

ゆなが答えると、箏馬は少し考えるように、黙り込んだ。


しばらくすると、体験3日目が始まった。

ゆなは箏馬に基礎リズムを教えていた。

「ハイハット8回叩くのに入れるバスドラは2回だよ」

「はい。右にやっつ、下にふたつ…」

彼は特殊な言い回しで、ドラムのエイトビートを覚えていく。


そして優月も志靉にドラムを体験させていた。

「いつまでも♪いつまでも♪」

優月は歌いながら、ドラムのリズムを刻む。

タタドン!

スネアドラムとロータムの音がひとまとまりとなって響く。

「やってみて」

「はい」

志靉はそう言って、優月からドラムスティックを受け取る。優月のスティックは、最近変えたばかりで、ローズウッドを使った物だ。井土曰く、高級品みたいだが、ゴールデンウィークまでは持たせるしか無い。

「…よいしょ」

志靉は小声でリズムを取りながら音を鳴らす。なんだか可愛らしい。


「…うー、できましたぁ!」

すると優月はニコニコと笑う。

「そうだね。上手いね」

優月が褒めると「ありがとうございます!」と志靉はお辞儀をした。

そうしていると、再び井土がこちらへ話しかけてくる。

「ゆゆのドラムソロ見たい?」

そして開口一番言ったのはコレだった。

「えっ?ソロ…?僕…」

優月は突然の無茶振りにたじろぐ。ただでさえ、本格的に始めてからまだ1カ月なのに…。

「パーカスに1人、後輩が入るかもしれないよ」

「へへ、入るかもしれません」

井土のみならず、志靉までも退路を潰してきたので、こうなればもうやるしか無い。

優月は志靉にドラムの前の椅子に座らされる。

「…すーっ」

優月が叩こうとスティックを握る。すると井土は何かを取りに、休憩室へ戻って行った。


刹那、彼の手首からスティックが振り下ろされる。鳴ったのはサスペンドシンバルだった。

パシィンと鋭い音が空気を裂く。

(まぁ、あれやるか)

優月は平然と、高速のシャッフル演奏を繰り出す。タン!タンタン!タッタン!とスネアの皮が打たれる度、鋭い音が響く。

この奏法は入部した時から、真似してすぐにできた。ハイハットシンバルも思い切り打つ。

そして、その合間にもシンバルを数発ほど入れる。

(…やっ!)

心の中で合図すると、スティックは横に移動。3つのタムを打つ。

ドコドガドゴ!ドコドガドゴ!

とタムの音が響く。アクセントが強いこの奏法が優月は大好きだ。完全にマスターしているわけでは無いが。


(すごーいっ!)

ただゆなや茉莉沙の真似をしているつもりの優月に、志靉は尊敬の視線を向ける。そして、いつの間にか井土は志靉の後ろに立って、優月を見守っていた。


そんな事も知らずに必死な優月は、ハイハットのオープンクローズをやる。

ツツゥーツツゥー…と跳ねる2枚の円盤。そこへスティックの先端を打つ。

スネアの音は空気を切り裂き、タムは鳴り響く度に震え、シンバルは雷霆のごとく鳴り響く。

スネアを連打し、優月はサスペンドシンバルを打つ。そうして独奏を終えた。


すると志靉が優月に詰め寄る。

「先輩、めっちゃ才能ありますね!」

「えっ…ええっ?」

優月は必死に叩いていたので何が何なのか、全く覚えていない。すると、美羽愛が優月に駆け寄ってきた。

「…確かにですよ!」

「えっ…?あ、うるさかったならごめんね…」

優月が謝るも、美羽愛は笑って否定する。

「いえ。後ろのドラムの方がうるさいので」

「パールちゃん、ちっちゃいから音は気にならないよ」

2人がそう言って、初めて、後ろのドラムに音が鳴っていることに気づいた。


(なるほどね…。才覚はあるみたいだ)

その様子を見て、井土は満足げに笑った。

(けど…課題はまだまだだね)


「優月先輩、めっちゃ上手いですよ!」

「え…ええ…」

「あのハイハットがツゥーってなる所!」

優月は意味がよく分からなかったが、志靉と美羽愛が喜んでいるのなら、それでいいだろう。


そうしていると、体験時間が終了した。

「あぁ~、疲れたぁ」

優月がそう言うと、井土は、

「あの1年生、入りそう?」

と訊いてきた。

「…うーん。もしかしたらチューバに入るかもしれないですね。チューバが大好きって言ってたので」

それを聞いた井土は「そうですか」と何度も頷いた。

今年は沢山、新入部員が入りそうだ。

優月はそう思うと、自然と笑みが溢れた。


だがそんな優月に、高い壁が待ち構えていることは、この時の彼は思いも寄っていなかった…。


       〈4日目に続く〉

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】

久遠箏馬。優月と邂逅!!

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