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吹奏万華鏡2  作者: 幻創奏創造団
部活動見学−春isポップン祭り編
72/82

2話 勧誘の始まり

《茂華中学校吹奏楽部員》


古叢井(こむらい)瑠璃(るり)

主人公。打楽器パート代表。主に鍵盤担当だがドラムが大好き。


指原(さしはら)希良凛(きらり)

瑠璃の後輩。文化祭では、瑠璃からドラムソロを奪った。打楽器奏者の弟と張り合っている。


伊崎(いさき)凪咲(なぎさ)

クラリネットパートリーダー。瑠璃と親友。



《新入部員》

末次(すえつぐ)秀麟(しゅうりん)

新1年生。茂華小学校で打楽器をやっていた。





「うわっ!吹部だ!逃げろ!」

こんな声が、とある中学校に響く。

その様子を遠目に見た少女は、

(今年も張り切ってるなぁ)

と思うしか無かった。




ー数日前…東藤高校ー

入学式を終えた優月たちは、次の演奏会に向けての練習をする傍ら、友達作りを楽しんでいた。優月に限っては、1年間、本気で吹奏楽部を楽しんでいたので、他のクラスとの関わりが少ない。


しかし… 

「ガハハハ…」

お菓子を食べながら、談笑する集団に優月は思い切り辟易した。

「何だこれ」

授業まであと数分なのに何をやってるんだ?この連中は?

結局、秒で友達作り(男子)はすぐに諦めた。

優月は諦めたように、手元の小説を広げた…。



茂華町にある茂華中学校。ここは吹奏楽の強豪校として有名だ。そして優月の出身校である。


そこでは入学式が終わると、吹奏楽部の皆々は忙しくなる。


入学式が終わり、数日後。

「瑠璃先ぁ輩!こんにちは!」

楽器室で楽器の掃除をしていた少女に、誰かが話しかけてきた。

「あっ!さっちゃん!こんにちは!」

と言って、顔を上げたのは古叢井(こむらい)瑠璃(るり)。3年生になった打楽器パート代表だ。

「あの、今年はパーカッションも勧誘とかするんですか?」

後輩の指原希良凛が訊ねると、瑠璃は丸みを帯びた顎に「うーん」と指をくっつけ、

「一応、しょうかなぁ」


この中学校は、勧誘が激しいことで有名だ。各パートごとノルマを決めて、その人数は確実に体験させる。

「じゃぁ〜、行きますかぁ〜!」

希良凛がそう言って、軽々と腕を振り回す。

「ちょっと待って!」

「えっ?」

そんな彼女に瑠璃は自身の経験を語る。

「私が去年、迫るように誘ったら、結構怖がられちゃったから、少し様子を見よう」

すると、ムスッと希良凛は頬をふくらませる。

「先輩、愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶんですよ!」

と不満げに言われると、瑠璃は口元をムズムズとさせる。

「そ、そうかもしれないけど、怖がっちゃうと意味ないからっ!」

瑠璃が荒げるように言うと、希良凛はびっくりしながらも、

「はーい…」

と彼女の意向に従うことにした。


その時、顧問の笠松明菜が話しかけてきた。

「古叢井さん、指原さん。これ、演奏会の楽譜」

そう言って、渡したのは『ダンスホール』の楽譜だった。

「古叢井さん、申し訳ないけど今回も」

「え、えぇ…。はい」

瑠璃はその楽譜を見て、顔をしかめる。

(最近、グロッケンとかビブラフォンばっかり…)

すると希良凛は「ドラムだ〜」と楽譜をファイルに入れる。


瑠璃は正直言って、鍵盤楽器が苦手だ。どちらかと言えば、いや、圧倒的にドラムなどの皮楽器が好きだ。

少し不満はあるが、声に出している暇は無い。



こうして、勧誘が始まった。

ちなみに、トランペットパートの同級生が強行したことを皮切りに、吹奏楽部員と新1年生の鬼ごっこが始まった。


その様子を音楽室の大窓から瑠璃は、

「バカじゃないの…」

と頭を押さえる。その時、クラリネットを持った女の子が、

「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ…」

と呆れ気味に言った。

「あ、凪咲!」

瑠璃は、クラリネットを手にした伊崎凪咲を見る。

「もしかして、さっちゃんに、この言葉教えた?」

「うん。図書室で読んだ本に書いてあったの」

「お前かぁ」

瑠璃はそう言ってカラカラと笑った。しかし、凪咲は深刻そうに俯く。

「んで、どうするの?河野のバカが暴れるせいで、音楽室にすら来なくなっちゃったけど」

すると、瑠璃が「お口悪いよー」と言って、音楽室を出ていった。


(仕方ない…。ここは私が)

瑠璃は、高ぶる心臓を抑え、冷静な表情をする。敢えてドラムスティックすら握っていない。

この方法は、優愛から学んだものだ。


榊澤優愛。今はもういない瑠璃の先輩だった。出会った時から引退するその日まで、面倒を見てくれた姉以上の存在だった。

瑠璃自身も優愛に誘われた。そのまま太鼓目当てに入部した。あの時、優愛がスティックすら持たなかった理由。それは多分、逃げる1年生に恐怖を与えないためだろう。

今なら分かる。


「…とはいえ、私みたいな子なんていないかぁ」

瑠璃はそう言ってため息をついた。

すると、ひとりウロウロする男子をみつけた。

シューズの色は緑。1年生確定だ。

「こ、こんにちはぁ」

瑠璃は、義務感だと自分に偽り、彼に話しかける。

「あっ、こ、こんにちは」

その男の子は、どこか可愛らしかった。黒縁の眼鏡が合う男の子。

「えっと、体育館の近くにいたけど、運動部志望かな?」

瑠璃は冷静に訊ねる。

「いえ。違います。あのお姉さんは何部なんですか?」

お姉さん?瑠璃は心臓がキュッとなった。

「えっ…とね、吹奏楽部だよ」

すると男の子の表情が変わる。何かに恐れている。

「…が、楽器は?」

男の子の瞳が大きく震える。怖い。その感情は瑠璃には痛いくらい分かった。

だから、刺激しないように、

「パーカ…、打楽器だよ」

と笑って答えた。

すると男の子の肩から、すっと力が抜ける。取り敢えずは逃げなさそうで安心した。


「よかった…。お姉さん、お名前は何と言うんですか?」

「古叢井瑠璃だよ。瑠璃!」

瑠璃はそう答えた。すると男の子は、

「僕は末次(すえつぐ)秀麟(しゅうりん)です」

と答え、小さく頭を下げた。


末次(すえつぐ)秀麟(しゅうりん)。初めて聞く名前だ。

「そっかぁ。楽器の経験は何かあったりする?」

「…えっと、打楽器やってました!」

それを聞いて瑠璃は、更に前のめりになる。

「えっ…!何を中心に?」

「バスドラとかシンバルとか…あとはグロッケンです」

それを聞いて、瑠璃はほうほうと頷く。小学校のブラスバンドではオーソドックスな方だろう。

「あの!すみません!」

すると秀麟が頭を下げる。

「僕、友達からこの中学校は、勧誘が有無を言わさずで、1年生は連れ去られるという話しを聞いていて…」

「なるほどねぇー」

瑠璃は苦笑した。

「僕、早く打楽器やってる先輩に挨拶したかったんですよ!だから、他の楽器に捕まるわけにはいかなくて…」

「…捕まっても事情を話せば分かってくれると思うけど…」

しかし、『ノルマ』という言葉で全てを察した。多分、パートによっては、すぐに解放してくれないだろう。

そう思うと、瑠璃は少し嫌な気分になった。

「分かった。まぁ、他の部活も見たいでしょ?それからでいいよ。待ってるね」

そう言って、瑠璃は手を振ると蝶のように立ち去って行った。

可愛らしいな、秀麟はそう思わずにはいられなかった。



そして、秀麟が来たのは、それから翌日のことだった。

「こ、こんにちは…」

遠慮がちに男の子が入ってくると、希良凛が、

「こんにちは」

と笑う。その人懐っこい笑みに、秀麟も思わず、笑みが溢れた。

「お名前は何?」

希良凛が訊ねると、彼は、

「末次秀麟です。えっと…お姉さんは?」

と疑問形にして返した。

「えっ…!?お姉さん!?ヤダ!嬉しい!♪」

すると希良凛が飛び跳ねた。

「秀麟君、私は指原希良凛だよ!さっちゃんって呼んでね!」

息巻いて言われるも、彼は、

「さっちゃん先輩!宜しくお願いします」

と冷静に返した。

「…てか、指原って…、あれ、去年の演奏会で会いませんでしたか?」

それを聞いて、希良凛だけが思い出す。

「そういえば!秀麟君、サッシンやってたよね!」

「はい!」

しかし「…えっ?」と瑠璃は分からなかった。


去年の10月。茂華小学校、中学校、高校の吹奏楽部にて合同演奏会があったのだ。ただ、瑠璃はドラムパートで、彼女たちとは別練習だったので、顔を覚えるほど話すことはなかった。


「それで、あの…瑠璃お姉さん」

すると、秀麟が瑠璃に視線を向ける。

「…この1年は、瑠璃お姉さんに、任せます」

「えっ?任せるって?」

瑠璃には意味が分からなかった。

「だから、何事にも瑠璃お姉さんの言う通りにします」

「それは困るなぁ…」

瑠璃が顔をしかめようとすると、希良凛がドスンと瑠璃に抱きついてくる。珍しい。

「先輩!それってつまり…」

《先輩の苦手な楽器もやってくれるってことですよ》

あくどい笑みで希良凛が言うと、

「いやー、それは嬉しいけど」

と言う。しかし、秀麟のキラキラとした瞳を見ると、無下に断ることもできない。


「分かったよ。宜しくね」

瑠璃はニコッと笑うと、秀麟は「はい!」と言った。

「では、何から…」

すると、秀麟が手慣れた手付きで、スティックを握る。学校のものだ。

「先輩方、ドラムやってみても良いでしょうか?」

「あ、いいよ!」

すると、秀麟の握るスティックが唸りを上げる。

バシィーン!!と何かが破裂したかのような音が響く。バスドラの激しいリズムが、楽器室の空気を歪める勢いで解き放たれる。


思わず、ふたりはドン引きしてしまった。楽器を破壊しかねないくらいの爆音だというのに、全く壊れる予感がしない。

そして、1番恐ろしいのが、音が寸分狂わず、正確だということだ。


「てか、この曲」

その時、瑠璃が気付く。

「東京スカパラだ…」

それは、かつて彼女が演奏した『東京スカパラダイスオーケストラ』だ。何と完全に模写している。多少リズムは違えど、演奏に投入しても問題無いくらいだ。ドカドカドゴ!とタム回しさえも、小学生離れしていた。


だが一通り、叩くと、秀麟は恥ずかしそうに縮こまる。

「ああ…っ。いつもの癖で…。本当にすみません」

秀麟が謝ると、希良凛がパチパチと拍手した。

「すごく上手い!!」

「いや、あのこんなの吹奏楽で使ったら、怒られます」

確かに…、ふたりが思うくらい、音は大きかった。未だ耳鳴りがする。


こうして、秀麟は一通り、体験を終えた。

「あの…先輩方、入部したら宜しくお願いします」

「宜しくね」

瑠璃と希良凛がそう返すと、彼はトコトコと去っていった。



「すごい腕だったね」

見送ってしばらく経った頃、瑠璃が言うと、希良凛も頷いた。

「でも、瑠璃先輩にもやらせたら、あれくらいやりそうな気はしますよ。私、莉翔の演奏より、瑠璃先輩の方が上手いと思ってますし」

「それは、大袈裟だよ」

瑠璃はそう言って、青い空が写された窓に、手をかけた。

(でも、本気になれば…私はあれ以上…)

その時、彼女が窓に向けた顔は、悪魔が宿ったような顔だった。


新体制の吹奏楽部は、今まさに幕を開けたばかりだった。

だが、瑠璃たち茂華中学校に、暗い絶望の壁が襲いかかる…。

ありがとうございました!

今後も『茂華中学校編』も投稿していこうかな…と思っていますのでよろしくお願いいたします!


(追記) 末次(すえつぐ)秀麟(しゅうりん)って名前、ダサくない??よね?



【次回】

東藤高校 新入部員勧誘編 スタート!!

新部長 明作茉莉沙の真の実力!

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