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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
74/208

4話 東藤高校 部活動見学 [2日目]

部活動見学2日目です。

いよいよパーカッションパートにも希望者が来たようです…!

部活動見学2日目になると、1年生の動きも活発になってきた。

「おい!久遠!来たぞー!」

「最早、ここは戦場なり…」

そう言って、長身の男の子は思い切りジャンプし、ラケットを大きく振る。

パン!とシャトルが唸りを上げ、コートのネットを通過し墜落する。

「いてっ!」

しかし、威力が強すぎたのか、それは上級生の顔を叩いてしまうことになった。

「イテテテ…」

額を押さえる先輩に、ふたりの男子が駆け寄る。

「あ、あの!すみません!ほら、久遠!」

まるで子供に反省を促す親のように、男の子が背中を叩く。すると久遠と呼ばれた男の子が、

「すみません」

と硬い声で頭を下げた。


「諸行無常。これもまた無常」

制服に着替えようと、彼らが歩こうとした時、久遠と呼ばれる男の子が、そう言った。


「はぁ…。シャトル割れてる…」


すると男の子が、

「やっぱり、お前にバドは無理だよ」

と苦笑交じりに言った。すると、それが頭にきたのか、彼は、

「悪かったなー…」

と言う。

「んじゃあー、次は吹奏楽部に行くぞ」

「はぁ?國亥、本気か?」

「本気本気本麒麟」

「…これもまた無常」

ふたりの名前は、久遠箏馬と國亥孔雅。このふたりも、また物語に波乱を起こす一欠片となる。



その頃、音楽室。

「先輩、トランペット吹きたいです」

「あ、いいよー」

「フルート吹いてみたいです!」

「いいよ」

「これで吹いてみてー」

やはり、管楽器がてんてこ舞いだった。パーカッションパートの優月とゆなは、暇そうにその様子を見つめる。

「鳳月ってさ、ドラム以外にできる楽器あるの?」

「んなもん…いや、バイオリン弾けるや」

「えっ?バイオリン!?」

暇つぶしの会話のつもりだったが、気になった。

「そ。家にあるから暇な時に弾いてた。まぁ、それでも和太鼓とドラムには敵わないけど」

「ハハハ。ていうか、鳳月さんのいた和太鼓部の同級生ってどこの学校行ったの?」

優月はその同級生、加藤紗慧に会っている。彼女が転校してきたことを、ゆなは知っているのか?

「はぁ。んー、凛西良新高校だけど。今もそこにいるんじゃない?」

どうやら知らないようだ、そう思ったその時。


「あのー…こんにちは」

ふたりの女の子が、音楽室に入ってきた。

「…あ?誰か来た」

「そう言わず、出迎えればいいのに…」

優月はそう言いつつ、1年生の方へと歩き出した。


「あの…どうかしたのかな?」

優月が、ふたりの女の子に近寄る。すると、その女の子のひとりが、

「私、海鹿(うみしか)美羽愛(みはね)って言います。ユーフォ希望で来ました」

と言う。

「おぉ…。楽器決めてるんだ」

「は、はい」

すると、もう1人の女の子が、もじもじとこちらを見る。

「えっと、君は何の楽器やりたい?」

「だ、打楽器やりたいです」

「あ、僕と一緒だ。お名前は?」

大橋(おおはし)志靉(しあ)です」

「えっと、何て呼べばいいかな?」

思春期の女の子は、「ちゃん付け」を嫌うらしい。多分、ちゃん付けが許されるのは優愛だけだ。

「し、しーちゃんで…」

「了解」

優月はそう言って、志靉を打楽器の群れへ連れ出した。


「えっと、打楽器の経験はある?」

優月は、パーカッションセットの前に立ち、彼女に訊ねる。

「はい。チューバとパーカッションやってました」

「おぉ…。ふたつも?」

「はい。私のいた中学校は、人数少なかったので」

「そうなんだ」

すると志靉がわざとらしくため息をつく。

「いやぁ、誰もチューバやりたがらないんですよー。いい楽器なのに」

「そ、そだね」

優月は打楽器一筋で、チューバには全然詳しくない。だが、志靉のきらきらと光る目を見せられると、満更でもなくなる。

「…だから、私、高校ではチューバやろうと思うんですよ」

「へぇ。いいじゃない」

優月がニコリと笑うと、志靉は「でも」と言う。

「…打楽器もやりたくて!どっちにしょうか?」

「まぁ、やりたい方にしたら良いよ。でもこの学校、打楽器はすごく活躍するよ。色んな楽器もできるし、いい経験になると思うよ」

優月は、迷う彼女に、ありのままの言葉を伝える。

「先輩、中学校でも打楽器やってたんですか?」

「ううん。僕の中学校は、茂華中学校って言って、凄く強いみたいなんだけど、そこにいる打楽器の子に憧れちゃって始めたの」

すると、志靉は何か察したのか、両手で口を押さえる。

「罪ですねぇ!その子!」

何だか興奮しているようだ。



その頃。

私立凛西良新高等学校。ここは県内でも生徒数が多いと有名だ。

そこに通う榊澤優愛は友達と話していた。

「えっ?中学校のぶか…ハックシュン!!」

彼女がくしゃみをすると、友達は心配そうに、

「えっ?大丈夫?」

と訊いてくる。



そんな噂の弊害も知らずに、優月と志靉はそのまま会話を続けた。

「…それで、中学校では何の楽器をやってたの?」

「えっと…、タンバリンとかの小物楽器です。ほら、皮が張られているやつです」

ああ、それか、と優月は言いながら、楽器庫に1人入っていく。

間もなく、彼は皮の張られたタンバリンを持ってきた。

「…これのことかな?」

「はい!」

「これね、タンブリンっていうらしいよ」

「えぇ!初耳!!」

志靉は本当に知らなかったようだ。少し可愛いな、と思いつつも、

「先輩、楽器に詳しいんですねぇ」

「そんなことないよ」

ただネットで調べただけだ。

「それよりもね、ここでは、これを使うの」

そう言って、優月は赤いタンバリンを手にした。

「えっ…?これはどうやって打つんですか?」

「ああ、これはね…」

優月は、タンバリンを右手に、シャカシャカと振り、左の掌に打つ。

しゃかしゃかぱん!しゃかしゃかぱん!

「へぇ…!」

優月は更に手首を振る。

しゃかしゃかしゃかぱん!しゃかしゃかしゃかぱん!

今度は細かい粒のような音が響く。その音は器用に速度を変える。タンバリンの細かい正確な音は、志靉の目を煌めかせた。

「…こんな感じかな。やってみる?」

「はい!ありがとうございます!」

優月に渡されたタンバリンを志靉は、楽しそうに叩く。何だか瑠璃に似てるな、と思う。


「他には何があるんですか?」

「他にはね、これかなぁ」

優月が手で音を出したのは、ボンゴという楽器だ。低い音と高い音が器用に響く。

「…あっ、やったことありますよ」

「そうなんだ」

「あの、お手本見せてくれませんか?」

すると彼女がそう言った。優月は「いいよ」と頷いた。実は定期演奏会でも使っている。その時はかなり手が痛くなったが。

優月は右の太鼓を両手で6発叩く。その音は速くて、1発にも聴こえる。そして5発目の左で皮を打つと同時に、右手で左の太鼓を叩く。

ポコポコポコパン!ポコポコポコパン!

途切れなく、絶え間なく響く音に、志靉は再び目を輝かせる。

「まぁ。これが基礎リズムらしいよ」

「そうなんですね!先輩、上手すぎませんか?」

唐突にそう言われて、困ったように笑う。

「そ、そんなことないよ」

「少なくとも、茂華中学校でも通用しますよ」

「なんか言われたことある…」

そう言って、優月はスティックを渡す。

「はい。手が痛くなっちゃうからこれ使ってね」

「わぁい。ありがとうございまぁす」

そう言って志靉は、ボンゴを叩く。

しかし、彼女も経験者だ。ただ音を鳴らすだけではなく、ひとつのリズムを刻んでいる。

「それ、何かの曲?」

「いえ。オリジナルです」

「へぇ」

オリジナルとはいえ、上手いからか、どこかで聴いたことある曲だと錯覚してしまう。

「さて、他にはやりたい楽器ある?」

「えぇー…」

志靉は少し迷ってしまう。何の楽器をやろうか?


その時だった。

「こんにちはー!」

「るせー」

やたらうるさい声の主が入ってくる。

「…あの、トランペットありますか?」

そのうるさい声の主が言うと、黒嶋氷空がトコトコとトランペットを手に歩み寄る。

「ありますー」

「あの中学でもトランペットやっていて」

「入部者?嬉しい!」

氷空が笑顔になる。


そしてもう1人の男の子は、ツカツカとドラムを占領しているゆなの方へ歩み寄る。

「あの…すみません」

「あ?1年生かぁ。どうしたの?」

「…体験したいです」

「えっ?ドラム?ゆ…」

その時、ゆなは初めて、優月が志靉を相手していることを知った。

「名前は?」

「久遠箏馬です」

「経験者?」

「いえ。和太鼓しか」

「あーん、私と一緒だ!じゃあまずは基礎リズムから!」

ゆなの指導のもと、久遠箏馬という男の子は、ドラムを刻み始めた。


「愛を込め〜て花束を〜」

その時、志靉は優月とグロッケンを打っていた。優月の歌唱に合わせ指で、志靉に叩く位置を指示している。

とその時だった。


「うっ!」

ドラムの爆音の波がこちらへ襲いかかる。

「…すげぇ音」

「えっ?ドラムあったんだ。私もやりたい」

しかし、結果、志靉がドラムをやることになった。


優月は、自分が使っている小さな黒いドラムに、腰掛ける。

「じゃあ、まずは基礎リズムからね」

「はぁい」

最初、志靉には慣らすべく、適当に叩かせているが、すぐに飽きたようで優月に基礎を教わっている。

基礎のエイトビート。そこにバスドラ2連打ち。

優月は平然とドラムを叩く。

「先輩、本当に凄いですね。習ってたんですか?」

「だと良かったんだけどねぇ」

優月は残念そうに、ゆなの方を見る。

習っていたのはゆなだ。


そうして、優月が志靉にドラムを教えていた時だった。

「曲がりくねる♪はしゃいだ道♪」

その歌声は美しく、優月のドラムに合わせるように響いた。

優月は、ド、ドドンとバスドラを右足で踏みながら、真上を見る。

「あっ…」

そこにいたのは顧問の井土広一朗だった。

「青葉の森で駆け回り♪」

すると優月がドラムを叩く手を止める。

「井土先生」

すると、志靉が「こんにちは!」と頭を小さく下げる。

「はい、こんにちは」

井土はそう言って、ニコリと笑う。柔和な表情を見ると誰もが安心する。

「ゆゆのドラム、上手でしょ?これでも初心者なんだよ」

井土がそう言うと、

「はい!」

と志靉は頷いた。

「う、上手いですかねぇ…」

優月が頼りなさそうに言うと、井土が頷く。

「優月先輩、すごく上手いですよ!多分、ここの打楽器レベルが高いだけですね」

「そ、そんなことないと思うけど…、そう思うことにする!」

優月はそう言った。

「しかもね、曲を始めたの、最近なの。それまではずっと基礎練習してたんだよ」

「へぇ…」

優月は、えへへと笑った。

井土にそう言われると嬉しい。


「あ、大橋さん、そろそろ見学終了時間なので、また明日にでも」

「分かりましたぁ。明日は曲を教えてくださいね。優月先輩!」

「いいよ。しーちゃん」

すると井土が愉しげに笑った。

「先輩、先生、さようなら」

「はい、さようなら」

井土が言うと、優月も「またね」と言い手を振る。すると彼女も手を振り返してきた。

それを皮切りに、1年生は全員帰っていった。


「ゆゆ、これから大変だね」

「えっ?」

井土は意味深に言っていたが、優月はイマイチ分からない。

そしてこの後、優月はとんでもない才能を発揮させるのだ…。


      〈3日目に続く〉

読んでいただきありがとうございました!

良ければ、リアクション、ポイント、感想をお願いします!



【次回】

優月と志靉 

優月が本気のドラムソロ

そして…ゆなと咲慧が再会してしまう…!!

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