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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
73/208

3話 東藤高校 部活動見学 [1日目]

東藤高校吹奏楽部の勧誘が始まります。

さて、今年はどんな部員が入るのかな?


《追記》

投稿日である今日の6月14日は新部長でもある明作茉莉沙ちゃんの誕生日です!

日日遅れても良いですから誰か祝ってくれませんか?by茉莉沙より

東藤高校。

4月の中旬頃になると、1年生は部活に入らなければならない。だが、この高校は部活動の勧誘にそれほど力を入れていない。


「来ないなぁー」

鳳月ゆなが、悶々とした様子でスマホを片手に、慌ただしく画面を打っている。

「…ホント」

颯佚もそう言って、サクスフォンを撫でる。

「やっぱ、去年が黄金期だったのかなぁ」

「それなー」

初芽とむつみもそう言った。

「黄金期…。それはめちゃくちゃ部員が入ってきた時」

悠良之介もユーフォニアムを抱えつつ、諦めていた。

「あれ?ゆゆとメイさんは?」

するとゆなが、初芽たちに訊いてくる。練習熱心なふたりがいないのは珍しい。

ちなみに、ゆゆとは優月の愛称。メイは明作茉莉沙の苗字から取っていた。楽団時代は、こう呼ばれていたらしい。

「あの2人なら、勧誘するって出ていったよ」

「えっ!?やったぁ!ゆゆめ、演奏下手なんだから、こういう時くらいは役に立ってもらわなくちゃ!」

ゆなが目の色を変えてそう言うと、

「ゆゆはちゃんとやってるよ。少なくともアンタよりはね」

とむつみが返してきた。

確かに、練習継続時間は優月が圧倒的だ。ゆなは、できてしまえば、すぐに遊びに走るので、優月の方が真面目だと見られる。

「ゆゆねぇ…」

心音がフルートケースを膝の上に置きながら、そう言った。



その時、茉莉沙は、裏庭でトロンボーンを吹きながら、去年のことを思い返していた。

スライドが伸び縮みする。それがトロンボーン。

温かい音が、外の空気に揺られ、どこまでも響いてくれる。


去年もそうだった。

岩坂心音。彼女が茉莉沙に話しかけてきてくれたのだ。彼女は最初、全く吹奏楽に興味など持たなかった。それでも何故か今に至るまで入って練習している。

去年は来てくれたが、今日は流石に来ないだろうな、そう思ったその時、


「…音、綺麗ですね」

誰かが話しかけてきた。いたのは可愛らしい女の子。だが1年生ではない。

「…恐れ入ります」

茉莉沙はぺこりと頭を下げる。すると、女の子がやや慌て気味に頭を下げる。

「…あ、いや、先輩なんですから、敬語使わないでくださいよっ!」

それを聞いて、茉莉沙は「そう?」と硬い口調を崩す。

「1年生じゃないでしょ?」

茉莉沙は気になったことを単刀直入に訊ねる。

「は、はい!私、凛良高校から転校してきた加藤咲慧です!」

「かとうさえ…さん?」

「はい」

の長い髪がそっと揺れる。

「あの、私、アルトサックスやっていて…。もしご迷惑じゃなかったら、一緒に吹いてくれませんか?明日にでも…」

今年はそのタイプで来たか…、と茉莉沙が言うと、

「あっ!ご迷惑でしたか?」

と訊ねる。しかし、茉莉沙は首を横に振る。

「全然大丈夫。アルトサックスは趣味?」

「あっ!完全に趣味です!凛良で1年、吹いていた程度ですが」

「ふふっ、そっか」

茉莉沙は真紅の瞳を細める。物腰柔らかそうに笑った。

「なんか、吹いてほしい曲とかある?」

「えっと…じゃあ、お任せします!」

「…うーん。取り敢えず、今すぐに吹けそうなのは…」

茉莉沙は楽譜をパラパラと捲る。

すると、

「先輩って、何かしてますか?役職」

「うん。部長してる」

「えっ!?そうなんですか!?」

「私はそこまでやりたかった訳じゃなかったんだけどね…。先代の部長から勧められちゃって」

そして、茉莉沙はトロンボーンを構え、曲を吹く。

その曲は、咲慧にエールを送るものだった。


「もしかして、恥ずかしいか青春は、ですか?」

「そう。いい曲だよね」

「はい!私、この曲大好きなんですよ!」

随分と威勢のいい後輩だな、茉莉沙はそう思った。


すると、携帯から電話がかかってくる。

「ちょっと失礼」

茉莉沙は通話に出る。

「えっ?1年生が来た?トロンボーンがやりたい?…了解しました」

通話を切った茉莉沙は、

「ごめんね。音楽室に戻るね」

そう言って咲慧に手を振る。

「はい!ありがとうございました!」

咲慧がそう言うと、茉莉沙はトロンボーンと譜面台を仕舞って、昇降口に戻って行った。



そして、音楽室に戻ると、今まさに、トロンボーンを吹きたいという1年生がいた。

「ただいま」

茉莉沙はやや駆け足に戻ってきた。

「あっ、突然、お呼びして…ごめんなさい…」

するとボブカットの女の子が小さく頭を下げる。茉莉沙も下げ返した。

「いえ、お名前は?」

茉莉沙が訊ねると、女の子は恥ずかしがる様子もなく、

藤原(ふじわら)美鈴(めいりん)と言います。中学校からトロンボーンを吹いていて…」

と答えた。

「へぇ。そうなんですね」

茉莉沙は返事すると、金色に光るトロンボーンを手にした。

「では、吹いてみましょうか」

茉莉沙の柔らかい声に呼応するように、美鈴(めいりん)は頷いた。


「…すぅ」

美鈴がトロンボーンのスライドを引く。すると、音がゆるりと出る。しばらくすると、ドレミファソラシドの音を出す。

「うまぁ」 

茉莉沙はそう言うが、他の部員は物足りないように思う。それはきっと茉莉沙の技術が人並み外れているからだろう。

「えっと…どうですか?」

「すごく上手いですよ。私以上」

茉莉沙はお世辞も含めたその言葉を、美鈴に笑顔でぶつける。

「茉莉沙…先輩も吹いてみてください」

すると美鈴は、容赦なく茉莉沙に楽器を押し付ける。やたら距離感が壊れてる、と茉莉沙は思いながら、トロンボーンを構える。

「すーっ…」

その時、飛び出したのは、ドレミファソラシドの綺麗で澄んだ音だった。

そして一切の躊躇いもなく、『きらきら星』を吹き始める。その音の最中は、誰ひとり何も喋らなかった。

「えっと…こんなものしか吹けません。はい」

茉莉沙はそう言って、遠慮がちに笑った。しかし、とてもそうとは思えなかった美鈴は、茉莉沙に、

「先輩!音大目指してますか?」

と詰め寄る。しかし、茉莉沙は冷静に、

「いや。医大目指してます」

と返した。

ひとりおかしい、ゆなが笑いながら言う。しかしむつみたちは「そんなことないもん」と取り繕うように言う。だが、実際その通りだ。

県内でもトップレベルのトロンボーン奏者の練習メニューで効率的に練習する茉莉沙の実力は、飛び抜けて高い。しかも、基礎練習と応用練習を絶対に欠かさないので、どうすれば良い音が吹けるか、無意識に分かってしまうのだ。


「…さっすが、部長」

美鈴が恐れ入りました、と言わんばかりに、頭を下げる。

「ふふ。部長って言っていただけて嬉しいです」

茉莉沙はそう言ってペコリと頭を下げた。恐らく彼女は自分が上手いという自覚が無いのだ。




その頃、優月は階段を上りながら、考え事をしていた。

「はぁ…。やっぱ、茂華中から来た子はいないのかぁ」

優月が残念そうに肩を落とす。

その時、

「あ!優月くん!」

誰かが話しかけてきた。しかし、誰かと考える間もなく、すぐに分かる。

「咲慧ちゃん」

優月が言うと、長い髪を垂らした少女がくすりと笑った。

「…あの、音楽室ってどこなの?」

すると、咲慧が尋ねてきた。

「ああ、3階だよ。今から行く?」

「そっか!」

しかし、彼の親切心を遮って咲慧が言う。

「ゆなっ子も上?」

「鳳月さんなら、多分。まぁ、スマホやってるだろうけどね…」

「えっ?打楽器やりたい子とか来てないの?」

「うん。来てないの」

優月がそのまま返すと、咲慧が再びくすりと笑った。

「いっぱい人が来るといいね」

と彼女が言うと、

「鳳月さんみたいな人はちょっと困るけど…」

と本音をこぼす。

「わぁ。ゆなっ子可哀想」

咲慧はそれだけ言って、小さく手を振る。

「…あれ?音楽室には行かないの?」

「いや、今日はいいや。ゆなっ子には転入したのは内緒だし」

そう言って咲慧は優月から去っていった。

「部活動、頑張って!」

その可愛らしい表情。優月は思わず、

「うん!」

と大きな声で言ってしまった。


加藤咲慧。鳳月ゆなとは正反対な性格だな。

そう思いながら、音楽室へ戻って行った。

その翌日。状況は大きく一変するのだ。


       〈2日目に続く〉

ありがとうございました!

良かったら、

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【次回】

優月 真の実力は作中トップレベル!?

打楽器希望者現る!!



《今後の予定》


6月15日 優月の実力は作中トップレベル!?  

     打楽器希望者 大橋志靉と久遠箏馬


6月16日 咲慧とゆなが…再会してしまう

     優月の必死なドラムソロ!


6月17日 優月と箏馬 いよいよ邂逅!


6月18日 部活動見学編 最終日

     多数の入部者

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― 新着の感想 ―
うぉぉぉぉ予定が立て込んでたらだいぶため込んでたぁぁ とりあえず、遅れはしたけど6月が終わる前に言えてよかったってことで 茉莉沙さん、お誕生日おめでとうございます!!!
感想一覧
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