1話 新たなる吹奏楽部
《東藤高校吹奏楽部員》
ー新2年生ー
小倉優月 パーカッションパート
主人公。優しい性格で1年生の面倒見係。
鳳月ゆな パーカッション・ドラムパート
面倒くさがり屋。性格が悪いが何故か人気。
夏矢颯佚 サックスパート
吹奏楽の超強豪校の神平中学校出身。
岩坂心音 フルートパート
俺っ子。ゆなからは略称大臣と言われる。
ー新3年生ー
明作茉莉沙 トロンボーンパート
新吹奏楽部の部長。元トップの打楽器奏者。
井上むつみ オーボエパート
新吹奏楽部の副部長。アルビノ体質で白い髪に紅い瞳をしている。
初芽結羽香 フルートパート
部内でも良識ある方。非情に心配性。
ー新1年生・体験者ー
國亥孔雅
トランペット希望者。天龍に所属している。
諸越冬一
あだ名は「トウモロコシ」。國亥と不仲。
久遠箏馬
パーカッション志望。二重人格で過去に暴力問題を起こしていたらしい。
海鹿美羽愛
ユーフォニアム志望。優月のことが好き。
藤原美鈴
トロンボーン経験者。茉莉沙の過去を探っている。
大橋志靉
パーカッション志望。元々はチューバ担当だった。
加藤咲慧
アルトサックス奏者。曰く付きの元和太鼓部でゆなと同級生だった。凛良高校にいたが、地元の高校へ転校した。
のどかな町に合わぬ、物騒な音がする。
「…喧嘩とは邪なり」
男の子の肘打ちが、高校生の顔面を捉える。
「…ぐぎゃっ!」
そして、その場にいた悪漢の高校生、3人を制圧した。その少年は小学6年生だった。
「弟に手を出すな」
その後も少年は、誰かの為に悪漢を制圧する日々を送っていた。そんなものだから、人からの信頼というものはとっくに消えていた。
学業、喧嘩、和太鼓を重ねる日々。そして…
ー数年後ー
「2年生ぃ…」
小倉優月が、クラス表で自らの名前を探し出す。
【2年3組 5番 小倉優月 茂華中】
見つけた。
2年3組か、と優月はため息をつく。
「想大君と心音さんと降谷さんと同じクラスか」
優月はそう言って、階段を上る。
そして、2年3組教室へと入る。
すると、
「おはよ!」
小林想大が話しかけてきた。
「あ、想大君、おはよう」
小林想大。優月の親友で、つい先日まで吹奏楽部でホルンを吹いていた。だが、アルバイトを始めるという理由で、吹奏楽部を退部した。
「…今年は鳳月とは別のクラスになったなぁ」
優月はニヤニヤと笑う。
「そうだなぁ」
優月はゆなが苦手だ。何故なら、正直過ぎるかつ性格が悪いからだ。
「それより、今日も部活なのか?」
「うん。来週、入学式だからね」
「あー、そっか!」
その時だった。
「はい!おはようございます!」
うら若き女性が教室に入ってきた。
「…あの先生って」
「鎌崎先生だね」
優月たちは、その女性に見覚えがあった。
鎌崎紗耶。1年生の時は、数学の先生だった。
そうして、生徒が席に着席すると
「鎌崎紗耶です。2年3組の担任になります。数学について、分からないことがあったら、何でも聞いてください」
と鎌崎が言う。
「…はぁ。耳が痛い…」
優月はそれを聞いてうなだれる。数学は大の苦手だ。恥ずかしい話、赤点をとることはザラだ。それでも得意の国語等で、何とか定期テストは持ちこたえていた。
「それに…」
「飯岡です。去年は1年1組の副担任でした。今年はちょっと厳しくしていこうかな…と思っていますので、宜しくお願いします」
ざわざわ…と辺りがざわめく。
(おいおい…)
これは今年は少しハードになりそうだな、と優月は覚悟した。
そうして、入学式の準備を終え、新2年生は音楽室へ一足早く、音楽室に到着した。
「はぁ…。飯岡めぇ、何が厳しくするだぁ」
開口一番、心音が文句を口にする。
「心音ちゃん、何があったの?」
そう尋ねたのは、黒嶋氷空というトランペット担当の女の子だ。
「いやね、ウチの副担、飯岡になったんだけどね、『今年からは厳しくしていきます』って」
「あらま」
「俺からしたら、恐怖だよ」
心音はそう言って、天を仰いだ。
その時、ガチャリとドアが開く。
入ってきたのは、新3年生だ。
「あら、1年生は来てたんだぁ」
そう言ったのは、井上むつみ。彼女の白い髪がひらひらと揺れる。
「そりゃそうでしょう」
すると女の子がむつみにそう言った。その人物が明作茉莉沙だ。
彼女は中学生時代、『御浦ジュニアブラスバンドクラブ』にてトップレベルの打楽器奏者だった。しかし、ストレスで鬱病を発症。今は何とか立ち直り、トロンボーンを吹いている。
「ホントだ」
初芽結羽香もそう言って、心音たちに手を振る。
すると「こんにちゃー」と心音が手を振り返した。そしてその手には、白い袋がぶら下がっていた。
「今日は懇親会だよー」
初芽はそう言って、お菓子の入った袋を取り出した。
「え!?お菓子!?」
そこに鳳月ゆなが、すかさず入り込んでくる。
「そうよ」
「やった」
ゆなは白い歯を光らせ、そう笑った。
「…にしても、菅菜がやめるなんて…」
「ホント。私も驚いた」
齋藤菅菜。大学への勉強の為にこの部を去った。
そんな彼女はアルトサックス担当で、ゆなとは中学生時代からの関係だった。ちなみに菅菜の方が年上だ。
そして他の部員も集合し、会は幕を開いた。
菓子の山を見て、井土が嬉しそうにこう言った。
「おやー、沢山のお菓子ですね。これだけあればドンドン食べられそうです」
「略して親子丼」
すると心音がそう言った。
「よっ!略称大臣!!」
ゆなが冷やかすと、フフンと心音は笑った。
「メニュー変わってる…」
3年生の河又悠良之介は、小さい声でそう突っ込んだ。
「では、今年もじゃんじゃん沢山の曲を、吹いていきましょう!」
その言葉から、懇親会は始まった。
「井土先生、このクッキー食べますか?」
優月は、限定物のクッキーを井土に見せる。
「ええっ!?ありがとうございます!」
すると井土は喜んで、クッキーを受け取った。
この1年で、優月は井土のことが更に好きになった。井土には、ふたつの借りがある。ひとつは、入学前、受験票を拾い渡してくれたこと。もうひとつは、定期演奏会でのアクシデントのことだ。演奏会には衣装を着て、演奏をする『衣装演奏』というものがあったのだが、メイド服に着替える際、着付け役が居なかったのだ。それを察知した彼は、ギリギリまで時間を稼いでくれたのだ。
その借りは、演奏で返そう。そう思っている。
「優月君、じゃがりこあるぞ。サラダ味」
その時、夏矢颯佚が話しかけてきた。彼は吹奏楽の強豪、神平中学校出身だ。
「はぁ…。菅菜先輩、退部しちゃうなんて…」
「僕もだよ。想大君が…」
想大と菅菜は、部内でも愛されていただろう。だからこそ、寂しさが増すのだ。
「…所で、部長と副部長は誰なんですか?」
ふと、思い出した優月が井土に訊ねる。
「ああ、それですねぇ…」
すると井土が黒板の前に立つ。
「さて、部長と副部長を発表します!一旦、こっち向いてー」
井土が独特な仕草で手を振ると、皆が視線を向ける。
「さて、まず令和7年度吹奏楽部部長は、明作茉莉沙さんです!」
「!!」
茉莉沙は驚いたのか、瞳を大きく開かせる。
「あれ?言いましたよね?」
「あ、はい。いざ言われると…というやつで…」
茉莉沙自身、驚いているようだ。
「それでは副部長は、井上むつみさんです。他は全員、平部員となるでこぜぇます!」
それを聞いて皆は拍手をする。だが、ゆなは、
「また、口調が…」
と彼の独特の口調に呆れていた。
「それと今年からは、方針を変えます。まず、人数難なので、できる限り勧誘をしてください。去年みたいなへなちょこ勧誘はしないで頂きたい」
それを聞いて、むつみたちがムスッとする。
「そして、楽器は、打楽器、ユーフォニアム、トランペット、トロンボーン、そしてアルトサック…いや、それはいい。取り敢えず、その4つを選ばせてください」
「縛り有りかぁ…。きっつ…」
ゆなが怠そうに言う。
「まぁ、為せば成る!為さねば為されぬ!頑張りましょう!」
井土のその言葉に、素直に頷いたのは、井土LOVEな優月だけだった。
この後、入学式の練習をしたが、卒業式の時に全て練習し尽くしたので、特別なことは1つも無かった。
そして合奏を終えると、優月は音楽室でドラムの練習をする。本番で使うドラムが今は体育館なので、個人練習用の小さなドラムを使っている。
「ゆゆ、スネアの縁に当てる時は、スティックの腹で打つんだよ」
「あ、はい」
「…でも、覚えは早いね」
井土はそう言って、目を細める。
「…頑張らなきゃ、新1年生に追い抜かれちゃうよ」
それだけ言って、彼は音楽室を出ていった。
「…先生?」
優月は少し気になった。何故、あの時、アルトサックスはいらないといったのか。
しかし、その答えは帰り道に分かることになる。
約30分ほど練習した優月は、帰るために階段を下りていた。
「よし…!点描の唄は全部できた!あとは…」
その時だった。
優しい音が聴こえてくる。一瞬、茉莉沙のトロンボーンかと思った。だが音質そのものが違う。
彼はアルトサックスだと予想する。だが、颯佚じゃない。そして、菅菜でも無い。
…となると一体誰が?
優月は音に誘われるように、中庭へ行く。
「はっ…」
そこにいたのは、小さなサクスフォンを持った見知らぬ少女。そして何故か、ゆなと同じ雰囲気を放っていた。
「…あれ?キミ」
すると、少女がこちらへ振り返ってきた。
「…小倉優月君だったかな?」
「う、うん。えっと、誰から聞いたんですか?」
一応先輩かもしれない。優月は念の為、敬語で訊ねる。
「えっ?クラスメートがそう言ってたよ」
しかし、少女はあっけらかんとそう答えた。
「ク、クラスメート?」
優月は少し、見覚えがあるぞ…と思えてくる。
「私は、冬馬中学校出身の加藤咲慧っていうの」
そう言って彼女は、くすりと可愛らしく笑ってみせた。
「かとう…さえ…」
初めて聞く名前だ。
「私、元和太鼓部だったの。それでさ、鳳月ゆなって子、知ってる?」
「う、うん。てか、僕と同じ打楽器パート…」
「え?キミ、打楽器だったんだ!」
すると彼女は初耳そうにそう言った。
「私、アルトサックス吹くの好きでさ、もしかしたら吹奏楽部に入るかもしれないの。だから、その時は宜しくね。優月くん」
「う、うん…」
何だか、優愛とゆなを足して、2で割ったような少女だ。
元和太鼓部。つまり、ゆなの言っていた同級生とは、きっと彼女のことだ。
その後の入学式は無事終えることができた。
新入生は95人。優月たちはその全員の名前を覚えようとは思わなかった。
(加藤…咲慧…か)
優月は、音楽室に戻ったゆなを見つめる。かつてはゆなの友達だったようだ。だが咲慧はなぜ、この高校に転入してきたのか?
だが、優月と咲慧の関係は、思わぬ方へと進んでいくのだ…。
読んでいただき、ありがとうございました!
これからもご愛読いただけたら嬉しいです!!
【次回】
茂華中学校吹奏楽部 再始動
《今後の予定》
6月13日 [金] 茂華中学校吹奏楽部再始動!!
瑠璃の後輩 末次秀麟
6月14日 [土] 東藤にトロンボーン希望者が…
茉莉沙の真の実力
6月15日 [日] 優月の真の実力は作中トップ!?
打楽器希望者現る!
6月16日 [月] 咲慧とゆなが…再会してしまう
優月の必死なドラムソロ!!




