美術部と吹奏楽部の章
※東藤高等学校定期演奏会 【終焉の章】の続編です。
今回は、打ち上げ回と小林想大の過去編が両立しています。
OB・OGの合同演奏、その曲は『Mrs.GreenApple
』の『春愁』だ。卒業にぴったりの曲で、毎年この曲を卒業式で演奏していたようなので、3年生たちには馴染み深い曲らしい。
各管楽器が活躍するメロディーに仕立てられていて、ひとりひとりが音を吹き奏でる。
優月もサスペンドシンバルをマレットで、ゆっくりと打ち鳴らす。ゆなは鍵盤のビブラフォン。ドラムを打つのは優里奈だった。元々は退部してしまった美心がやる予定だったのだが、急遽、優里奈がやることになったのだ。
『大嫌いだ…だけど大好きだ…』
優月の耳には、何故か歌詞が聴こえてきた気がした。それはこの曲が、音楽が、大好きだからなのかもしれない。
そして、3年生の3人だけが整列した。
その時、井土が舞台裏に手招きをする。はやく出てきて、と察した誰かが、3年生の横に並んだ。
その人物は、田中美心だ。
すると、そこへ初芽結羽香、齋藤菅菜、小林想大、そして明作茉莉沙が順に並んだ。その手には花束が持たされていた。
そして、初芽から手紙を読む。
「雨久先輩へ。部長として、色々なことをしてくれてありがとうございました。先輩の時に優しく時に面白いところは、部員一同、救われたと…おも…います。これから…色々なご指導が受けられないのが、残念ですが、卒業してからも…がんばって…ください…」
初芽が泣いた。初芽は雨久にお世話になっていた。だからこそ、こみ上げるものがあったのだろう。雨久も耐えられなくなり、瞼を腫らして泣き出した。
「うっ…あ、ありがとう…」
その声は震えていた。
次は菅菜だ。
「朝日奈先輩へ。今までありがとうございました。いつも元気で優しくて、私が運搬に困っている際も助けていただいて、本当に助かりました。元気なその姿は、私たちも元気をもらいました。これからも頑張ってください…」
菅菜の声も徐々に震える。しかし、何とか読み切った。向太郎は「ありがとう」と花束を受け取った。彼は涙を流さなかったが。
「周防先輩へ。僕に色々なことを教えていただきありがとうございました。僕が初めてホルンを吹いたとき、音が出なくても、吹けるまで手伝っていただいたり、駄目なところは優しく教えて頂いたり、その恩は数え切れません。自分だけではなく、部員の体調も気遣ってくれたりの優しい先輩が大好きです。ありがとうございました」
想大は奏音の後輩だ。無数の思い出がこみ上げてくる。
「ありがとぉ…想大く…ん」
奏音は、演奏直後から涙腺が崩壊しているので、既に泣きながら、花束と手紙を受け取った。
(なんとかなった…)
ちなみに、この手紙は優月が書いたもの…とは言えないが、気持ちは本物だろう。
最後に茉莉沙が、美心の前に立つ。
「田中先輩。3年間お疲れ様でした。最初、鬱で少し苦しかった私にも、積極的に話しかけてくれてありがとうございました。私がパーカッションパートでは無く、トロンボーンを選んだ後も、色々と気にかけてくれて、私は部活を続けることができました…。最後の最後で退部せざるを得なくなったとは言え、田中先輩も私たち吹奏楽部のOGです。今後も大変なことがあるでしょう。ですが、持ち前の元気さと対応力で何とか頑張ってください」
そう言って、茉莉沙は花束と手紙を美心に渡した。
「先輩、見てましたか?」
茉莉沙は誰にも聴こえない声でそう言って、お辞儀をした。
「見てた。私の代わりに、ありがとう」
美心はそう言って、一筋の涙を流した。
「あと、私がここに参加できるように井土先生に頼んでくれてありがとね」
「いえ。『あの日』の約束ですから」
茉莉沙は文化祭前日の帰り道を思い出した。
すると、パチパチ…と拍手がホールいっぱいに響いた。
部員全員は前に一列に並んで、
『ありがとうございました!!』
と一同お辞儀をした。
その後、東藤町長のありがたい言葉を頂戴し、見に来てくれた観客をお見送りすることになった。
「優月先輩、どーして吹部に入らなかったの!?」
瑠璃が優月に突っ込む。いや、話しかける相手が違うだろう、と優月は思う。
「優月君、すごく上手かった。さっちゃんより上手いかもってくらい」
「え〜っ?そう?」
優月は訝しげに聞き返す。
「うん!茂華中学校でやってても通用したのにー!」
瑠璃は何故か悔しそうだった。
「1年目でこの演奏は凄いよ」
優愛がそう言って笑った。
「そうかなー?」
優月は、そうは思えなかった。
「けど、まだ瑠璃ちゃんの方が上だね」
そう言って、優愛は優月の肩に手を置いた。
「ハハハ…」
優月は乾いた笑い声を上げた。
その傍らでも、向太郎は堰を切ったように、泣いていた。
「ううっ…やめたくねぇ」
「先輩…」
悠良之介がなだめている。
それを見て、優月はこう思った。
3年生まで生き残りたいな、と。
こうして、楽器,照明類の運搬が完了したのは、夜の7時だった。そこには、OGと美心もいた。
「まさか、田中がいたなんて」
「呼び捨てすんなぁ!お前、OGにも呼び捨てしたんだって!?」
美心はゆなの髪をくしゃくしゃに回す。それでも、久しぶりにゆなと話せたことで、彼女は嬉しそうだった。
「うぉぉー!最後の最後も頑張るぅ!」
大きな段ボールを担ぎながら、向太郎はトラックのある搬入口を歩いていた。
「先輩、最後も凄いですね」
菅菜はそう言わずにはいられなかった。
こうして、学校に戻り、この長い1日は幕を閉じた…。
翌々日。
「さてー!打ち上げの日にちを決めまーす!」
井土が、部活の休みを取り消して、部員を集めた。引退したはずの3年生も何故か来ていた。
「水曜日、木曜日、金曜日のどれかを選んでください!」
井土はチョークでそう文字を書き出した。
「ちなみに、打ち上げは、叙々苑…」
それを聞いて、ゆなが真っ先に立ち上がる。
「やったぁ!!」
しかし、彼の話はまだ終わっていなかった。
「…では無く、御浦市の焼肉屋になります。6時から集合。8時までです」
結局、この時も賛成多数で金曜日になった。来週からは期末テスト前の週になるので、都合上、水木金曜日しか入らなかった。
金曜日。
優月は想大と共に、御浦市の通りを歩いていた。
「ここの近く、クリスマスの時に来たんだ」
想大がそう言うと、
「古叢井さんと?」
と優月が聞き返す。
「うん。お陰で超金欠。リア充も楽じゃない」
トホホ…と笑うので、優月は少し残酷だな、と思う。
「…あそこじゃない?」
しばらく歩いた優月は、赤い看板の店を指さす。
〘焼肉 華紅弥〙
看板には、黒墨の文字でそう書かれていた。
店内に入ると、団体席の方に雨久がいた。
さすが部長と2人は思う。
「あ、ゆゆとコバだ。そっちの席に座って」
「はい」
2人はそう返事して、雨久に言われた通りの席に座った。
そして、時間が来ると、部員一同が席に着いた。
優月と想大のテーブルには颯佚と向太郎と悠良之介が入った。
それぞれ、ドリンクバーで好きな飲み物を取り、向太郎が、
「乾ぁ杯!!」
と発生する。すると優月たちもグラスを上げ、
「乾ぁ杯!!」
と繰り返した。
「さてと、焼きますかぁ!ゆゆは何食べる?」
「あ…では…ハラミで」
「OK!俺はホルモンにする」
優月は想大と顔を合わせ笑う。
その後、向太郎は肉を焼きまくった。向太郎は本当にすごい、と誰もが思う。
「おぉ…食べ放題なのに、サラダ」
井土はそう言って、茉莉沙たちに話しかけていた。
「あっ、食べ放題か…」
茉莉沙は今更そのことに気がついた。
「遅すぎだろ…」
ゆながそう言うと、初芽と澪もクスクスと笑い声を上げた。
「じゃあ、ササミでも」
茉莉沙はそう言って、容赦なくタブレットを手に、注文し始めた。
むつみも雨久や菅菜たちと食べていた。
「雨久さん、次は何にしましょう?」
「ソーセージがいいかな」
そう言って、ソーセージを平らげる奏音を一瞥した。
女子たちも楽しそうだった。
一方、男子たち
「なぁ」
向太郎が想大に話しかけてくる。
「はい」
「何で、コバはゆゆと仲いいんだ?」
そう聞かれて、想大は、
「優月君とは、保育園で一緒で、中学校で再会して今に至る形です」
「へぇ」
すると優月が、
「想大君、僕と会ったとき、誰か分からなかったんですよ」
笑い交じりにそう言った。
「う…」
「しかも、最初、めちゃくちゃ喧嘩腰だったし」
「ご、ごめんて」
優月と想大は再会したあの日からのことを思い出した…。
ー4年前 R3年ー
美術部に入部した優月は、楽しそうに鼻歌を歌いながら、絵を描いていた。
その時、男子が優月の肩にぶつかる。
『痛っ!』
『あ、悪い』
その声と覚えのある声に、優月は驚いた。
なぜなら、ぶつかった男子が、保育園で友達だった小林想大だったからだ。
『小林…想大…くん?』
『えっ?君、誰?』
しかし、彼は優月に気付かなかった。
『えっ!茂華保育園の小倉優月!!』
すると徐々に記憶が戻った想大は『ああ!』と手をポンと打つ。
彼らは、6年の時を経て再会したのだ。
しかし、中学で再会した想大は、冗談混じりに悪口を言う男の子だった。
『お前、相変わらず身長、低いな』
そう言う彼の目は悪意に満ちていた。しかし、優月はその挑戦に乗ること無く、
『想大君は、身長高くなったね』
と言い返した。すると想大が、やや面食らったように、
『ま、まぁなー』
と返した。
(怒らないのか…)
『想大君、どうしちゃったの?』
すると優月が心配そうに尋ねる。
『は?』
『いや、口悪くなってるよ。想大君、保育園の時は優しかったじゃん』
当時の彼は、他校出身の生徒からは避けられていたのだ。
『そういう、君は、変わってないな…』
『ふふ。優愛ちゃんのお陰かな』
『ああ、あの子か』
想大は、何度か優愛と会ったことがあった。それも今や古巣の中だが。
『想大君、どうしちゃったの?』
優月は純粋に、彼の優しさを信じた。それが嬉しかったのか、想大の口調が幾分か柔らかくなる。
『…いや、まぁ、こうやって、印象に残して、仲良くなりてぇな…なんて』
『憎まれるだけだよ。そんなの』
優月は想大の肩をポンポンと叩いた。
『それにね、変わった子よりも優しい子の方が、友達なんて沢山寄ってくるよ』
優月はそう言って、優しそうに笑った。
想大にとって、優月が唯一、憎まれ作戦で仲良くなった友達だ。優しい彼を見守りたい、想大はいつしかそう思った。
こうして、優月と共に中学生時代は過ごした。その間にも、後輩である瑠璃の暴走や、優月と優愛の恋に巻き込まれたり、想像以上に楽しかった。
そして文化祭の後の進路決めの時だった。
『優月君は、どこ高にするの?』
すると、優月は迷いを言葉に出す。
『吹部が初心者歓迎なとこかな。茂華や御浦は強いし、そもそも学力的についていけるか。冬馬は茂華中からは誰も来ないから、人間関係が心配…。だから東藤かなぁ』
すると想大が意を決してこう言う。
『優月君。俺は優月君を応援するよ。だから、どんな進路でもついて行く』
『えっ?それはいけないよ!想大君、美術を勉強したいんでしょう?』
すると想大が頷く。
『この高校、美術も学べるらしいし、俺の偏差値なら行けそう。優月君が心配しなくていいんだよ』
そう言って、ニッコリと笑った。
(本当は、優月君と一緒にいたいなんて、言えないな…)
想大はそう心の中で言った。
こうして、ふたりは受験に合格し、無事東藤高校に入学したのだ。
優月の優しさが、彼の歪んだ人格を変えたのだ。想大はそんな彼を大切にすると、親友になった日から誓っていた。
そして、優月を見守るために、吹奏楽部に入部したのだ。だが、その必要はもう無いだろう。
ー現在ー
優月は優しい顔をした。
「でも、そのお陰で、古叢井さんと付き合えたんだもんな」
古叢井とは、瑠璃のことだ。10月の文化祭で、ウジウジしていた2人の両思いも遂に成就したのだ。
「おっ!彼女か!?」
と向太郎が間髪入れずに訊ねると、
「あ、はい」
と想大は恥ずかしそうに目を背けた。
初めて瑠璃と話したときも喧嘩腰…。確かに、そうだった…気がする。
こうして、打ち上げも終わった。
「会計が終わったので、みなさん、解散です!お疲れ様でした!」
井土がそう言うと、各々は帰宅した。
「なぁ、優月君」
駐車場を歩く優月に、想大がこう言う。
「俺さ…」
その一言は、優月の笑顔を消した。
「えっ?」
その一言をきっかけに、退部者が続出する。
そして、優月が…
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【次回・最終回】
卒業式で優月が… 退部者続出。
誰かが辞める衝撃の完結!
【続報】
吹奏万華鏡2 1話 『新たなる吹奏楽』
6月12日投稿予定!




